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Interview : May 25, 2011 @ 20:32

井出情児インタビュー──『死ぬまで待てない』(後編)



日本のカルチャーを60年代から撮りつづけている、フォトグラファー/フィルムメーカーの”井出情児(いでじょうじ)”。


彼が、1970年代から撮りつづけた日本のロックシーンの”歴史”を見ることができる写真・映像展『死ぬまで待てない』が現在青山”CAY”にて開催中だ。



つねにカルチャーの生まれる瞬間に立ち会ってきた彼は、ファインダー越しに何を見てきたのか?


引きつづき井出情児氏に、死ぬまでに語っておきたいことを語っていただいた?インタビューの後編。






──写真を撮りはじめたキッカケはなんだったんですか?


小学校5年生くらいまでは絵描きになりたくて、絵ばっかり描いていたんだよ。
当時、小学校の美術の先生がうちの2階に下宿していて、その人が毎週土曜に真っ暗な中でゴソゴソやっているから、何だろうと思ってのぞいたら、引き延ばし機で写真をやっていてね。それがショックで「コレやりたい!」って。
でも、そういう商売が田舎にはなかったから、とにかくココから出ないとって、大阪に家出したり、東京に家出したりしてたよ。


──そのままコチラ(関東)に?


いや、中学の時に親の転勤でちょうど家族で東京に来たのね。
で、こっちの高校で写真部を作ったりしたよ。
ちなみに部をつくると援助金が出るんだよ、だからさ、その金で飲めたり食えたり、、、けっこうおいしいのね(笑)。


──なるほど(笑)。
唐十郎さんとは、いつ出会ったんですか?


高校在学中。
そのあと芝居の世界に入ってさ、でも、「こんな面白いことをしているのに、どうしてダレも撮らないんだろう」と思っててね。いきなり街を裸で歩いたりするわけだから、「これは面白い!」って撮っていたんだよ。
ほかにダレも撮っていなくて、その時の写真がほかにないから、ボクはたぶんこの世界に残れたんだと思う。みんなが撮っていたら、たぶんダメだったよね。
ヘタだろうが、上手かろうが、ボケていようが、ソレしかなければソレの勝ちだからさ。だから、いい場所と、いい状況で、いい人と出会えれば、本当につながっていくよ。芝居から音楽、音楽から映画、映画から本ってね。
ここ10年くらいは本とか、そういうヒトとタイミングよく出会えてさ、ココまで来れたんだと思うよ。
まあ、東京から離れてもう20年くらい経つからね。


──なぜ、東京を離れられたのですか?


一時「ニューヨークの次に面白くなるのが、東京だ!」って言われていたんだけれど、韓国とか中国に持って行かれちゃってさ。で、「これからは地方の時代だ!」って、意気揚々と地方に行ったらさ、ぜんぜん時代が来なくて。浦島太郎になっちまったよ(笑)。
でも、蔵王とか、北海道とか、九州とか、キャンピングカーでカメラを積んで走り回ったんだけれど、東京に来ていないだけで面白いヒトがいっぱいいるんだよ。
暗黒舞踏をやるようなヒトが北海道にいたり、苫小牧で変なライブハウスをやっているヤツが、元どこかの劇団のやつだったりさ。そういう人たちを地元の高校生くらいの若い人たちが写真を撮って、全部集めたら、面白い日本地図ができると思うんだけれどなー。
でも、まだ東京一点集中だから。
東京で認められないとダメでしょ。ちょっとつらいよね。


──たしかに、地方で盛り上がってもなかなかつづかないですよね。


今回の震災で、関西がバブルだから少しは変わるかな。
これで富士山の噴火があるとオレんちはふっとんじゃうんだけれどさ(笑)。
とにかく、生きているうちにデータにして誰かに渡しておかないとね。


──この写真展は、来てくれたお客さんにどういう感じで受け取ってくれたら嬉しいですか?


いや、たぶんね、業界というか、食い詰めて地方にいる、あるいは雑誌の編集をやっていてやめたヒトとか、金のない同じくらいの歳のじじいというか、そういうヒトには響くと思うんだ(笑)。だから、もうちょっと下の世代、20から30歳くらいの人たちに見てほしいよね。
でも、オープニングイベントには、60くらいのヤツラが集まって、やれ酒おごれだの、やれ飯おごれだの、来るんじゃない。頭のいい人には、これがボクの生前喪だって分かると思うんだけれど、だから10万円くらいの”お包み”を持ってきてもらえるといいなって、そう思っていたら、友達に「借金取りが来るぞ!」って言われてさ(笑)。


──ははは(笑)。


たしかにそっちもあるってっ、、、そっちの方が怖いね。
借金取りが来たら、棺おけを用意しておいて、死んだフリをするしかないね(笑)。


──本当の葬儀じゃないですか(笑)!
いまの時代を生きている若い人にメッセージを送るとしたら、どんなコトバを送りますか?


オレもこれだけデタラメをやってきたけれど、50年近く、食えたからね。
とにかく、なせばなるというか、願がわなければかなわない、というただそれだけ。
方法論は考えればいいわけだし、それだけで後はなんとかなるからさ。
そのときに付き合っている人間で、お互いに一緒にやれば絶対にできる。
なんかえらそうなこと言っちゃった(笑)!


