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Interview : March 29, 2016 @ 18:06

紐トーク Vol.03──中塚武の『EYE』をヒモ解く(前)



音楽家の”中塚武”が、ソロとしては約3年ぶりとなるフルアルバム『EYE』を、2016年3月16日にリリースした。


さまざまなアーティストのプロデュースやアレンジ、CM曲、テレビ番組の挿入曲、アニメや映画などの劇中曲、ゲームサウンドなどを手がける、カレ。

音楽モノのウラには、かならずといっていいほど、その名前をみる。


バンド”QYPTHONE(キップソーン)”として海外レーベルからデビューし、作曲のほかに作詞なども手がけ、シンガーソングライターとしてのアプローチをはかった前作『Lyrics』から3年。

そんなカレが、ファン待望の新作をリリース。

ヒップでホップ、スウィンギングでダンシングなビッグバンドジャズ中心の内容となった今作。


今回は、前編&後編の2回にわたって、アルバム『EYE』の内容についてのおはなしを中心に、「”中塚武”とはナンゾや?」的な”中塚武”自身のヒトとナリにまでせまって、いろいろとお訊きしてみた。






─約3年ぶりとなるアルバム『EYE』をリリースしましたが、
このタイトル名はドコから来たのでしょうか?


タイトルが決まったのは、
曲もほぼ出来て、トラックダウンも目前みたいなときで、
最後の最後だったんですよ。
「そろそろ注文書を出さないと行けないな!」ってなって。。。


─締め切りってモノがありますもんネ(笑)。


そうです!
で、「タイトルわすれてた!」って(笑)。
それで、全曲を聴きなおしたときに、
なんかこう、、、ビジュアルにキタんですよねー。


─なるほど。


耳で聴いているのに目にキテて、それがオモシロくて。。。
それで、これは”EYE(眼)”がいいなと。
“EYES”だとロマンチックな感じがしてしまうので、
片目、目玉、EYE、、、という感じです。


─音的には、ビックバンドジャズが中心というか、、、
ビックバンドが好きなんですか?
もしくはジャズが好き??


ボクは、作曲をしていく上で、ジャズが基本言語だと考えていて、、、
表面的なアレンジではなく、メロディとコード進行の時点で、
ジャズのイディオムがキチンと入っているコトが大前提なんです。
それさえあればどんなにミニマルな音楽をやっていても、
土台がある音楽になる。

芸人で言うと、キチンと漫才ができるというのと一緒ですね。
漫才ができると寄席ができるワケで、いわゆる基本、基礎があるというか。。。
ボクの作曲家としてのジャズというイディオムは、それとおなじ感覚なんです。
音楽をつくるのにおいて、ジャズはひとつの大きな要素なんですね。


─そうなったキッカケみたいなモノは、ナニかあるのですか?


もともと”QYPTHONE”というバンドで、
サンプリングをつかったクラブミュージックみたいなところからデビューしているんです。
時代的にいわゆる「ハッピーチャームフールダンスミュージック(HCFDM)」が全盛で、
サンプリングのコラージュした音楽がイカしてた時期だったんですよ。
もちろんボクも大好きでやっていましたが、権利的な問題もあったりするし、
途中から音楽をやっているのか?PCをいじっているのか?
わからなくなってきた部分もあったり。。。

「いまはコレがクールだけど、ブームが終わったときに、
サンプリングミュージックとともに自分も消えてしまうのは困る!」と思ったんです。
ボクは作曲家になりたかったので、
土台がしっかりした音楽をやっていこうと思ったときに、
ジャズはハズせない!と。


─なるほど。


もちろん、その土台がクラシックのヒトもいるワケで、
そしてクラシックにはクラシックマナーがあるのと一緒で、
ジャズにはジャズのマナーがある。
その理論をキチンと知っておくコトで、
基礎というか、土台みたいな部分がちがってくるのかなと、、、
そう思えたのかもしれないですね。
とにかく、自分が一生音楽ができるようなモノをかんがえたときに、
それがジャズだったんですよー。


─音楽をはじめたもともとのキッカケは?


