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Interview : August 21, 2010 @ 16:25

熊谷和徳 × 中川賢一 × 中島ノブユキ 『革命』的鼎談(前編)


日野皓正やDJ クラッシュなどさまざまな音楽系アーティストとのコラボレーションや、ファッション ショーの音楽をTAPの音で演出するなど、つねに革新的なことに挑んできたTAP界の異端児 熊谷和徳。

指揮者として世界的に活躍し、ダンスや様々な分野のアーティストとのコラボレーションも行っているクラシック界の異端児 中川賢一。

多種多様な音楽的造詣に深い、音楽界の異端児 中島ノブユキ。


この3人の異端児たちが、オーケストラとタップダンスとのコラボレーションという、今回がおそらく日本初、いや世界初の試みとなるステージ「Revolucion(革命)」に挑戦する。

性格も、成り立ちさえもまったくことなる”タップダンス”と”クラシック音楽”。

彼らは、いったいこれらの素材をどのように料理するのか。


今回は、タップダンスの熊谷和徳、東京フィルハーモニー交響楽団の指揮をとる中川賢一、そして音楽監修と編曲をおこなう中島ノブユキ、「革命(Revolucion)」的なステージの創造に挑むこの3人の異端児たちに、このステージに挑戦することになったキッカケを中心に、現在までの進行状況や意気込みなど、いろいろとお話を訊いてみた。





─今回の公演、東京フィルハーモニー交響楽団というオーケストラと、タップダンスとういう組み合わせですが、熊谷さん的にははじめてのことなのでしょうか?

熊谷:はじめてなんです。

─いまのところリハ—サルというよりは、打ち合わせの段階だとは思うのですが、どんな感じですすんでいますか?

熊谷:とりあえず、音源と譜面のあるていどのカタチが見えてきたところです。
でも、ココまでは話し合いとイメージの擦り合わせの段取り的な部分に、かなり時間を要してきた感じですね。

─中川さんは、今回指揮をやられますが、タップダンスが入ったものというは、、、

中川:はじめてです!

─ほかのパフォーマンス、例えば詩やダンスが入ったりとかというのはあるのですか?

中川:それはありますよ、でもタップはないですね。

─タップに関しては、音が出るものだと思うんですけれど、そこら辺は熊谷さんと中川さんのおふたりでどのようなお話をされているのでしょうか?

中川:まずタップは、ダンスといいながら打楽器だと思うんですよ。だから、ミュージシャンなんです。東京フィルのみんなもおなじ考えだと思うけれど、ダンスという感覚はないですよ。別の音楽を聞く感覚ですね。
ひとりのミュージシャンとセッションするカタチだから、アレンジはそれを前提にしていますけど。
今回は、(マクシム・)ショスタコーヴィチの「革命」をやるんだけれど、オーケストラにあらたにパーカッションが入るという感覚ですよ。でも、それは新鮮だし、作曲家が考えなかったあたらしいカタチだから面白くもある。ショスタコーヴィチ自体は、タップの音は音楽的に考えなかったと思います。だって冷戦下のソビエトの人ですから。
いまの若い人たちは、いろいろなモノの”ごった煮”みたいな音楽が普通ですけれど、昔から考えるととても革命的なことだと思うんですよね。
ビート感もおおきく違う。
クラシックは一歩一歩踏みしめていくというか、大きく早くなって遅くなっての繰り返しで、テンポは絶対にゆれるんです。でも、タップは基本的には一定のパルスがあって、比較的グルーヴィングがある。そこがどう絡めるかが楽しみですよ。

─中島さんは、今回は編曲と音楽監修、そしてピアノをやられますが、まずはどんなことに気をつけて編曲をやられるのでしょうか?

中島:気をつける、、、とても難しい質問ですね(笑)。
テンポが揺れることを前提とした編曲を避けているワケではないけれど、場面によってはそれをすごく劇的に使いたいなと思っています。そういう音楽のテンポのいい意味での揺れが、絡みあうような場面があったらいいなと。それ以外のところで、パーカッション──というかタップの拍節感と一緒になって突き進んでいくイメージが途中からありました。
なんで途中からかというと、初期の段階で選曲を出し合っているときは、ボクはむしろリズムがほとんどない曲を提示していたんです。すごくゆっくりで、静的な感じの曲。そのなかでタップの音色を聞くというイメージが最初にあったんです。
だけど、肉体を軸にした音というか、熊谷さんのなかでの音と同調するということが、打ち合わせの段階で明確になってきたんですね。それがちょっと新鮮でした。

─最初に音がないもの選んでいたというのは、タップというものが音を出すという根底にある考えからですか?

中島:そうです。
その裏返しとして、タップの音色を楽しんでほしいというか。。。
最初は”聞く”というイメージがあったんだけど、そうではなくてある種のパルスというか、音の連続性──それこそ”タップ”だよね、その連続性を”聞く”というところで、静的な音楽では絡んでいけないということが途中から分かったんです。

─なるほど。熊谷さんはおふたりと話されて、最初にどんなことを考えていて、いまはどんな風に考え方が変わったのでしょうか?

