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Interview : August 3, 2012 @ 14:15

その日もトーキョーは雨だった──”堀野義仁×岡田安正”対談 前編



ドメスティックな音源をリリースしつづけるデジタル配信音楽レーベル『UNKNOWN season』、そして音楽情報を発信しつづけるフリーペーパー『DESTINATION MAGAZINE』。

どちらも良質な”音”を発信しつづけることにこだわったメディアだ。


そんなふたつがタッグを組み、レーベル初となるCDアルバム『DESTINATION MAGAZINE meets UNKNOWN season “A Day Of Rain – UNKNOWN perspective –”』をリリース。


今回は、『UNKNOWN season』レーベルオーナーの堀野義仁さんと、『DESTINATION MAGAZINE』編集長 岡田安正さんに、フィジカルメディアのアルバムを一緒に出すことになったキッカケを中心に、収録アーティストやお互いメディアのコンセプトなど、いろいろとお話していただいた。






─まずはおふたりの接点を教えてください。


堀野義仁(以下 堀野):最初は、5年くらい前によく行くクラブで『DESTINATION MAGAZINE』を見つけたんです。それが創刊して2号目あたりのモノだったかな。
CDケースサイズで雰囲気も良く、最近のフリーペーパーではあまり見ない、モードな趣のある印象の小冊子だったので、思わず手に取ったのが始まりです。そのころはまだ自分でレーベルをやるなんて思ってもいなかったので、いち読者として手に取っていましたね。


─その時は、まだ岡田さんとはまったく接点がなかったんですね。


堀野:そうなんです。
その後もずっと気になっていたフリーペーパーだったので、自分のレーベルを立ち上げたときに、『DESTINATION MAGAZINE』にウチの音源を聴いて欲しい、そしてできれば掲載してもらいたいと思ってね、思い切って連絡してみたんですよ。それで岡田さんとお会いできることになって、、、それが出会いです。
はじめてお会いしたにも関わらず、そのときは1時間以上熱弁してしまいまして(笑)。。。


─熱弁ですか(笑)。どのような話をされたんですか?


堀野:レーベルのコンセプトやアーティストの話が中心でした。その僕の熱弁の直後に岡田さんは「掲載しましょう!」って応えてくださって、、、ちなみにその時は知らなかったのですが、『DESTINATION MAGAZINE』はDJパーティからスタートされたんですよね?


岡田安正(以下 岡田):そうなんです。もともと10年くらい前から自分でDJイベントをやっていて、6年前に『DESTINATION』というイベントを渋谷のmoduleではじめたんです。
でも、本当に良いと思える音楽を多くの人に伝える手段として、イベントだけではなく他にも何か違った形での発信が出来ないか考えてみたところ、フリーペーパーが一番合っているのではないかと思いましてはじめました。


堀野:元々パーティがあってという”地に足が着いた”行動に、とても尊敬の念を抱きましたね。
ここ数年、CDが売れないといわれ、音楽業界に暗雲がかげりはじめている、そんな最中でも周りの風潮には気を止めず、自分がやりたい事をやりつづけ貫きとおしている、その一貫した姿勢がとてもステキだなと思いました。
しかも、いろいろとお話を聞くと、岡田さんは元々どこかの出版社に所属したこともなく、編集に関してはまったくの独学らしいんですよ。
だから、その行動力には、パワーとエネルギーを沢山いただいてます。


─え!?そうなんですか!?
ライターみたいな仕事をされていたワケでもないんですか?