いわゆるバンドブームですね。
ちいさい頃、音楽は女子供がやるもんだと思っていたので、
ぜんぜん興味がなかったんですよ。
でも、笛(リコーダー)は好きだったので、
ゲームの音楽を笛で吹いていました(笑)。
ゲームはホントに大好きで、
大学を卒業後に
ゲーム会社の「ナムコ」(現 株式会社バンダイナムコエンターテインメント)に
就職したくらい。


─そうなんですね。


実家近くに仲のいい友達が住んでいたのですが、
彼は親がピアノの先生で、
小さい頃からバイオリンをやっているようなヤツだったんですけれど、
カレもゲーム好きで、
ふたりでよくドラクエのテーマ曲とかを笛で吹いていましたね(笑)。


─ゲーム全盛の時代でしたからねー。


そのうち、その彼はピアノで「グラディウス」とかを弾きはじめたので、
ちょっとムカつきましたけれど(笑)。


─ははは(笑)
バンドをはじめたのはいつから?


ちょうどバンドブームが来たときで、
みんなで「バンドをやろう!」というコトになったんですよ。
そうなると、だいたいボーカルとか、ギターとかって、早めにとられちゃう。
ボクは、笛(リコーダー)が好きだったから、ソレには興味がなかったんですよね。
でも、笛では参加できない(笑)。
だから、サックスをやろうと。
それで、お小遣いを10万円貯めて、
楽器屋さんに買いに行きました。


─これまた急な、、、かなり大胆ですねー(笑)。


でも、サックスって、当時最低でも20万円くらいで、そりゃ無理だ!と。
だけど、もう中学校の卒業生を送る会みたいなイベントで、
バンド演奏をやるコトが決まってしまっていたので、
お店のヒトに10万円で買える楽器を聞いたら「カシオトーン」だと。
だから「カシオトーン」を買ってかえりましたよ。
なので、笛以外でキチンとやった楽器は「カシオトーン」(笑)。


─なんだか、スゴく壮大なハナシですね(笑)。
ちなみに、そのときはどんな音楽をバンドでやられていたのですか?


“爆風スランプ”の「Runner」とか、当時流行っていた曲ですよね。
ボクは”サザン(オールスターズ)”が好きだったので、
“サザン”のバンドスコアとか買ってきたりして弾いてました。
ただ、ピアノは別ですが、キーボードって、
とくに「カシオトーン」なので、ソレ一台では全然演奏が成り立たないんですよ(笑)。
だから、”サザン”の曲をCDで流しながら弾いたり、
あとはゲームの「アウトラン」のサントラを流しながら弾いたりしてました。


─わかりますよ、ソレ(笑)。


ちなみに、ピアノって、、、最初は両手で弾くモノだとはおもっていなかったんです。
キーボーディストって、みなさん右手だけで弾いているイメージで、
クラシックは全然わからないし、しかもボクは左利きだし(笑)。
「左手の方がいいんだけれどなー」と思いながら、片手で弾いてましたよ。
両手で弾きはじめたのは、もうちょっと後になってからの話です。


─それが音楽をやりはじめたキッカケだったんですねー。
そういえば、中塚さんの楽曲って、なんとなくビートが早い感じの曲が多いですよね。
それってもしかして「ゲーム音楽の影響だったのかな?」と、いま思いました(笑)。
ゲームサウンドって、テンポがちょっと早いじゃないですか。
お話を聞いて、なるほど!とおもいました。


まさにそうですね。
まだキーボードは買ってないときの話で、
バンドブームのもうちょっと前の話なのですが、、、
中学生のときに「X68000」っていうパソコンを親に買ってもらったんです。


─「X68000」、、、ありましたネー(笑)!


アレ、「グラディウス」がついてくるから、どうしてもやりたくて(笑)。
最初は「グラディウス」をやっていたのですが、
そのうちプログラミングをやってみようとおもって、、、
でも、いくらやってもチンプンカンプンでウマくいかない。
ただ、音の方は簡単に出せたんですよ。
8音まで出せたので、笛で吹いたものを打ち込んで曲をつくったりして、、、
それが作曲のはじまりでした。
そりゃ、ゲームっぽくなりますよね(笑)。


─でしょうね(笑)!
ビートの早さもそうですが、ゲームっぽさというか、
このアルバムに関して言えば、音で遊んでいる感じがとてもつたわってきました。
ボーカル部分を早めたり、そういう”アソビ”をやっているのが、
いわゆる音楽大を出て、音楽畑でやってきた方、、、みたいな感じではないな、
というのが印象です。


そうなんですよ。
もともと、ゲームをつくる仕事がずっとやりたかったコトなんです。


─それはいつくらいから思っていたのですか?


