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Interview : February 3, 2012 @ 08:07

『人生はビギナーズ』公開記念──”マイク・ミルズ”監督インタビュー



自身の実体験を基に描いた新作映画『人生はビギナーズ』が、公開前にも関わらず、すでに話題となっている”マイク・ミルズ”監督。


ストリート系には、X-girlや、Supreme、Marc Jacobsなどのグラフィックや、”ビースティ・ボーイズ”、”ソニック・ユース”などのCDジャケットのアートワークなどを手掛けた、グラフィックデザイナーとしてもお馴染みだ。


そんな彼のシュールで、ポップな世界を描いた映画作品の数々は、さまざまな評価を得ている。


今回は、”マイク・ミルズ”監督に、自身の映画に対する思いや、新作映画『人生はビギナーズ』についてお話を伺ってみた。






─もともとグラフィックデザインなどをやっていたワケですが、そこから映画を撮ろうと思ったキッカケはなんですか?


子供のころからアートを作っていて、それが映像、映画に移ってきただけで、自分のやれることをやっているに過ぎないと思っていますね。
映画は、世界とコミュニケートする自分なりの手段なんです。
最初はスケートボードのグラフィックなどをやっていましたが、それが映画作りに代わったというだけで、作るものが変わっても、やっていることは同じだと思っています。


─あなたにとって映画とは?


ボクにとって映画は人と話す手段なんです。
それはビジュアル的なものでも、映画史的なものでも、美意識でもなく、人々と共有したり、コミュニケーションを取る自分なりの手法なんですよ。


─実体験を基にした今作ですが、映画にしようと思ったキッカケを教えてください。


父が同性愛者だとカミングアウトしたことがキッカケです。
そのとき父は75歳。
母とは45年も連れ添ったのに、根本から人生を変えた彼は、周囲を混乱させたし、その姿は痛々しくもあり、非常に滑稽だったけど、勇気をくれました。いままでに見たことがないほど、彼は生き生きとしていたんですよね。
だからボクは、どんなに恐ろしくても、うまくいかなくても、正直になれてなくても、飲み込めてなくても、そのすべてを書かなければならない。
そうすべき”時”が来たんだと感じたんです。


─脚本を制作する上で、いちばん気を付けたことは何ですか?


まずは、ナルシスティックになり過ぎないということ。そして、自己憐憫に陥りすぎない、それが大事なものであることを強調しすぎないということですね。
今作では、物語を作る段階において、人とコミュニケーションを取るということが大前提でした。だから、自分が見ているもの、自分が知っている人たちについてのドキュメンタリー映画的な手法を取り入れたんです。

同時にリアルなカタチで、あらゆる自分の欲望とか不安とか、それはもちろん父のものでもそうですが、彼が愛していたものをどう表現するかとか、、、または自分と同世代の人が、父のような環境にある人に対して感じた欲求や欲望、不安をどう対処するか。

それらをドキュメンタリー的な感覚で描いたんです。


─クランクイン前に、ユアン・マクレガーとクリストファー・プラマーのふたりに役づくりに関する手紙を出されていましたが、リハーサル、そして撮影現場ではどのようなやりとりをされましたか?


手紙は、自分の奥さんにどういうことをしたいかを説明するような感じで、すごくパーソナルに書きました。

リハーサルでも、脚本に従わなくて大丈夫だということ。キャラクターをどう表現して、何がそこで表現されるのかを考えてほしいと伝えました。とにかく役柄を感覚として身につけて、リアルな気持ちを感じてほしかったんですよ。

だから、キャラクターを理解してもらうために、実際に行動してもらいました。
例えば、ユアンとメラニーはジェットコースターが苦手だったのですが、マジックマウンテンに行ったときに、実際にふたりにジェットコースターに乗ってもらって、恋のはじまりの感覚とか、不安とか、興奮、そういう感情を経験してもらったんです。
実際の恋のはじまりは、楽しくもあり、興奮する要素もありながら、同時に不安とか、怖れとか、マイナスの面も入ってくるじゃないですか。
それを彼らにできるだけリアルに感じてもらうことが重要だったんです。
感情を理解してもらって、自由に表現してもらいました。





─リハーサル、現場で新しく生まれたコトはありますか?


実際の撮影では、5日間でユアンとクリスのもっとも重要な5つのシーンを簡単にリハーサルしてから、”順撮り”をしていきました。
彼らはすばらしい役者なので、彼らを退屈させたり、リハーサルのし過ぎで疲れさせないように気をつけましたね。

役に親しんでもらうために、ある日、ユアンとクリス、ふたりで一緒にデパートに買い物に出かけてもらいました。
クリスには、「君はゲイだから、若い男の子にモテるような服を買ってきてください」と頼み、ユアンには彼の買い物を支払う係になってもらったんです。
そうしたら、彼らは、スキニージーンズを買ったり、渡した1000$を使い切るまで買い物をしてきたんですよ(笑)。しかも、リハ—サルにギリギリまで。
とにかく、キャラクターとして生きる体験をしてもらいたかったんです。

メラニーに関しては、ハルが亡くなった後に、ユアンのオリヴァーと絡みはじまるのですが、一週間ほどリハーサルでクリスと同じように5つの重要なシーンを体験してもらって、それらかやはり”順撮り”していきました。

“順撮り”というのがとても大切だと思っています。
より意味深いものを理解できるし、役者や撮影クルーにとっても、体験を共有できる重要な方法ですからね。


─お父さんのカミングアウト後、お父さんとの関係はどのようになりましたか?
やはり映画のオリヴァーの様に憂鬱な時間を過ごされたのでしょうか?


まず、この映画と自分の人生の体験はちょっと違うかもしれません。
ボクには、7歳上の姉がいて、彼女に「パパはゲイだって知っているでしょ?」と話されたんです。
そのときは、母からその話を聞いていたわけでもなかったのですが、何となく感覚としては分かっていましたから、あまり大きな驚きはなかったですね。

父は実際にもとても優しくて、シャイな人で、多くを望まない人でした。
でも、母親と44年間も暮らしてして、突然、自分がゲイだとカミングアウトするに至ったわけですからね。
だから、父には「やりたいようにやったほうがいいよ」と話しました。

75歳という年齢でしたが、彼は自分自身を見つけたことで、とてもポジティブな時間を過ごすことができたと思うんです。
その後、彼はとても生き生きとしていましたし、普通なら怖いと思える状況でも、”生きる”ことを選んでいたのでね。
より多くのことを彼とコミュニケーションできるようになったので、自分との関係もとてもよかったですよ。


─この映画を作ったことで、何か自分の中で変わったことはありますか?


とてもパーソナルな映画なので、撮る過程で”何か”覚醒したのではないかと思われがちなんですが、そうでもないんです。

父との関係も、自分自身のことも、映画を撮る前の段階ですでに区切りがついていましたから。
ただ、この映画によって自分の監督としての立場とか方向性、仕事のやり方は変わったと思います。
さまざまな作業を役者と一緒にやったりと、リスクのある作品作りだったと思いますが、映画監督としての自信や勇気に繋がりました。
それに、観客ともより強くコミュニケーションが取れた、とても重要な作品になったと思います。


─ありがとうございました。






『人生はビギナーズ』





2012年2月4日より、新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー

公式サイト:http://www.jinsei-beginners.com/

>>>レビューはコチラ


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