Interview : July 1, 2015 @ 19:36
紐トーク Vol.02──中島ノブユキ『散りゆく花』を紐解く その1
通算6枚目となるオリジナルアルバム『散りゆく花』を、自身で設立したレーベル「SOTTO」からリリースした、音楽家の”中島ノブユキ”。
2作つづいたピアノソロから一転、今作ではひさびさとなる”室内楽=アンサンブル”なサウンドを展開している。
いったい、どのような”思い”で本アルバムを制作したのか?
アルバムタイトルの意味は?
なぜ、自身でレーベルを設立したのか?
今回は、”中島ノブユキ”の『散りゆく花』を紐解く「紐トーク」。
─タイトルの『散りゆく花』ですが、由来はドコからキたのでしょうか?
“D・W・グリフィス”というサイレント映画の巨匠がいるのですが、
彼の作品で同名のタイトルがあるんですよ。
タイトルそのものはその映画からです。
─最初からこのタイトルでいこうと?
マスタリングのときに、そろそろ曲のタイトルを決めないと!とおもっていたのですが、
なかなか決められず。。。
夜中にサイレント映画を観ようとおもって、
家にあった『散りゆく花』のDVDを観ていたときに、
楽曲のタイトルとして、このタイトルがピッタリくる曲があるなと。
それが4曲目に収録されている「散りゆく花」ですね。
アルバムタイトルは、これまでも収録曲からとっていたので、
それなら「散りゆく花」がふさわしいかなと。
ちなみに、いままでではじめての日本語のアルバムタイトルなんですよ。
─そういえば、そうですね。
ナゼ日本語にされたのですか?
「SOTTO(ソット)」という自分のレーベルを設立してから、
はじめての自分のオリジナルアルバムでもあったし、
気持ちもあらたにということもあったんです。
でも、レコーディングの段階では、
別のタイトルでいこうとおもっていたんだけどね。
─ちなみに、どんなタイトル?
「スプリング・ナーヴァス」です。
─ああ!
“坂本龍一&カクトウギセッション”のアルバム『サマー・ナーヴァス』からインスパイアされたという、アノ曲ですね。
曲自体がインスパイアされているワケではないけれどね。
もともとはソレをタイトルにしようとかんがえていたんだけれど、
日本語のタイトルの方がいいかなとおもって。
それで、「散りゆく花」に。。。
─今回、ご自身で音楽レーベルを立ち上げましたが、それはナゼですか?
ここ最近、劇伴、、、
いわゆるドラマとか映画の音楽をやらせていただく機会がおおいんですね。
たとえば大河ドラマ『八重の桜』とか、あるいは映画『悼む人』とか、、、
ロングスパンでつくられてたり、上映期間も長いモノは、
「サウンドトラックをつくりましょう!」みたいになることもおおいんですね。
でも、単発のドラマ、たとえば一夜限りの1話だけとか、2時間だけとか、
そういった作品にも携わらせていただいているのですが、
そういうモノはなかなかCD化というか、音源化はされない。
─たしかにサウンドトラックとして、
CD化というか、フィジカルなものになるチャンスはなかなかないですよね。
それこそソロアルバムとおなじ気持ちで曲をつくっているし、
すごく気にいっている曲もあるから、
音楽をつくった者としては、モッタイナイとおもってしまいまして。。。
ナニか別のカタチでリリースできる機会、
そしてみなさんにも聴いていただけるような機会をつくれないかなと。
自分のレーベルを立ち上げてリリースできる場所をつくっておくコトで、
一夜限りで放送されて終わってしまう楽曲が、もういちど救われるんじゃないかなって。
─収録曲の「その一歩を踏み出す」は、
NHK-BSのドキュメンタリー番組「旅のチカラ」の主題曲ですが、
この曲、中島さんのコンサートとか、演奏会のときにはよく演奏されてますもんね。
この曲とかも「CDにならないんですか?」とか、問い合わせもおおかったんですよ。
そういう、ヒトからの声もレーベルをつくった要因のひとつです。
─やはり、曲に対しての思い入れは強いですよね。
やっぱり自分がつくった曲ですから(笑)。
どんなにちいさな曲であっても思い入れはあるのですが、
それがなかなかヒトの耳にとどかない。
だから、別のカタチ、例えばCD化するとか、配信するとかして、
聴いていただける機会がふえるというのは、作者としてはうれしいですよ。
そういうプラットホーム的な場所ができたらいいな、
というのが大きかったかな。
─今作でオモシロかったのは「エスペヒスモ」という曲ですかね。
いわゆる3曲の組曲になっている曲ですが、これはどういう考えでつくられたのですか?
