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Interview : March 24, 2015 @ 21:09

紐トーク Vol.01──カッティングエンジニア “西谷俊介”



世の中には、さまざまな職業が存在する。
そのヒトは、なぜその職業についたのか。

そのヒトを紐解く、新シリーズ「紐トーク」 。


第1回目の今回は、日本で唯一、アナログレコードを制作している
東洋化成 株式会社 ディスク事業部 レコード課カッティングエンジニアの”西谷俊介”さんに、
「カッティングエンジニア」という職業のお話を中心に、
現状のアナログレコード事情、アナログレコードの魅力についてなど、
いろいろと訊いてみた。





─「カッティングエンジニア」という職業とは、
どのようなコトをやられているのでしょうか?


西谷俊介(以下、西谷):
「カッティングエンジニア」とは、アナログレコードをつくる上で、
まったく溝のないラッカー盤というディスクに(音の)溝を刻んでいく、
いわゆる一番最初のディスクを制作する作業をするエンジニアのコトです。
レコード盤には収録時間によって
30センチ、25センチ、17センチとフォーマットサイズがあるのですが、
おあずかりしたマスター音源に対して、
そのフォーマットに合わせた設定をして盤に溝を刻んでいきます。






─西谷さんがそもそも「カッティングエンジニア」になろうと思ったキッカケは?


西谷:
じつは、ボク自身が以前、レコードをつくりにお客さんとしてこの会社を訪れまして、、、
現在の「カッティングエンジニア」の先輩、
“手塚(和巳)”にカッティングをしていただいたんです。
そのときに、後継者についてお話を聞いたのですが、
「いまはいないけれど、今後採用を考えている」と言われて。。。
「カッティングエンジニア」という職業にとても興味をもったので、
その後、ここの会社の採用情報にアンテナを立てていたんですよ。



─そういう採用情報はドコで探したのでしょうか?


西谷:
当時、採用情報はいわゆるリクルート系の採用誌だったり、
あとはファッション誌でも募集をしていたのですが、
ソコからですね。






─それで採用試験を受けられて?


西谷:
そうです。
通常どおりの採用試験を受けて入社しました。



─しかし、なぜカッティングエンジニアという職業に興味を持たれたのでしょうか?


西谷:
「この仕事を、自分も継承してつぎに繋いでいけるのであれば繋いでいきたい」と、
そうおもったんですよね。
通常は、このようなエンジニア職は、
電気系の専門学校を出ていたりしている方が多いのですが、
ボクの場合はレコード屋さんからなったというワケです。
時代によって、職業の採用のあり方も変わってきていますし。
いまはやりたいという”熱意”でその会社にはいるのが、
いい仕事のあり方なのかもしれないですよね。



─やはり、どの職業も”熱意”が最終的にいちばん大事なんですよね。
現状の東洋化成さんのアナログレコード生産事情について教えてください。


西谷:
ここ2年くらい、オーダーは日本だけではなく、
アジアを中心として、台湾、香港、中国、韓国、シンガポールといった国から、
東洋化成宛に音源が送られてきている状況です。
現在は、アジアのアナログの制作拠点になっていますね。
現状、ヨーロッパもアメリカも、ドコもプレス工場はいそがしい状態ですよ。






─それは、どのような理由からだと考えますか?


西谷:
一概には言えないのですが、音楽配信のカルチャーは世界的にもすすんでいるので、
デジタルで音楽を聞くというメディアレスになってきているのはたしかです。
以前のように、CDというメディアも配信カルチャーがすすむと生産数が減少しますよね。
ただ、一部の根強い音楽ファンが、音楽をカタチとして聴きたいというときに、
アナログレコードを選ばれるといった傾向が、
現状のいわゆる再燃化した状態になっているのではないでしょうか。
若い世代にとってのアナログレコードは、むかし懐かしいメディアというよりは、
あたらしいメディアとして手にとって音楽をたのしんでいるのかなと思います。



─なるほど。
いわゆる”再燃”というよりも、
むかしから根強いファンが買っているという状況というコトですかね。


西谷:
デジタルであれば配信、モノであればアナログレコード。
進化が止まったメディアと、進化しつづけるメディア。
音楽の聴き方が二極化しはじめて、だいぶ変わってきているのかなと。



─今後、音楽はどのようなカタチになっていくとみていますか?


西谷:
エンドユーザーのお客さんにとっては、
PCで聴くヒト、オーディオシステムで聴くヒト、ケータイで聴くヒト、
いろいろなカタチで聴き方を選べるので、
音楽はより聴きやすい状況になっていくのかなとかんがえます。







─西谷さんにとってのアナログレコードの魅力とは?


西谷:
いまって再生スタートボタンを押したら、
そのアルバムだったり、リストが終わるまで、
ほうっておいてもずっと音楽を聴ける状態なんですよね。
それに、車とか、ケータイとか、
そういったものからも安定して音楽を聴ける環境になっています。
でも、アナログレコードは針を置いたら、A面とB面があるので、
A面が終わったら自ずと針を上げて、
B面にひっくり返してまた針を落とさないといけないという”動作”がともなう。
いわば”ながら聴き”ができないカルチャーなワケですよ。
しかも、アナログレコードの片面には、だいたい20分くらいしか入らない。
人間の耳の集中力として30分くらいが限界と一般的に言われているので、
A面とB面で一度リセットして、またイチからスタートできる。
聞いていて耳も疲れないし、音楽に集中できるという面では
アナログレコードは音楽を楽しめるとてもいいメディアだと思っていますね。



─たしかにいちいち針を上げて、裏返すという”動作”があるので、
ちょっと面倒なメディアではありますよね。


西谷:
ひとむかし前は、「音楽鑑賞」が趣味の中に入っていた時代なんてありましたけれど、
そういった針上げるという”動作”もふくめて、「鑑賞」だったと思うんですよね。



─ふむ、そう思います。
ありがとうございました!







東洋化成 オフィシャルサイト:http://www.toyokasei.co.jp/

写真:岩佐篤樹





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