小学生のころは「ゲームデザイナーになる!」って。
両親からは「絵も描けないのにデザイナーなんてヤメろ!」と言われてましたけれどね。
でも、ゲームのデザイナーというかゲーム企画、
いわゆるプランナーになりたかったんです。


─なるほど。


大学もそろそろ就職活動になった時期に、
ゲーム会社にそういう職種で入ればいいというコトがわかって、
なんとか『ナムコ』に合格したんですよ。
でも、バンドの方が忙しくなったので、
3年で辞めざるを得なくなってしまったんですけれどね。


─ゲームサウンドの方には興味がなかった?


サウンドってゲームの一部なんですよ。
ビジュアルがあって、プログラマーがいて、サウンドはその一部。
すると全体を見られないワケですよ。
ボクは、ドチラかというと全体を見たかったんですよねー。

だから、ゲームのなかの音楽だけをやるというのはちょっとちがうと。
それでゲーム企画だったんです。
自分のなかでセカイをつくる感じ、、、ゲームで言うと『ポピュラス』みたいな(笑)、
自分が神で、すべてを司るというのが好きみたいなんですよ。


─もしかして、それって、
いまのビッグバンドというカタチにつながっていく感じなのでしょうかね?


そうですね、、、
いわゆる音楽からのジャズオーケストラというよりは、
司りたいからというのが強いカモしれないですねー。


─ビッグバンドにこだわってますよね?


ビッグバンドってカラフルだし、
本当は、弦も入れた完全なジャズオーケストラみたいなコトをやりたいんですけれどね。





─今回は、ゲストミュージシャンにいろいろな方がご参加されていますが、
みなさんはもともと一緒にやられてた方がおおい感じでしょうかね?


そうです。
僕のなかではもうバンドメンバーとして考えてますね。
いつも一緒の人たちとやることによる信頼関係って、大事じゃないですか。
でも、音楽の関係って、癒着感みたいなモノがないんです。
ボクの曲が良くなければ、演奏を受けてくれなくなるだろうし、
そのヒトの演奏が良くなければ、もうちょっといいヒトにたのむ。
そういうなかでボクの音楽を気にいってくれて、
ボクも最高のミュージシャンだと思っているようなヒトたちと、
つづけていくうちにメンバーが固まってきますよね。
今作は、うれしいことによく知っているメンバーの方々で演奏ができています。


─アーティストによっては、
いわゆる憧れのアーティストの方をゲストに呼んだりってあるじゃないですか。
今回はそういうのはなかった?


今回は、いわゆるゲストゲストみたいな感じではないですね。
ただ、”本田雅人”さんに関しては、スケジュールOKだというのを聞いて、
つくった曲はありました。


─そうなんですか?


何度かご一緒させていただいているのですが、
「本田さんだったら、これくらいできるだろう!」ってな感じで、
スゴくむずかしい曲をつくりました(笑)。
このアルバムの9曲目なんですけれどね。


─収録曲のなかで、いちばん最初にできた曲はどの曲?


「さあつくろう!」とおもって最初に出来たのは、
11曲目の「ひねもすえそらもと」ですね。
「ふれる」という曲は、じつはけっこう昔の曲だったりします。


─割り切ってつくる、というよりは、
つくりつづけていたモノを収録したという感じなんですかね?


そうですね。
前のアルバムに入れるタイミングがなかったモノとか、
曲のイメージが合ったので入れた曲というのもあります。


─「ひらがな」表記の不思議なタイトルの曲もありますねー。


ひとつ前の『Lyrics』というアルバムが、
タイトルどおり歌詞に注目して、
かなり内面的な歌詞で、
シンガーソングライター的なムードのアルバムにしたんです。

そのアルバム以降、歌詞に対する”深み”みたいなモノが自分のなかに出来ていて、
いわゆる「大和コトバ」で歌詞をつくりたかったんですよね。
サビだけ英語とか、、、英語でお茶をニゴすことをやめたんです。
日本語だけでいこうと。


─あー、、それわかります!


それが、ひとつ前のアルバムで達成できたので、
今作では歌詞をもっと「大和コトバ」にして、もっと「ひらがな」にして、
もっと意味をわからなくしようと。
意味はあるけれど、歌詞だけの世界ではなくて、
もうちょっとボンヤリしていていい、、、というのがあったんです。
だから、最初の時期につくった曲は全部「ひらがな」なんですよ。


─なるほど、「からまるゆるめる」もそうですよね。


ソレは、後半に出来た曲なんですけれどね。
昨年、渋谷の「Jz Brat」で、
3ヶ月に一回くらいのペースでワンマンライブをやっていたのですが、
ライブって、2ヶ月くらい前から予約を受けつけるじゃないですか?


