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Interview : February 26, 2014 @ 15:30

“中島ノブユキ”に訊く、『clair-obscur』(その2)



“ジェーン・バーキン”のワールドツアーののバンマス、ピアニストをはじめ、さまざまなアーティストの編曲などもおこなう、音楽家の”中島ノブユキ”。


そんな彼が、満を持して2ndピアノソロ アルバム『clair-obscur(クレール・オブスキュア)』をリリースした。


今作は、繊細でありながら、底知れぬヒトのパワー、いや自然の底力的なモノを感じる、、、そんな作品となっている。



ひきつづき、”中島ノブユキ”さんに、本アルバムの制作のお話を中心に、中島さんのヒトとナリについてもいろいろとうかがってみた。






カネコヒデシ(以下、カネコ):
いままで弾かれたピアノのなかで、「ココのピアノはよかったなー」というような経験はありますか?


中島ノブユキ(以下、中島):
もちろんありますよ。
よく録音で使わせていただいているスタジオのピアノは好きです。
でも、やっぱりピアノってオモシロいとおもいますね。
“ジェーン( ・バーキン)”のツアーでヨーロッパとかアメリカとかをまわったんですけれど、
ドコに行ってもあらゆるレベルのピアノがあって、、、絶品のから、ヒドいのから(笑)。
ピアニストは、よほどのヒトじゃないと、自分のピアノなんて弾けないですから、
ソコに置いてあるピアノを弾くしかないのでね。
それをたのしんでいます。


カネコ:背負ってあるけるモノでもないですからねー(笑)。


中島:ねー(笑)。
でもね、今回は、即興の演奏も収録するというアイデアもあったんですけれど、
そのピアノに触れたときから、
考えていた楽曲を再度を練りなおしたり、
ピアノに触発されたことによってあたらしい曲がつぎつぎに生まれたりしたんですよ。





カネコ:以前、お話をお聞きしたときに、曲ができあがるインスピレーション的な部分、、、
いわゆる”神がおりてきた!”的なタイミングが、
「ぶっちゃけ締め切りです!」とおっしゃっていましたが、
今回はどのような感じで”神がおりてきた”のでしょうか?


中島:
今回の締め切りは、録音日だったワケですが、
ソコに向かってかなり加速度的に曲もできあがっていった感じです。
ただ、それは”追いつめられて”という意味ではなく、
頭の中でぼんやりした曲の断片とか、要素が空中に浮いているのですが、
それが締め切りというナタで振りおろすような感じで。。。


カネコ:
ズバっ!と一刀両断されるということなんですか?


中島:そう。
切断されるときに、曲がまとまるんですよ。
今作は、半分以上の曲が書き下ろしなんですけれど、
このアルバムの質感を決定づけているのは、
古い楽曲です。
アルバム最後の2曲は、譜面が発見されるまで自分にとってもわすれていた曲ですしね。


カネコ:
それが、約20年前の曲。


中島:
なんとなく楽譜棚の整理をしていたんですよ、
スコアやらパート譜やらが散逸してないかなとおもって。
そんなときに、偶然発見したんです。
で、弾いてみたら、いがいとオモシロいなと。
いまでは書けないし、
いまだったらこうはつくらないだろうという曲が記譜されていたんですよね。


カネコ:
ちなみに、今回のアルバムの第一印象は、春だったんですよね。
まだ雪がのこっている春の印象です。


中島:
それは、ちょうどいいですね、発売日的に(笑)。


カネコ:
ちょうどいいんですよ(笑)。
ちなみにそういう、いわゆる季節感みたいなものはなにかしら浮かばなかったんですか?


中島:
ボクね、よく自分のファーストアルバムから何枚かは、
なんとなく季節感をイメージさせている”フリ”をしていたじゃないですか(笑)?


カネコ:
“フリ”だったんですか(笑)!


中島:
ええ(笑)。
“フリ”というのはよくない表現ですけど、
たとえば曲が生まれた季節をタイトルにするとかはあるのですが、
あまり季節って関係ないんですよ。
夏のアルバムの制作は真冬に行っていますしね。
ただ、不思議なことにアルバムの中の一曲がある季節をイメージさせると、
アルバム全体がその季節感をヒトにつたえるということがあるんですよね。
たとえば、「秋のワルツ」とか、そういうちょっとしたコトが、
聴いてくださる方のイメージをひろげるのは、
すごくオモシロい現象だとおもいます。
ただ、残念な話だとはおもってほしくはないんですけれど、
自分はあまりそういう季節感を感じながら曲を書いたりってコトはほとんどないんですよ。


カネコ:場所をおもいうかべるとか、そういうコトもないんですか?


中島:
まったくない、とはいえないんですけれど。。。
こんなボクでも記憶をたどって、「あのときの風景が、、、」とか、
そんなコトをおもうときもあります。
ただ、曲をかいているときは、意外とそういうことがないの。
だからこそ、聴いてくれたヒトが、場所とか季節を感じたり、
記憶がよみがえるとかの感想を言ってくれることが、
とてもオモシロいし、ウレシイんですよ。


カネコ:
なるほど。
今回は街というよりは季節できたなーと、おもったんですよね。


中島:
それはウレシイですよ。


カネコ:
今作で、自分の中で印象的にのこっている曲はありますか?