もともと、作品が生まれた経緯は、
2014年の9月に東京オペラシティでおこなわれた、
バンドネオン奏者の”北村聡”さんのリサイタル『B→C』なんです。
その時に、委嘱曲としてこの曲が生まれたんですけれど、
もとはチェロとバンドネオンという編成の曲で、
自分でも気に入っていたんですよ。
ヒビキも厚みもあるし、場面の展開というか、情景も風景も展開するような、
もりだくさんな曲なんです。
この楽曲自体は単一楽章の曲なんですけれど、
アルバムに入れようとおもったときに、
せっかくなのでさらにより充実させたカタチで聴いてもらえたらいいかなと、
編成も大きくして、再編曲して、三楽章に分けたんです。
─なるほど。
それで三楽章の組曲にしたんですね。
場面がつぎつぎ目まぐるしく変わる曲なので、
そこをハッキリさせるために、楽章分けしたんですよ。
─今作では2曲、カヴァー曲を収録していますよね。
“パット ・メセニー”の「ラスト・トレイン・ホーム」と、
“アレックス・ノース”の「スパルタカス 愛のテーマ」ですが、
この2曲をカヴァーしようとおもったキッカケをおしえてください。
「ラスト・トレイン・ホーム」は曲としては古くからある曲ですからね、
いろいろな場所で聴いてはいたんです。
3年くらい前に、代々木八幡のカフェ「ニューポート」で、
たしか、”ツルちゃん(鶴谷聡平)”が「この曲、好きなんだよね!」って感じで、
さりげなくお店でかけてたんですよ。
その時に「こんないい曲があったなー。いつか演奏してみたいなー」とフッとおもった、
そんな曲だったんです。
─鶴谷さんがキッカケだったんですね。
アレンジに関してはどんなことをかんがえられたのでしょう。
原曲はドラムとか、ベースもはいったり盛りだくさんなのですが、
今回のアレンジではあまり装飾的な編曲にはもっていかず、
この曲がもともと持っている曲としてのうつくしさというか、素朴さというか、、、
だけど胸にうったえてくるナニかを、あたらしいカタチで提示できたらいいなと。
だから、”藤本一馬”さんのギターとピアノとのデュオという編成にして、
この曲のシンプルなうつくしさを聴いていただけるようなカタチにしました。
─「スパルタカス 愛のテーマ」の方はどうでしょう?
だいぶしずかなアレンジに仕上げてますが。。。
この曲も、いろいろなヒトに弾きつがれている曲ですよね。
─そうですよね。
さまざまなカヴァーがあったりとか、
いわゆる、ヒップホップのネタに使用されたりとかしていますけれど、
中島さんにしては意外な選曲だとおもいました(笑)。
ベタすぎる!とか(笑)??
─いえいえ(笑)。
別の曲をカヴァーしてくるのかな、とおもっていたので。。。
だから、この曲が収録されていて、逆に「おっ!」って、ちょっとアガりました。
たしかにこの曲はいろいろなカヴァーがあるんですけれど。。。
ただ、曲のシンプルなメロディに対して、
ジャズ的なアプローチで複雑な和音というか、ハイブリッドな和音というか、
そういう和音の構造をあてて、
この曲にあたらしい光を当てるというような方向性のカヴァーが、
たくさんあるようにおもえたんですね。
もちろんそれもステキなアプローチなのですが、
一度、あらためて原曲を聞いてみようとおもって、
映画を観なおしたんですよ。
あの長い、汗臭い映画を(笑)。
─オトコ臭い感じの(笑)。
ええ(笑)!