─ええ。


ライブ予約の際に、お客さんからキーワードを募集したんです。
それを1ヶ月くらい前の別のイベントで抽選会をおこなって、
3つキーワードを選ぶ。
そして、それらのキーワードをもとに曲をつくって、
レコーディングして、CDにして、当日ライブでみんなにくばる。
さらに、その曲を初演するという、、、
わりとムチャなコーナーをやっていたんです(笑)。


─”わりと”というより、”かなり”ムチャな気が(笑)。


「からまるゆるめる」は、
そのときにつくった「生きる!」と「荒涼」と「ぱんだ」という、
みっつのテーマでつくった曲でみっつでつくった曲なんですよ。
三題噺みたいな(笑)。
あと、「ひとしずく」と「初夏のメロディ」も三題噺です。


─それは、オモシロいですねー。
ちなみに、「初夏のメロディ」は、ほかの曲とちょっとちがう雰囲気というか、、、
ジャズというよりは、AOR的で、かなりアーバンな曲ですよね。
それは、、、ナニかあったんですか(笑)?


「初夏のメロディ」は、”初夏”と書いて”はつなつ”と読むんですけれど、
「初夏」と「手と手」、「前髪」の3つのキーワードから出来ているんです。
それがちょうど6月くらいだったのと、”初夏”というコトバも入っているので、
夏な曲をつくろうと思ってつくった曲なんですね。

ミックスの段階で、カッティングギターの部分をかなり上げたんですよ。
作曲しているときに、メンバーには「下北沢っぽい曲をつくろう!」とつたえていて、
下北で活動しているバンドが、
ソウルミュージックとかを聞いてつくってみました!的なものにしようって(笑)。


─ははは(笑)。


だから、この曲はボクの中で”シモキタンサウンド”なんですよ。


─”サザーンソウル”的な(笑)。


“シモキターンソウル”ね(笑)。




(後編へつづく)






□アルバム情報

中塚武
『EYE』





価格:¥2,800(税抜)
レーベル:Delicatessen Recordings/Polystar(UVCA-3035)

発売日:発売中!

>>>レビューはコチラ!!



□リリースライブ

2016年4月21日
中塚武NEWアルバム
『EYE』RELEASE PARTY
~目玉の飛び出す夜~


LIVE :
中塚武
ほか

OPEN/START:18:00/19:30
CHARGE(ADV/DOOR):3,500yen/4,000yen(共にドリンク代別)
※再入場不可


代官山UNIT
東京都渋谷区恵比寿西1-34-17 Za-HOUSEビル
TEL. 03-5459-8630
http://www.unit-tokyo.com/



□プロフィール

・中塚武





シンガーソングライター、サウンドクリエイター。
自ら主宰するバンド”QYPTHONE(キップソーン)”としてドイツのコンピレーションアルバム『SUSHI4004』で海外デビュー以降、CM・テレビ番組・映画音楽の制作・アーティストへの楽曲提供と幅ひろく活動。これまでに6枚のオリジナル・ソロアルバムをリリース。
2013年にソロ活動10周年をむかえ、作詞・作曲・編曲・歌唱・ピアノ演奏をすべてひとりでおこなったフルアルバム『Lyrics』、新世代ビッグバンド”イガバンBB”とのコラボレーション・カヴァーアルバム『Big Band Back Beat』を立てつづけにリリース。
2014年4月には、自身初のベストアルバム『Swinger Song Writer』をリリース。新曲「〇の∞」がNHK「サイエンスZERO」のテーマ曲となり、iTunes Store JAZZチャート1位を獲得した。
2014年11月、Disneyオフィシャルアルバム『Disney piano jazz HAPPINESS Deluxe Edition』をリリース。「Let It Go」を含むDisney楽曲を独自の編曲とピアノ演奏によって再解釈し、Disneyファンからも大きな反響を得た。
オフィシャルサイト:http://www.nakatsukatakeshi.com/
Twitter:http://twitter.com/NAKATSUKATAKESH
Facebook:https://www.facebook.com/NAKATSUKATAKESHI


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