Interview : February 9, 2011 @ 13:09
フォトグラファー 須田 誠インタビュー──ザッツ・談!(その2)
34歳のときに10年間のサラリーマン生活に終止符を打ち、世界中で放浪生活をはじめ、そのときに手にしたカメラで”世界の真実”を撮影してきたフォトグラファー”須田 誠”。
彼の著書『NO TRAVEL, NO LIFE』は、リリースから3年以上経ったいまでも人々の手に取られている。
現在は、全国をまわる自身の個展『ジャパン ツアー』やワークショップ、『最高☆カメラ』を開催するなど、精力的に活動中だ。
引きつづき、須田さんとの面白すぎた”雑談”をお贈りする。
──かわりつつある価値観
須田誠(以下M):“アナログ”といえば、いまもDJをやっているの?
カネコヒデシ(以下カネコ):やっていますよ。
いま、洋楽のダンスミュージックのDJに飽きてしまって、日本の古い音楽と新しいモノをかけていますよ。
そこら辺を”掘る”のが楽しくて。。。
M:クラブには出かけているの?
カネコ:最近はあまり出なくなってしまいましたね。
音的な部分だったり、雰囲気とか、あまり新しさを感じなくなったのかもしれないです。
M:日本のクラブって、あまりエンターテインメント性がないよね。
ニューヨークのクラブだと、教会を改装したところとか、銀行の金庫とか、ハコ自体が面白いじゃない?それだけでもワクワクするけれど、日本だと、ただのテナントとして借りた部屋にミラーボールまわしてとかだからさ。
カネコ:確かにハコ的なエンターテインメント性には、ちょっと欠けるかもですね。ダンサーが檻の中で踊っていたりとか、前はありましたけれど、最近はそういうところすら見かけないです。
でも、結局のところイベンター任せなんですよね。もちろんリスクを負えないというのもあるんですけれど。
M:もともと文化としては、日本になかったから。
ニューヨークとかだと、すごく危険なハドソン川沿いの倉庫とか、そういう危機感を持って遊びにいくみたいなところはないよね。
カネコ:ないですね。昔はいい意味でヤンチャな人たちがあつまっていたんですけれど。
M:なんか12時過ぎると階段とかで寝ている子とかいるじゃない?ちょっとショボイよね(笑)。
朝まで踊って欲しいよ、若いんだから。
カネコ:そういう意味では、(新宿)2丁目のクラブカルチャーは面白いのかなと思いますよ。ファッションとか、内装に気合いが入っているイベントとかもあったり、いまだにクラブっぽさが残っているイベントもありすよね。
M:そうなんだ。必要だよね、そういうところ。
あとは、DJの耳が悪くなっているのかな。
CDJとか出はじめて、もう”ネコも杓子も”DJをやり出したじゃない? むかし、音楽レーベルの会社にいたときに、テイ・トウワくんの”ディーライト”のジャパンツアーに一緒にまわって時期があって、そのとき彼に「DJにとって一番大事なことってなに?」って聞いたら、彼は「みんながもっていないレコードをもっていることだ」って言っていてさ、「そうだよ!」って思ったよ。
カネコ:ほんと、そうですよ!
M:オレ、キューバーに行ってからは、ラテンとか、サルサにドップリで、いまはつねにラテン音楽を聴いているから、ハウスとかテクノは最近は行っていないけれどね。
カネコ:DJも若い人が出てきてはいるんですけれど、、、音的な深さが昔からいたDJの方々とはぜんぜん違いますよね。もちろん最近でも”深い”人はいるんですけれど。
M:DJをふくめ、全体的に本気で遊んでいないような気がするんだよね。昔は一曲をすごく沢山聞いていたじゃない?ハイハットひとつの音まで聴くみたいな感じだったよ。
でも、いまはなんとなく聴き流しになっているのかもね。だから、そういう”深さ”を感じない。
よく言われていることだけれど、全体的に軽薄化しているんだよ。コッチが流行ったからコッチみたいな、、、デジタルのせいなのかどうなのか分からないけれど。
学校とか、教育もふくめて、そういう”流れ”にあるんだろうね。
カネコ:それは、やはり「ゆとり教育」なんですかね(笑)?