そうしたら、思いのほか曖昧なオーケストレーションがなされてて、
明瞭なヒビキで聴かせるという曲ではないようにおもえたんです。
ある種のユガミをともなったヒビキといっていいのかな。。。
音が割れているとかそういう意味ではなく、音の積みかさね的なことなんですけれど。
それが特殊な魅力をはなっているようにおもえてですね。
原曲のもっていたモノにちかいカタチのアレンジというかな、、、
そういう方向性にもっていったんです。
─ビートもなく、しっとり感の印象があって、
まさに「愛のテーマ」というアレンジをされたなと。
コレの”(金子)飛鳥”さんのバイオリンの音色が、ホントにキレイなんですよ。
─うつくしいですよねー。
これ以外の曲は、すべて書き下ろしですよね。
「エスペヒスモ」に関しては、リアレンジ、
あと「フーガ ニ短調」は以前書いていた曲ですね。

─収録曲のなかで、「コレ、推しだな!」とおもう曲はありますか?
ま、ドレも推しなんだけれど(笑)。
たとえば、「スプリング ナーヴァス」なんかは、
もともとアルバムタイトルにしようとおもっていたくらいだから、
推し曲っちゃ、推し曲なんだけれど。
ところが、あまりこの曲の話題を出してくれるヒトが、、、イナイのね(笑)。
あと、「木洩れ日」。
コレも自分としてはなかなかよくできた曲だとおもっているんだけれど、
やっぱりあまり話題にしてくれない(笑)。
─自分では「この曲!」とおもっていても、
意外と話題にならない場合って、、、ありますよね(笑)。
オモシロいよねー。
ヒトの気持ちにはとどいてくれているのかもしれないけれど。。。
ちなみに、「散りゆく花」という曲。
アルバムのタイトルにはなったけれど、ドチラかというと小品だし、
サラリと聴いていただけたらうれしいなという曲だったんです。
だけど、この曲がね、みなさんヒジョーに
「あの曲は中島さんのあたらしい感じだね!」とかいろいろ言っていただきまして。。。
とてもウレシイんですよ。
でも、意外でしたね(笑)。
─そうだったんですね。
個人的には「スプリング・ナーヴァス」推しだったのになー、と(笑)。
まっ、ほかにもいい曲がありますよ!というコトなんですけれどね。
「スプリング・ナーヴァス」は、
何度も聞いていただくなかで光ってくる曲なのかなと。
─ボク個人的には、「スプリング・ナーヴァス」がよかったんですけれどねー。
さて、ピアノソロ作品がつづいていましたが、
今作を室内楽(=アンサンブル)にした理由はナゼです?
前作、前々作ともにピアノソロだったというコトもあって、
その反動、、、ということもないけれど。
ピアノソロからはなれてやりたい、という気持ちはありました。
今回は、ピアノソロで弾いている曲は一曲もないんじゃないかな。
─そうですね。
せっかくレーベルもつくったし、ある種、先祖がえりというか、
“バック・トゥー・ベージック”じゃないですけれど、
編成的にはファーストアルバムの『エテパルマ』とほぼ一緒なんですよ。
─なるほど、たしかにあの雰囲気はつたわってきましたね。
ピアノがあって、バンドネオンがあって、ギターがあって、
コントラバスがあって、弦楽三重奏があってという。。。
『エテパルマ』や『パッサカイユ』は、
そこに合唱がくわわったり、曲によってサックスがはいったりがあったんですけれど、
今回は、バック・トゥー・ベージックを目指しながらもさらに室内楽というか、
よりクラシカルなアプローチをする楽曲でつくりたかったんですね。
それゆえに、固定メンバーで録音したワケです。
たとえば、『エテパルマ』や『パッサカイユ』は、
ひとつのアルバムにギタリストが4人ぐらい参加してもらっていたり、
ベーシストも何人も来てもらってという感じで、
曲ごとに演奏者に変わってもらったりしていたんですよ。
だけど、今作ではよりひとつのアンサンブルというか、室内楽というか、
チェンバーミュージックというか、、、
そいういったものを質感として目指したところもあったので、
固定メンバーでやってみたかったんです。
─メンバー的にはむかしから仲のいいというか、そういう方が中心なんですかね?
