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Interview : June 21, 2017 @ 16:40

“こだわり”の対談(前編)──”イ・インチョル”監督×シューズデザイナー”横尾 直”



“イ・インチョル”監督による初公開作品『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』が、2017年6月24日よりついに公開する。


人間がみずからの”欲望”をなくすために選んだアンドロイドの道。

しかし、予期せぬエラーで”こだわり”という”欲望”が生まれた末に起こった出来事とは。。。


今回は、作品のテーマが”靴職人”というコトもあり、女性ながらメンズシューズのデザイナーをやられている”横尾 直”さんと、”イ・インチョル”監督とで、物語内に登場する靴職人の”こだわり”の部分のお話を中心に、それぞれの職業に対する”こだわり”など、、、いろいろと”こだわり”についてこだわってお話をしていただいた。






─まずは監督、本作をつくり終えての感想を教えてください。


イ・インチョル(以下、イ):
試写会で、ファッション関係の人も含めていろいろな人に出会えたので、
今度はファッションショウみたいな映画ってつくれたらいいな、とおもいました。
つまりショウをやる。
そうしたら、自分の好きな服がつくれるのかなと(笑)。
でも、そういうコトが出来たら、
もっと映画が楽しくなるとおもいましたね。

横尾直(以下、直):
それは夢がひろがっていいですね!

イ:
もちろん靴の職人さんもたくさん来てくださったのですが、
彼らの仕事って、終わったらすぐ次のシーズンにみたいな感じで、
ほぼ休みなくモノをつくられているんですよね。
それにファッションよりも手作業の部分が多いので、
自分にとってとても刺激になりました。


─靴って、職人寄りな方と、ファッション寄りな方がいらっしゃいますよね?


直:
私はドッチかなー、、、両方かな。
オーダーメイドも出来るのですが、
もともとはデザイナーでしたから、
ちょっと特殊な位置だとおもいます。
すべて自分で出来てしまうから、
たまにやりすぎてしまうコトもあるんですよー(笑)。


─横尾さんの靴は、デザイン的にはわりとオトコ臭い感じですよね。


直:
もともとはレディースのデザイナーだったのですが、
メンズの靴だとどうしてもそうなってしまいますよね。
メンズって、使用する革が、映画に出てくるような革とは全然違うんです。
だから、オトコ臭い路線になってしまうのかなと。

イ:
もともとメンズの靴をつくる方が好きだったんですか?

直:
いえ、そうではないです。
女性のシューズだとオーダーメイドって難しいんですよね。
だからメンズに移行したんです。

イ:
なるほど。


─メンズの靴って、大体のバリエーションって決まってしまっているような気がします。
だから、突飛なデザインもなかなか出来なさそうなので、
デザイナーとしてはなかなか難しくないですか?


直:
そういう意味では難しいです。
ヤリすぎちゃうとダメだし、引き算が難しい。


─引き算という話であれば、映画もいろいろ撮るけれど、
そこから編集作業で切っていくという感じですよね?


イ:
本作に関しては、それほどいろいろは撮っていないんです。
ボクの場合、決めたものをスケジュール通りに撮っていく感じで、
それでも撮る時間がない。
だから、決めておかないとキリがないんですよ。
撮影が終わらないと家に帰れないですから(笑)。


─そうですよね。


イ:
映画は、スケジュール管理と進行管理がとても難しい。
だから、一番仕事が出来る人がそういうコトをやるんです。
監督の要望を聞いて、撮影を効率よく進行させる、、、難しいですよ。


─つまり、その方に「今日はココまでです!」と言われてしまうんですね?


イ:
ええ。
監督が決められないんです。
監督は撮る内容を決めるから、
スケジュールはその人に任せるんですよ。
だから、次にどのシーンを撮るか分からなかったりします(笑)。
監督が好き勝手に急に「これを撮りたい!」とか言ってたら、
スケジュールがグチャグチャになってしまいますから。


─ファッションも納期があるので、スケジュールはキッチリしてますよね?


直:
まあ、メチャクチャですけれどネ(笑)。

イ:
今作に関しては、
やりたいコトが具体的だったコトもあり、
キチンと決めないと撮りきれないスケジュールだったので、
そこを重視したというのはありますが。





─横尾さんの『ハイヒール』の率直な感想をお聞かせください。


直:
とりあえず、なぜ”ハイヒール”がテーマにだったのかな?っておもいました。

イ:
3年前くらいにフランスの『カンヌ映画祭』に行ったのですが、、、
太陽の光の感じが日本とは違うんですよね。
ある日、プロデューサーの妻と、
会場近くのお店でご飯を食べていて、
お店を出るときに、彼女の履いていたハイヒールがキラーンとしたんですよ。
この映画にも登場する『ミハラヤスヒロ』の黄色いハイヒールを履いていたのですが、
すごくステキだったんですよねー。
それがキッカケなんですよ。

直:
そんなステキなお話からはじまったんですね!