M:今度また、「詰め込み教育」になったんでしょ?コドモは可哀想だよ。
カネコ:「ゆとり」と「詰め込み」、どちらがいいかは難しいですけれど。
いわゆる帝国時代のすごく戒律が厳しいところで育ってきた人たちと、ゆとり教育世代とを比べると、やはり厳しいところにいた人の方が、いろんな面で打たれ強いのは確かですよね。ボクも”ゆとり”に近い部分にいましたけれど、それでも学校の先生に殴られるのは当然だったし。そこから観ると、いまの先生って殴ったら問題になるから、殴らないとか、運動会で1位はつけないとか(笑)。それを見ると、なんだろうなーって思っちゃいます。
M:しかし、何で運動会の順位がダメなんだろうね。
カネコ:劣等感を与えるとかからじゃないですかね?でも、そんなの「社会に出たらどうするんだ!?」って感じですけれど。。。ボクも甘ったれで育ってきたので、あまり大きな事はいえませんけれどね(笑)。
あと、いまの若い人たちって、情報に対して”深堀”する人が少ないと思います。
M:でもさ、人を楽しませるような職業の人が”深く”やっていかなかったら、楽しむ方は楽しめないよね。DJに関していえば、与える方が悪いから、聞く方も耳が悪くなるし、想像力も欠けてくる。
オレがレコード会社にいたときくらい──バブルが崩壊するくらいから、エンターテインメントする側が悪かったんだよ。「売れ!なにしろ売ってけ!!」みたいな感じだったから、聞く方も耳が悪くなっていくよね。
今度はそこへデジタルが出てきて、さらに軽薄化の方向へ行っているんじゃないのかな。
カネコ:いまの時代って、いちまいのレコードだったり、CDに対する”重み”がないじゃないですか?言ってしまえば、簡単にダウンロードも出来ちゃうし、一曲150円だったりするし。。。
昔は、音楽を買うのにお金をためて──。
M:貯金してね(笑)。
カネコ:そうです!
貯金して、お金を貯めて買ったいちまいだから、CDだろうがなんだろうがすり減るまで聴くという文化がありましたよね。
M:大事にしていたよ、音楽を。
レコードとか、、、、拭いていたよね(笑)。
そういえば最初一曲150円って聞いたとき、驚かなかった?
カネコ:驚きましたよ!
M:それまで、一曲の値段ってなかったからね。
カネコ:そう考えると「CDのシングルはボッタクリだったんだ!」ってなっちゃいますよ(笑)。
M:そうだよね(笑)。
貨幣の価値観もかなり変わってきているし。。。

カネコ:ここ5年くらいで、まったく変わりましたよね。
M:世界中で経済が壊れてきているから、誰も収拾をつけられないんだよ。
資本主義の限界みたいなことを言われていながら、まだ資本主義をやろうとしているじゃない?かと言って、社会主義にはできないし、、、「どーすんの!?」みたいな状況だよね。
オレのまわりには資本主義とまったく関係なく生きているひとがすごくたくさんいて、、、ミュージシャンとかもそう。売れなくても、オレはメッセージを伝えていくみたいな、、、そういうのってスゴく重要だと思う。
究極の生活スタイルは、オレの写真を八百屋に持っていって、「大根ください!」と言えたらいいな。
カネコ:それ、いいですよね。究極はブツブツ交換ですよ。
どれだけ、そこに価値が付けられるかみたいな。
M:そうそう!
日本は、再販制度っていうのがあって、本とか化粧品とかがそうだけれど、定価を付けて売らないといけないんだよね。自由価格で売れない。
でも、いい本は高くても当たり前だと思う。そうしたら本当の価値が出て来るんじゃないかって気がする。
カネコ:フリーマーケット的な感じですよね。その人が価値を定めて、値段をつける。
自分の価値観と世の中の価値観が合えば、ちょうどいい値段になるというカタチですよね。
M:そう!