いわゆる、”縁”のある方というところはあるかもですね。
たとえば、ヴァイオリンの”飛鳥”さんとはじめてご一緒したのは、
彼女のコンサートにゲストとして出演させていただいて、、、
たしか2011年のはじめだったとおもいます。
それはおなじ年の4月に渋谷のクワトロで開催された、
“ジェーン(・バーキン)”の来日チャリティ演奏会のときよりも前なんですけれどね。
それ以来、アメリカツアーやオーストラリアツアー、そして日本でと、
ずっと一緒に演奏してきたし、
そのすばらしさに感動して『八重の桜』の録音のときにも
コンサートマスターをおねがいしたんです。
だから、今作でもぜひご一緒させてもらえないかなとおもって、
お声掛けさせていただいたんですよ。
基本はアメリカに住まわれているし、
世界中でツアーをされているような方なので、
なかなかつかまらないんですけれど、
わざわざ日本に来ていただいて弾いていただきました。
─バンドネオンの”北村聡”さんとは、”古い”お付き合いですよね?
“北村”くんとは、ファーストアルバムからですね。
カレの歌というか、音色というか、楽器としての歌のコトですけれど、
いつもあたらしいナニかを呼びおこしてくれるものがあるんです。
だから、今回もぜひおねがいしたかった。
─ギターの”藤本一馬”さんは?
“一馬”くんとは、
ここ何年間かナニかをご一緒したいとおもっていたんですよ。
でも、もしかしたら一緒にできる機会はあったのかもしれないけれど、
それをボクとしてはすこし温めたかったというのがあるのね。
馬喰町にあるごはん屋「フクモリ」で定例の演奏会『ピアノナ』で、
一馬くんと一緒にということをかんがえたこともあったし、
別のヒトからも「一緒にやってほしい」という声もあったんです。
で、カレとも「ナニかやろうよ!」という話になったんですよ。
ただ、おたがいが盛りあがりすぎちゃって、
「すべて書き下ろしで入魂のヤツをやろう!」とかなって、、、
気合いが入りすぎて、逆に立ち消えになっちゃったんですねー(笑)。
─ありますねー!
そういうコトって(笑)。
ねー(笑)。
あまりにもハードルを上げすぎちゃって。
ただ、そういうなかでもカレのギターはすごく好きだったから、「いつかは」と。
で、”畠山美由紀”さんのアルバム『レイン・フォールズ』で、
そのツアーだったか、その制作だったかわすれてしまったんですけれど、
編曲をやらせていただいたときに、
参加してもらうギタリストの話になって、
「ぜひ、一馬くんに!」とおもっておねがいしたんですよ。
そのあと、畠山さんのツアーだったり、レコーディングだったりで、
一緒にスタジオワークをやりながらカレのことをいろいろ知ったりする機会があって、
今回のアルバムにつながる”流れ”があったなと、、、いま、おもってます(笑)。
(その2へ つづく)
□アルバム情報
中島ノブユキ
『散りゆく花』

価格:¥2,778(税抜)
レーベル:SOTTO(STTM-1002)
>>>レビューはコチラ
「SOTTO」オフィシャルサイト:http://www.sotto.maison/
“中島ノブユキ”オフィシャルサイト:http://www.nobuyukinakajima.com/
This entry was posted on Wednesday, July 1st, 2015 at 19:36 and is filed under Interview. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. Responses are currently closed, but you can trackback from your own site.