──いやいや。
むしろ井出さんくらいの方にそう言っていただかないと、キチンと下の世代に伝わっていかないので。


いまの男の子っておとなしいからさ。もっとむちゃくちゃやっていいはずなのにね。
僕らが若い時は、「こうしなさい!」と言われたら、その反対をやっていたじゃない。とにかく、30くらいまでプラプラしてていいからさ、何でもやんなさいって。
こっちは16くらいから食うことを先決だったからさ。何でもやったしね。
「来週までにテントを買うから、ひとり2万円持ってこい!」って言われて、劇団の女の子とね、組のヌードでモデルやったりとかね。でも、食えたから。
それに、30歳までは何やったっていいって聞いて育ったもんね。で、30過ぎたら、若いヤツに「30過ぎは信じるな!」って言われてはじかれて、で50から55くらいに廃人になる(笑)。





──たしかに、そう言われていた時代でした。


オレも60まで生きると思っていなかったから。
死ぬつもりだったし、死ぬだろうと思ったから、これをやって死ねばいいと思ってて。それがいちばんカッコいいだろうってさ。
ほんとは50過ぎたら、富士山でも撮って、風景写真でもやろうと思って行ったんですけれど、ボクは人間を絡めないと撮れないんだよね。


──そうなんですね。


いままでは、たまたまそういう場所にいれたけれど、それだけのチャンスはもうないからねー。
でもいまの若い人って、映像をやりたいからって映像の学校行く。
それでカメラマンになれるわけじゃないって、いくら言っても分からないんだよね。


──結局は”情熱”なんですよね。


そう!
自分が何をやりたいのかってことが分かっていないから、流行りものを追っかける。その時点でダメだよ。流行る前のものを見つけないとダメなんだよね。それもやらないし、それにすぐ商売を変えちゃうでしょ。やっぱり持続することが必要だよね。とにかく、石の上にも3年じゃないけれど、30年やってくれたら本物だって思う。
ボクも途中でファッションフォトをやったり、外国に行って風景を撮ろうとかも考えたけれど、これを始めた以上は撮った相手かオレ、どっちかが死ぬまではやりつづけないと、お互いに嘘つきになるからさ。とにかく持続することがパワーになるんだと思ったしね。何よりも一緒に生きた時代を感じられるヒトが生きている間は、コッチは死にたくないな。
それにずっと続けていければそれがひとつの記録として残るので、それらを観せたいというか、渡したいというか、残したいだけ。
その子ども、もしくは孫になるかもしれないけれど、彼らがボクの写真を見て、ピーンと来てくれたらいいかな。
写真のスタイルでもいいし、生き様でもいいし。


──それは何かをぜひ感じてほしいですよね。


音楽も演劇も絵も、方法論が違うだけで、同じところをやっているはずだからさ。
ひとつの動きを残したい、伝えたい。撮ったからには残したい、残ったからには伝えたい、、、それで完結するんじゃないかな。
とりあえず、動けるうちにやっておこうって、、、どうしても話題がそこに行くよね。
題名が悪いね(笑)。


──いや、いいと思います!


いい?そう?
ヨカッタ(笑)。


──コレ以外にはあり得ない題名だと思いますよ。
とにかく、作品を拝見したときに「これはいましかない!」と。
それで、いま世代の人たちにどう伝わるかというところだと思います。


ボクらがこんなエラそうなことを言えるようになったのはさ、たまたま運良くいろいろなヒトと出会えて、いろんなコトをやれたから。まあラッキーだっただけなんだけれどね。
60年代当時、トップを走っていた横尾忠則さんとか、宇野亜喜良さんとかそういうヒトたちが、毎週末高輪プリンスのワンフロアーを借りてパーティをやっていて、そこに行ったら、横尾忠則と知り合って、事務所に遊びに行ったりして、そこから仕事につながっていったり。。。
そういう場所って都内にいっぱいあったよね。
最近、ないじゃない?


──ないですね。


せいぜい行ってもクラブだけで、みんな口もきかずに下むいて踊るだけだしさ。
そういう時代がもう一回来てもいいと思うんだけれどね。そうじゃないと新しいモノが生まれなくなっちゃっているから、面白くない。もっとクロスオーバーしていけば、たのしい感じにはなると思うんだけれどな。


──ヒトとの出会いは大切ですよ。
もう一回何かを出来るとしたら、何がしたいですか?


そうだなー。
もう一回みんなで金曜の夜に集まって、明け方クルマで湘南あたり行って、砂浜で野球とかやって帰ってくるっていうのがいいな(笑)。


──いいですね。


何か今日オレグチっぽいね(笑)。
大丈夫かな?


──大丈夫です!
今日のインタビューは”死ぬまでに言っておきたいグチ”みたいな感じです(笑)。


そうね(笑)!
これで展覧会が始まる最後の3日間くらいは、寝ないでやって、始まった途端に寝ちゃって。。。


──そのまま冷たくなっているみたいな(笑)。


イーネ!それが理想!!
そのままお葬式にしちゃうと、来ているヒトは楽だよね(笑)。


──ハハハ(笑)
今日は、ありがとうございました。


こちらこそ、ありがとうございました。





(おわり)







2011年5月24日-2011年5月27日
Photo Exhibition
井出情児写真・映像展『死ぬまで待てない』


時間:11:30-24:00

会場:CAY(スパイラルB1F)
東京都港区南青山5-6-23
スパイラルB1F
TEL. 03-3498-5790

主催:CAY
企画:北 京一/金子マリ/CAY
協力:株式会社エッセンス


・展示予定作品
ARB、あがた森魚、RC サクセション、石橋凌、泉谷しげる、遠藤賢司、大木トオル、カルメンマキ、佐野元春、サンハウス、SION、シーナ&ロケッツ、Char、ティアドロップス、はっぴいえんど、フリクション、村八分、めんたんぴん、山口富士夫、ルースターズ

>>>詳細はコチラ


2011年5月27日(金)
クロージングセッション 

※詳細は決定次第、SPIRALWEBにて告知致します。
http://www.spiral.co.jp



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