イ:
黄色はあまり好きな色ではないのですが、
太陽の光が変わるだけで色の感じが違ったコトもあって、、、
そのときの黄色は、すごくステキだった。
それで「ハイヒールの話にしよう!」って。

直:
そこからどういう風にススんだのですか?

イ:
もちろんそれだけでは話にならないので、
ハイヒールをつくる人の話にしようと。
ちょうど物語の企画をしている時期でもあったので、
その前に考えていたいろいろな話が混ざりましたが、
イメージはもう出来ていました。

直:
でも、靴で黄色って選ばないですよね。
赤だと、ありガチですけれど。

イ:
なので、物語のメインも黄色い子なんですよ。

直:
欲望の対象として”ハイヒール”は、
さまざまな物語にも出てきますよね。





─映画の登場人物が靴をつくるのに、
すごく革に”こだわる”シーンがありますが、
じっさいにそういうコトはありますか?


直:
そんなコトばかりです。
ただ映画では革の使い方が贅沢(笑)!
でも、アンドロイドにエラーが起こって、
人間としてのこだわりの”欲望”が出てきたという物語として、
あの贅沢な革の捨て方で”こだわり”が出ているのがわかりますよね。

イ:
ボクは絵を描くのですが、
塗料が残ってしまったときにすごくもったいないなーとおもうんですよ。
でも、自分がやりたいことをやろうとするヒトって、
たぶんそういうコトは気にしない。
気にしていたら出来ないんじゃないかな。

直:
たしかにそうかもしれないですね。
後でまったく使わないかもしれないのにオモシロい素材を買って使ったり、、、
すごくもったいないコトなんですけれど。
あのシーンは、それが表れているとおもいました。

イ:
ちなみに、最初の方に捨てられた革が出てくるシーンがあるのですが、
その表現にかなり悩みました。
山らしい山にするのか、ゴミみたいな散らかし方にするのかとか、
とにかく、いろいろなパターンをやってみて、
映画に出てくるカタチになりましたが。
どこまでムダで、どこまでが”こだわり”になるのか、、、
そのポイントがすごく難しかったですね。


─それはたしかに難しいです。
人によって印象も違いますからね。


イ:
ええ。
あと、革って意外と高いですよね。
手のひらくらいのサイズでも1000円とか。
だから、靴をつくるとなったら、
すごい金額になるなとおもいました(笑)。

直:
革って、じつは大体廃盤になってしまうので、
なかなかおなじ革は手に入れられなかったりします。
メンズの靴の革は特に高いですしね。
だから、あのシーンを見た時に「わーっ!」て(笑)。
ちなみに、なぜ登場人物をアンドロイドにしたのですか?

イ:
この物語のカタチで、
人間の職人が出てきて靴をつくる物語にしても、
話としては面白くないとおもったんですよね。
人間に”欲望”とか、”こだわり”の話をしても
それほど自分の中でも引っかからなかったんです。


─それでアンドロイドが中心の世界をつくりあげたんですね。


イ:
あと、最近おもっていたコトなんですけれど、
いまって絶滅寸前の動物って多いなと。
例えば、チーターなんかは50年以内、
早ければ10年以内にいなくなるかもしれないと言われています。
チーターなんて実際に見たコトもない動物なのですが、
車よりも早い速度で走るって、ステキじゃないですか(笑)!
そういう動物が消えていくのを見ていたら、
人間が助けないといけないのでは、と。
人間だって明日いなくなってもおかしくはないワケですし。
ただ、そういう動物たちが絶滅する状況を止められるのは?と考えると、
人間が人間らしくするのをやめたらいいのかなと。
そういう意味でアンドロイドにしました。
とにかく、動物がいなくなるのって、
ホントにイヤだなとおもったんですよ(笑)。

直:
だから、アンドロイドだったんですね。

イ:
極端にしなかったら、そういう自然って戻って来ないのかなと。

直:
でも、エラーが起こって、結局、人間的な”欲望”が出てしまった。

イ:
設定的には、ブルーもイエローもいっぱいいるので、
みんながみんなエラーが起こったワケではないんです。
ただ、そういうエラーが増える可能性はあるのですが。


─なるほど。


イ:
たとえば、PCのエラーって、
ボクらの全然分からない部分で、
しかも突然起こるじゃないですか?
それがとにかくムカつくなとおもいまして(笑)。


─たしかにムカつきますよね(笑)。


イ:
なぜソフトが開けないのかも分からないし、
なぜフリーズしてしまったのかも分からない。
理由がわからないけれどナニかが起きた。
つまりエラーですよね。

直:
それが”欲望”になったワケですね。
オモシロい!

イ:
ただし、本当のエラーかもしれないし、
もしかしたら性格なのかもしれない。
気持ちを持つモノであれば、そういう可能性もあるかも、、、ですよね(笑)。


─たしかに、AI的なものになっていれば、その可能性もありますよね。
「いまそういう気分じゃないんだけれど」って(笑)。


イ:
ははは(笑)

直:
でも、「いま!?」みたいなときにエラーって起こりますよねー。
とにかく、すごい絶望感(笑)。





─登場するアンドロイドはパワーを食べていますが、
なぜ”食べる”という行為にしたのでしょうか?