中島:
自分では、あまりわからないですけれど、
録音してみて、うまくいったなーと思ったのは2曲目ですかね。


カネコ:
その理由は。


中島:曲づくりとしてずっと試みてて、
うまくいかなかったスタイルがあるんですけれど、
それがやっと完成したという意味で、なんです。
じつは、この曲ってメロディがひとつしかないんですね。
たったひとつのメロディが、調性を変化させながらかさなって、、、
そのかさなり方もあえてすごくシステマチックに。


カネコ:
なんだか、むずかしそうな感じですね。





中島:
いうなれば、そのプロセスさえ考えてしまえば、
曲そのものが自動的にできてしまうという、そういう曲。
それでいて、ガチガチの数学的な、硬質な構築美だけでできているワケではなく、
もっと感情にうったえるものというか、、、
その曲の成り立ちの構築性とそこから表出される叙情性の両立を目指している曲なんです。
コレは、コトあるごとに試みていた書き方なんですけれど、
それが曲としてはいつもうまくいかなくて。


カネコ:
それが今回はうまくいった?


中島:
そうです。
メロディをプロセスをふんでかさねていくと、
こういう曲になるという結実したモノが、この曲です。
ユルやかに、そしてじんわりと音がにじんで、
ふわっと終わっていくような曲なんですけれどね。
じつは、曲の構造そのものは建築的につくられている曲なんです。
それを見えないようにするのが大変でした。


カネコ:
なるほど。
その感じの手法をずっとやられていたんですね。


中島:
ボクが、数年来、書きつづけている
「プレリュードとフーガ」という曲集があるのですが、
特に「フーガ」の方で試みている構築性のひとつが枝分かれしたものなんです。
ライナーノーツにも書いたのですが、
曲作りの過程のなかで、自分自身が考えていることにはじめて気づくコトがおおいんですよ。
で、今回、気づいたのは、
楽器の属性に縛られない楽曲がいちばん大切だってコトだったんです。






(その3へつづく)
Photo by Masatoshi Yamashiro






□アルバム情報

『clair-obscur』






価格:¥ 3,000(税込)
レーベル:SPIRAL RECORDS(XQAW-1106)

>>>レビューはコチラ




□プロフィール

中島ノブユキ





作曲家 / ピアニスト
東京とパリで作曲を学ぶ。作曲家 / ピアニストとして 映画音楽~JAZZ~POPS~広告音楽~クラシック 等様々なフィールドで活動。2005年頃より主に菊地成孔 ペペ・トルメント・アスカラール、持田香織、畠山美由紀、ゴンチチらの作品に編曲家として参加。菊地成孔作品には作曲家としても楽曲提供した。またタップ ダンサー熊谷和徳と東京フィルハーモニー交響楽団が共演する「REVOLUCION」(2010年)では音楽監修/作曲、オーケストレーションを担当し た。
映画音楽として太宰治原作「人間失格」(荒戸源次郎 監督作品)を、またアニメーション「たまゆら」(佐藤順一 監督作品)の音楽を担当。2011年よりNHK-BSプレミアムで放送の番組「旅のチカラ」のテーマ音楽(『その一歩を踏み出す』)を担当。
近年は女優であり歌手でもあるジェーン・バーキンのワールドツアー「Jane Birkin sings Serge Gainsbourg」に音楽監督/ピアニストとして参加、世界27ヶ国を回った(約80公演)。東京とパリとを行き来しながら制作されたJane Birkin + Nobuyuki Nakajima 名義の作品「une petite fille(少女)」を kizunaworld org.より2012年8月発表。またリミックスワークとしては中島自身のリミックスによる「Thinking of you (NN’s Dreamy Mix)」が世界的DJ、ホセ・パディーヤのコンピレーション「Ibiza Sundowner Presented By José Padilla」に収録された。
ソロアルバムとして『エテパルマ』(2006年発表。バンドネオン、ギター、弦楽三重奏、ピアノ等の編成により自身のオリジナル楽曲の他、F・モンポウ、 V・モライス、D・エリントン等の作品を新たに響かせた作品)、『パッサカイユ』(2007年発表。前作の編成を踏襲しつつ、ラフマニノフ、ホレス・シル バー、トニーニョ・オルタ等の作品を編曲。自身の楽曲でも新たな地平を開く。)、『メランコリア』(2010年発表。より内省的に響きに装いが変化。自身 の楽曲の比重が高まる。)『カンチェラーレ』(2012年発表。C・ダレッシオ、A・ジョビン、J・S・バッハの楽曲から かしぶち哲郎の楽曲、そして自身の書き下ろし楽曲を含む自身初のピアノソロアルバム。ジャケットは鴨居玲の絵画。)がある。
2013年にはNHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽を担当した。2014年2月にスパイラルレコーズよりピアノソロアルバム『clair-obscur』(クレール・オブスキュア)を発表。
ライフワーク「24のプレリュードとフーガ」の全曲完成に向け作曲中である。
http://www.nobuyukinakajima.com/
Photo by Kenichi Aono


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