熊谷:最初は、柳田邦男さんの『いつも心に音楽が流れていた』という、、、クラシックにまつわる本なんですけれど、そこにショスタコーヴィチとか(パブロ・)カザルスとかの話しがでてきたんです。もともとクラシックには詳しくなかったのですが、それを読んだときにショスタコーヴィチの「革命」が、音よりも先にストーリーが頭のなかに入ってきたんですよ。それで「革命」をやりたいと思ったんです。その後、曲を聞いて、リズム的にもカッコ良かったので、「革命」を大テーマというか、キーワードとして他の曲を選びました。
僕が好きなグレングールドが演奏していたバッハの曲やカザルスの『鳥の歌』という中島さんに紹介してもらった曲は、「革命」というテーマにしっくりきて選曲しました。あとはジャズミュージシャンのジョン・コルトレーンの曲をオーケストラアレンジでやりますが、それも革命的だなと思いましたね。
そういうイメージだけはあったんですけれど、そこからの細かい作業はかなり難航してまして(笑)。。。

中島:難航するよね(笑)。
だって、バンドとか少人数だと「試してみようよ!」ということが比較的簡単で変更もしやすい。だから、具体的な音を出しながらイメージを共有していけるんだけれど、なんせオーケストラですからね(笑)。

熊谷:ミリ単位で決めていかなくちゃダメですからね。
その部分は自分の想像よりもすごく地道な作業というか、難しい部分でした。

中川:オーケストラって、ヘタしたらいて100人ちかくいて、それを即興でやったら当然ぐちゃぐちゃになるよね。たとえば、ヴァイオリンの音を出すために、それに対して10人とかいるワケですよ。それがおなじ譜面を見るワケだから、ココはこの音でとか決めなきゃいけない。変更がすごく難しいんですよね。だから、しっかりキメごとをする。そこが、ジャズとかとはぜんぜん違う部分。ぜんぜん違う作業なので、たぶん大変だろうなと思いますよ。
でも、お互いのアイディアというか、自分が何をやりたいのかをお互い問うのは面白い作業ですね。
スゴく大変なんだけれど。音楽は確定している、でも最終的に熊谷さんのパートは完璧に確定はしていないですよ。だから、どうタップが入るかと部分に自由度はあるけど、そこの部分は楽しみです。
コッチは尺が決まっているから、ガッチリ固めているけれど。

中島:それがいちばん難しかったよね。

熊谷:そうですね。

中島:サイズひとつ決めるのだって、なにも音のないところでサイズを決めるワケですよ、テンポもまだ明確に共有していないのに。
でも、それがだんだん形づくられていくという途中経過は、すごく面白かったなー。
3ヶ月くらい前からはじまってね。

熊谷:曲目を決めるのもすごく大変でしたからね。
膨大な量の曲のなかからシックリくるものを選ぶんですけれど、踊ってもないのに選ぶというのは大変な作業でした。イメージだけでつくりあげていくという作業だったので。
やっとこれから実際に体をうごかしてやっていくという感じです。
クラシックの人たちって、スゴいなと思いましたね(笑)。

中川:ははは(笑)。

熊谷:毎回こんなことをやっているのか!って(笑)。

中川:お互いスゴいと思っているワケですよ。
ジャズだって、なんでいきなりパッとできるのか!って思ったりします。限界までぐしゃぐしゃになりながら、キチンとコードを追って、ビートもはずれそうで合っている。そういう世界でできるのはスゴいと思います。
コッチはしっかりと決まったリズムで練習して、本番もその通りやって、それプラス本番の “テンション”でいい音楽になる、そういうような感覚だから。まあ、演劇みたいなものですよ。
演劇って、アドリブがある程度あっても、基本的には台本どおりじゃないですか。

─基本的には、線路どおりに進みますよね。

中川:演劇を全部アドリブでやったら大変ですよね(笑)。
「太陽」とか、、、そういう題名でとりあえず1時間やれっていわれたって、漫才だったらできるかもだけど、演劇ではないワケで。だから、演劇みたいなものがオーケストラなんですよ。
「ワタシは悲しい!」というひと言が演劇ならひとりですけれど、オーケストラだと10人だったりする。
それに”ワタシ”に重きをおくのか、”悲しい”に重きをおくのか、はやい段階で確定しておかないといけない。みんなが勝手に言ったらダメなんです。まあ面倒な作業ですよ。
それに対して自由に熊谷さんが絡んでくるところが面白いと思う。
あとは、「悲しい!」の”か”をオーケストラでどのくらい強く言うのか。そういう意味では、クラシックのプレーヤーは音符じゃない即興さはあると思うんです。それもテンションとか本番になってみないと分からないところだよね。今回は、即興性のおもしろさと、確定性のおもしろさの二面があるんですよ。
「アフリカン フラワー」にも中島さんの即興が入りますよね?

中島:そうですね。

中川:そういうのは楽しみです。
コッチはずっとグルーヴィングをやっていて、それに中島さんがピアノで自由に絡むという感じ。
ダンスでは、、、絡まないですよね(笑)。

中島:えーとー、身体能力的に問題が(笑)。。。
重力には逆らえないです。

中川:それと今回演奏するコルトレーンの「naima」という曲があるんですけれど、それは熊谷さんのジャンプをみてオーケストラがはじまる部分があるんです。
少人数でやったら単純なことなんだけれどね、かなり実験的ですよ。

─なるほど。


<熊谷和徳 × 中川賢一 × 中島ノブユキ『革命』的鼎談(後編)につづく>






2010年8月31日(火)

PARCO presents
熊谷和徳 × 東京フィルハーモニー交響楽団
KAZ meets Tokyo Philharmonic Orchestra
~REVOlUCIÓN~





>>>公演の詳細はコチラ





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