岡田:ないです。
元々はアパレルでパタンナーをやっていたんですね。でも、DJやイベントオーガナイズは学生時代からつづけていて、あるキッカケでアパレルの仕事を離れたあとも、結局それが長くつづいていまにいたるんです。


堀野:岡田さんの熱意とチャレンジ精神、そして継続の大切さを教えていただきましたよ。


─ちなみに、今回はデジタル配信ではなく、いわゆるフィジカルにしたワケですけれど、その理由を教えてください。


堀野:元々はデジタル配信レーベルとしてスタートしたのですが、運営していく中で”そろそろ次のステージに進みたい”と思いはじめたんです。同時に媒体によるマーケットの違いに違和感を感じていて──、デジタル(バーチャル)、CD、アナログレコード、カセットテープ、それぞれ音の質は違えどおなじ音楽ではないかなと。さまざまなカタチで発信出来るものだから、ひとつのメディアにこだわる必要はないんですよね。
それに、ダンスミュージックを中心とした音楽が、より日常に溢れていく可能性はまだまだこれからもあると思うので、その可能性を自ら閉ざす必要性がないというのが要因のひとつです。
間口を広くして、より多く人に聴いてもらえるキッカケになれば幸いかなと。


─岡田さんと、いや『DESTINATION MAGAZINE』と一緒にやろうと思ったのはなぜでしょう?


堀野:このCDの企画を決定したときに、岡田さんの顔が思い浮かんだんですよ、ウチの音をいちばん理解している人が身近にいる!って。だから、「CDを出したいんです」と相談してみたんです。
そうしたら岡田さん、ふたつ返事で「やりましょう!」って、、、とてもうれしかったですよ。





─岡田さんは、快諾したということは、もともとそういったCDでアルバムを作りたかったからですか?


岡田:いえ、CDを出すことは考えていませんでしたね。
ただ、堀野さんのレーベルはクオリティが高いし、いままで知らなかったアーティストや、自分がいいと思うアーティストが世に出られる良いチャンスだと。
それって『DESTINATION MAGAZINE』のスタンスとおなじなんですよ。だから、音源をリリースすることにも共感出来たし、出来る範囲でご協力させていただきたいと思いました。それに、こういうレーベルこそもっといろんな人に知ってほしいという”思い”もあったんです。


─ちなみに『DESTINATION MAGAZINE』は、なぜフリーパーパーとして出そうと考えたのですか?
販売は考えていなかったんですか?


岡田:最初は売ることも考えましたよ。でも、やはりフリーペーパーの方が小回りが利くんです。内容がきちんとしたものであれば、クラブやレコード屋さんにもすぐに置いてもらえる。
有料だと音楽の現場におくためにはさまざまなプロセスを経ていかなければいけないですし、僕らが発信しようとする情報を求めている人達には、フリーペーパーという形態の方が、スピード感もあり、よりダイレクトに伝わるのではないかと考えたんです。


─なるほど。
堀野さんは、元々音楽レーベルに勤務していたこともあり、フィジカルなリリースには携わっていたと思うのですが、あえてデジタル配信レーベルに参入した理由はなんでしょう。


堀野:レーベルを立ち上げようと思った2年前は、とにかくいままで以上にCDが売れないという話を耳にする機会が多々あって、ほぼ無名にちかいアーティストがCDのアルバムやシングルをリリースするのは、皆無にひとしい状況に僕には映ったんです。同時に、それぞれの生活や人生において、音楽の在り方や楽しみ方も変わったように感じました。まさに過渡期ですよ。
でも、作品をつくり、ライブ活動をつづけるアーティストはマーケットの状況とは関係なく、変わらず存在しているし、アルバムボリュームではないにしても、シングル、曲単位ですばらしいと感じる作品をつくっているアーティストもいるワケです。それが世に出ないのはモッタイナイなと。だから、その音源たちをなんとか世の中へ送り出す方法を考えていたんですよ。
当時、デジタル配信は知り合いの誰に聞いても「分からない」という答えしか返って来なかったし、まったくの未知数でした。でも、それっていってしまえば可能性は無限大ということかなと思って(笑)。


─海外からもアクセスできるし。


堀野:そうですよね。たしかに、インターネットの世界はボーダレス。
翻訳ソフトもあるから国境もない、カードがあればどこからも買える。それにPCがなくても、ケータイでも試聴できるし。
最初に考えたのは、まずは音楽を聴いてもらうというところで、ビジネスはその次でした。


─その理由は?