カネコ:でも、そこら辺がビジネスの上手い人なんじゃないですかね?やはり究極を求め過ぎちゃうとダメなんですよ。
M:結局は、お金という考えから、離れられない状況になっているよね。
カネコ:むかしは、お金がなくても”楽しく生きていければいいや”的な、楽観できる社会情勢だったのかは分からないですけれど、当時の映画とかってそうですよね。
石原裕次郎とか、森繁久彌の『社長シリーズ』とか、植木等の『無責任男』みたいな、社会を楽観視するような、、、いまはああいう映画は少ないですよ。
それも時代観なのかもしれないですけれど。
M:オレさ、いろんな国を旅して、お金よりも大事なものがあることが分かったんだよね。それはすごく大きな価値だと思う。
ただ、まわりが資本主義だから、お金がないと、、、オレの写真を八百屋に持っていっても「バカじゃないの?」ってなってしまう。一部では、地域通貨とかやっているトコロはあるけれど。
でも、お金が大事じゃないということが分かっていない人がまだまだ沢山いるよね。それも仕方がないことなんだけれど。
ちなみに、オレもお金が必要なワケよ(笑)。デジカメも買い替えないといけないしね。カメラもどんどん画素数が増えていって、、、昔だったらピアノにしろ、テレビにしろ、家電にしろ、カメラにしろ、一生モノだったじゃない?
いまじゃ、1年がいいところだよね。
カネコ:つぎからつぎへと新しいモノが出てきますから。
M:そうなってくると、オレらじゃコントロールができないから、結局お金が必要になってくる。
カネコ:たしかに、むかしは”一生モノ”っていうものがありましたよね。
いまはそういうコトバすらないのかもしれないです。
M:カメラは”一生モノ”だったよね。
カネコ:ホントに”一生”使えましたから。
M:いまって電化製品を修理して使わないでしょ?
カネコ:新しいものを買った方が安いんですよね。
M:そう!安い!!
カネコ:“使い捨て文化”になってしまっているんですよね。
何かを買って「コレを一生使うんだ!」っていう意気込みも、コッチもなくなってきていますもん。
そういう刷り込みじゃないですけれど、”流れ”みたいなものがありますよ。
M:知らないうちに、広告とか、メディアとか、企業とかにどんどん刷り込まれているよね。「安い、早いがいい!」みたいな。みんながそっちにいくから、ついていかないワケにはいかない状況だし。。。
そういえば、FAXって使っている?
カネコ:FAXはほとんど使わないですねー。
M:オレね、1年間家のFAXが来なかったから、FAXも電話番号も捨てたよ。
本当は携帯とPCのない生活をしたいよね。
やっぱりアナログというか、メールより電話の方が早く用件が終わるし、むかしメールがなかったころは、どうやってやり取りしていたんだろう。
カネコ:もう思い出せないです。
M:そういえば、いまってメールって返さないのが当たり前?
カネコ:たしかに、若い人はあまりメールを返さないですよ。
ツイッターには、すぐ反応するんですけれどね。
M:面倒くさいのかな?
でも、コミュニケーションだからね、それって。
カネコ:いまの20歳くらいの人たちって、コミュニケーションもそうですけれど、”飲み”ニケーションもないらしいですね。
M:しないの?
カネコ:19歳以下はもちろん飲まないんですけれど、20歳すぎても飲まないらしいんですよ。タバコも吸わない、お酒も飲まない。
じゃあ、何がたのしいの?っていう感じですけれど。
M:若者は何をやっているんだろうね?引きこもり?ゲームか漫画?やっぱり中毒性のあるものにハマっているんじゃないかな。
カネコ:ファッションも「『ユニクロ』で『ユニクロ』っぽくないものを探すのが流行っている」って聞いて、じゃあ『ユニクロ』じゃないのを買えばいいのにって(笑)!
この服を買うためにお金をためるとか、そういう感じではなくなってきているみたいです。まわりがファストファッションと呼ばれているブランドを着ているから、安心なんでしょうね。
M:なんだろう、、、没個性なのかな。
カネコ:個性を出しているように見えるけれど、大きく見るとじつは個性がないんですよね。
M:以前、NHKの『東京ファッション エクスプレス』という番組の取材で、ストリートファッションを撮る仕事をやったのね。原宿、代官山、お台場と、5ヶ所くらいでオシャレなヒトたちを撮るという感じなんだけれど、オレ、ファッションにぜんぜん興味はないけど、一日中街角で立って見ていると、みんなが同じ服を着ているのがすごくよく分かるんだよ。あれがオシャレなのかどうなのかわからないけれどね。
みんなが着ているのがオシャレなのか。突拍子のないものを着ているのがオシャレなのか。本来ならば、後者だと思うんだけれどさ。
女の子の服装とか、ホントおなじに見えるもん。
カネコ:ビックリするくらい一緒ですよ。
M:それってオシャレじゃないよね。
雑誌をみて、オシャレしているんだけれど、みんな一緒だからオシャレじゃなくなっている。
カネコ:アレンジがないのかもしれないです。
いわゆるプラスアルファな部分。
M:なるほどね。
本屋も一緒だけれど、小売店も売れるものしか売らないじゃない?