イ:
自然破壊的な問題でのお話で、
人間が人間らしくて、
いちばん問題な部分だと考えたのはじつは”食べる”コトだったんです。
だから、エスプレッソみたいに小さいもので、
パッと飲んで、終わりにできる、
充電できるようなものにしたら、
欲望的なものが発生しにくいのかな?と。
それで「パワー」みたいなものにしたんです。
いわゆる充電する電気みたいなものですね。

直:
かなり合理的な感じがします。
でも、アンドロイドからしたら、
それも”欲望”のひとつになるのでしょうか?

イ:
基本的には、決まった時間に決まった量しか食べられない、
という設定なんです。
だから、別のところで飲めるとうれしくなるようなものではありますね。
そして、「パワー」を飲むと、一時的に体の活動が停止になる。
でも、彼らを危なくするモノがその世界にはないので、
ドコでも飲めるワケですよ。
だから、こういう物語になったんです。


─ちなみに、「パワー」が切れた時、彼らはどうなるのでしょうか?


イ:
切れたら活動が止まります。


─いわゆる、死んでしまうというコトでしょうか?


イ:
いえ、また「パワー」を飲ませたら動きます。
死に関していえば、
たとえば、爆発したりして物理的に無くなる場合はありますが、
データは残るのでそれを移せば元にもどるハズ、、、
どうなるかは分からないですが(笑)。

直:
でも、充電が切れたときは、
ダレかが「パワー」を飲まさないといけない、、、ですよね?

イ:
そうです。





─アンドロイドたちは普段、ナニをやっているのでしょうか?


イ:
おなじ色の人たちはいつもおなじ時間に起きて、仕事場に行って、
おなじ時間におなじ場所に戻る、
というコトをやっています。
基本的には、特別な行動はやらないんですよ。
現在でいうと、いわゆるサラリーマンのような感じですね。
ボクは、サラリーマンって、
彼らがこの世の中で大きな仕事をやっていると考えてまして、
そういう仕事をする人たちがいるから、
特別な仕事が成り立つのではないかと。


─なるほど。
アンドロイドにおいては、まさに機械的にそういうおなじ行動をするということですね。


イ:
ただ彼らにとってひとつだけ特別なコトがありまして、
別の色のチームとともに週に何回かお茶会をするんです。
そのシーンはアニメの部分ですこしだけ出てきますが、
そのときにいわゆるガールズトークみたいな感じのコトが行なわれるんですね。
大した話ではなくてもみんなで集まって話しをするって、
楽しいし、ステキなコトだとおもうんですよ。
この物語は、ソコでエラーが起こった3人だけが、
違う行動をしはじめるという、
ガールズトークの場で起きた話なんです。

直:
そういうコトだったんですね!

イ:
エラーが起きた3人のうち、
ブルーの人の「あたらしい靴を注文したよ!」という話から、
あとのふたりがその話についてどんどん気になっていくワケです。
それもエラーのひとつで、
そういう感情が”感染”していくんじゃないかな?と。

直:
“連鎖した”というコトだったんですね。
意外とストーリーが深かった(笑)。

イ:
もともと物語のベースの部分はつくっておいてから、
いろいろと切ったりして、
いまの作品のカタチになっているんです。

直:
だから、想像力を膨らませる作品になったんだとおもいます。
もともと短編映画が好きなんですか?

イ:
じつはそれほど好きではないんです。
でも、いい作品であれば、長さは関係なく短いものでも好きです。

直:
自身でつくられる映画は、
短くつくる思考なのか、長くつくる思考なのか、
そこは関係ないというコトでしょうかね?

イ:
短編をずっとやっていきたいワケではないという意味です。
個人的には作品の長さにこだわりはないです。

直:
では、今作を短編にしたのは?

イ:
今作は、物語的にこのボリュームがちょうどいいとおもったんです。

直:
なるほど。



(後編へつづく)






□プロフィール

・イ・インチョル(李寅哲)

1988年韓国生まれ。
中学校卒業後、すぐに大学受験資格を取得するが、進学せずに韓国で映画製作に携わる。
演出部として日韓合作の映画などに関わった後、19歳から活動の拠点を日本にうつす。
スタンリー・キューブリック氏の映画製作 に対する姿勢には、とくに共感を持っている。


・横尾 直

文化学院建築学科卒業後、渡英。
コードウェイナーズカレッジにて靴制作、デザインの基礎を学び、帰国後(株)アイコニックシステムジャルフィック入社。
退職後、工房を構え、ギルドフットウェアカレッジにて手製靴を学ぶ。
ギルド・オブ・クラフツにてアシスタントをつとめた後、独立。
http://naoyokoo.com/


□作品情報

2017年6月24日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!

『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』






監督・脚本:イ・インチョル

出演:菊地凛子/小島藤子/玄理/谷口蘭

製作:Mutsumi Lee

オフィシャルサイト:http://highheels.lander.jp

>>>レビューはコチラ

©Lander Inc.


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