堀野:過去に、音が”ひとり歩き”したということを実感した経験があるんです。それはフィジカルだったけれど、日本でプレスして日本国内で発売した曲が、何故かアフリカから「CDに収録したいからライセンスしたい!」という話が来たんですよ。考えてみたらそれってちょっとおかしいでしょ、「どうやったらそこにいくのよ?」って(笑)。
フィジカルでそんなことがあるなら配信でもあるハズなワケで、しかもそのスピードはもっと早いのかなと。アナログにはアナログの良さ、CDにはCDの良さ、もちろんデジタルにもデジタルの良さってものがそれぞれあるはずで、音楽はやはりメディアの形態にいいのかなって。だから、まずは発信するというアクションとクリエイションを大切にしようと思って、デジタルではじめたんです。とはいえ、音質をないがしろにしたワケではないので、そこは誤解のないように(笑)。
でも、それが功を奏して、海外での評価もたくさんいただくようになったのでね、自分でレーベルをスタートしてよかったと思っていますよ。


─レーベルは、どのような方針で考えているんですか?


堀野:まずは毎月のリリース。
定期的にリリースすることが一番のプロモーションだし、それがレーベルとしての存在意義のひとつだと考えています。その中できちんとクオリティの高い作品をリリースする。
レーベルとして、音はもちろん、アートワークともにクオリティコントロールは一番気をくばっている部分ですね。僕自身がひとりの消費者として、DJとして、本当に良いと思える作品かどうか。それを感じられる音源のみリリースしています。


─そして、フィジカルなメディアでのリリースというところまで来ましたが、これはおふたりでフィジカルがいいというお話をされたのですか。


堀野:そもそも先に僕がCDを出すという話を決めていたんです。
それを岡田さんに相談というよりも、「出すので、一緒にやってください!」って(笑)。


岡田:そうでしたね(笑)。


堀野:レーベルとしてはフィジカルにはまだ挑戦していなかったし、岡田さんも音楽ソフトやWEBマガジンに着手するような方向性の次のステージを、ちょうど考えていた時期みたいだったんです。だから、今回はお互いが持っていないモノ──インフラをうまくクロスさせられたら面白いかなと。


─なるほど。



(後編へつづく)






V.A
『DESTINATION MAGAZINE meets UNKNOWN season “A Day Of Rain – UNKNOWN perspective-”』





価格:¥2,100(税込)
レーベル:UNKNOWN season(USCD-1001)
発売中!


>>>レビューはコチラ





□プロフィール

・Yoshi Horino





91年よりDJをスタート。
90年代初頭の”NY Kiss FM”のラジオ番組『Tony Hu mphries Master Mix Show』に影響を受け、ダンスミュージックにのめり込む。同時に音楽とDJ、ラジオ、クラブ、販売店など関係に興味を持ち、94年より約4年間『Dance Music Record』にて、House担当バイヤーとセーラーを務め、97年より約8年間『Flower Records』にて制作、宣伝、営業など幅広く務める。同時期にDJ CosmoのリコメンドでDavid Mancuso主宰『The Loft』のウェブサイト内「ear candy」にて数年間に渡りリコメンドディスクを紹介していた。
2003年11月よりフリーランスで国内外のダンスミュージックを中心に宣伝や音源のライセンスコーディネーション、興行などを行い、2010年よりレーベルUNKNOWN seasonをスタートし現在に至る。
毎月第4土曜日に”The Saturday” at 頭バー(http://www.zubar.jp)を”Ryoma Takemasa”と共に開催。



http://www.unknown-season.com/
http://www.facebook.com/yoshi.horino/
http://www.facebook.com/unknownseason/

※『UNKNOWN season』では随時作品を募集中。『UNKNOWN season』のサイト、もしくはメール”info@unknown-season.com”までお問い合わせください。



・DESTINATION MAGAZINE





中目黒から全世界へ向けて発信されるフリーペーパー/バイリンガル・マガジン。2009年7月創刊。
これまでに数えて13号を発行し、Gilles Peterson、Dego、Squarepusher、Mark de Clive-Lowe、Ben Watt、Jimpster、Karizma、Floating Pointsなど、世界が注目するトップアーティストへのロングインタビューを中心とした誌面作りを続ける。

http://www.facebook.com/destination.magazine


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