雑誌に出ているこの服とか、村上春樹だから置くとか。。。
小売店もダメだし、買う方はもっとダメになっちゃっているから、ホント悪いスパイラルだよね。
売れないといけないみたいなのが前提にあって、作る方も売れないとダメだから、あのブランドのアレが売れているから、似たようなものを作るとか、、、止められないのかな。
やっぱり、資本主義である限りは止められないんだろうね。
売らないとダメっていうのがあるから。
カネコ:売らないと食っていけないので、もちろんそれは必須条件なんでしょうけれどね。
M:やはりファッションでも出版社でも企業は、分かりやすい企画とかを出しているんだろうね。
そうしないと、上司からOKは出ないし。
そういう意味ではWEBマガジンは何でもできるから強いよね。
カネコ:ボクのは個人でやっているからです。
コレが会社でってなると、つづかないと思いますよ。
収益を上げるために、アクセス数を増加させる、そのために有名人を出すとかって、すると全部が全部、一緒の情報になっちゃうんですよね。
それじゃあ、つまらないですよ、情報としては。
(その3へつづく)
□インフォメーション
・『須田誠 旅・写真ワークショップ』開催
第四期生まであっという間に定員に! 第五期生応募のお知らせは、HP、ブログ、ツイッターで行います。
http://travelfreak.jp/?page_id=31
・『最高★カメラ!』
今年の写真プロジェクトはこれだ!
みんなの写真が好きだという想いをどんどんつなげていこう!
http://travelfreak.jp/?page_id=13
□BOOK
『NO TRAVEL, NO LIFE』

・A-WORKS
http://www.a-works.gr.jp/ntnl/
>>>Amazoneはコチラ
□須田 誠(すだ・まこと) プロフィール

フォトグラファー。
34歳のとき、10年間のサラリーマン生活で築いた地位・安定・守りを全て捨て、呼ばれるように世界放浪の旅に出る。その旅の途中、安く売られていた一眼レフを手に入れ、首からカメラを下げた旅行者を見つけては使い方を聞きながら独学で写真を撮り始める。
写真は自分自身であり、旅そのものでもあり遊びの一環でもある。
2004年夏、東京都写真美術館内のカフェにて写真展を開催し好評を博す。
現在までに31カ国を旅し、人物を中心に撮影している旅人・フォトグラファー。
ファッション誌DUNE編集長・林文浩氏、旅学編集長・池田伸氏、EXILE・USAらから高い評価を受ける。
『NO TRAVEL, NO LIFE』にて2007年デビュー。
雑 誌『月刊EXILE』、雑誌『旅学』創刊号表紙、『FUNKIST(ポニーキャニオン)』、高橋歩『World Journey(10万部)』に多数写真提供、『rega(ビクターSOPHORI FIELD COMPANY)』らアーティスト写真撮影、NHK BS-1『東京ファッションエクスプレス』他、人物撮影を中心に様々な分野で活躍。
BEAMS Tから須田誠オリジナルTシャツも発売。
またファッション専門学校VANTAN、自由大学などで、講義、文筆活動、ワークショップなども精力的に行う。
・TRAVEL FREAK
http://travelfreak.jp/
・ブログ
http://ameblo.jp/travelfreak/
・Twitter(makoto_suda)
http://twitter.com/MacochTV
・mixiコミュニティ
http://mixi.jp/view_community.pl?id=2067518
This entry was posted on Wednesday, February 9th, 2011 at 13:09 and is filed under Interview. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. Responses are currently closed, but you can trackback from your own site.