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Interview : November 20, 2012 @ 17:11

空気を感じるアルバム『夜はそのまなざしの先に流れる』──『空気公団』インタビュー



山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の三人による音楽ユニット『空気公団』が、ライブ録音によってつくりあげたニューアルバム『夜はそのまなざしの先に流れる』を、2012年11月21日にリリース。


本作では、2012年7月6日に日本橋公会堂にて、パフォーマンス集団「バストリオ」と同名のタイトルとなるライブ&パフォーマンスを開催し、録音。

さらにあらたな音をかさね、アルバムへと変換させたという、ちょっと不思議なアルバムなのだ。

ゲストミュージシャンとして、奥田健介(NONA REEVES)、山口とも、tico moon、山本精一という実力派が参加している。


また、発売日の2012年11月21日には、『11・21空気公団ニューアルバム発売日記念LIVE』を開催し、その模様をUstreamでも配信する予定とのこと。


今回は、このアルバムについて、”空気公団”のメンバー3人にいろいろとお話をうかがってみた。






─すばらしいアルバムでした。
とくに1曲目は、”はじまり”というイメージそのままの雰囲気でしたね。

山崎ゆかり(以下、山崎):ありがとうございます。

戸川由幸(以下、戸川):物語の最初、しずかでつめたい空気、音の断片がまとまってだんだんみちびかれていく感じ。とくに曲の序盤ではそういう雰囲気をつくろうとしていたかもしれないです。1曲目だしね。

窪田 渡(以下、窪田):もちろん、1曲目ということをつよく意識してまとめた曲でした。
時計の音が永遠にきざみつづけ、徐々に場面が変化していく。録音のとき、ステージ上では演奏者以外に「バストリオ」のパフォーマンスがおこなわれていたのですが、われわれ「空気公団」の音と「バストリオ」の動きがまじりあって、ステージ上にいても強烈に印象的にみえるファーストシーンだったとおもいます。

─なるほど。夜明けからはじまって、、、みたいな1日のながれを全体的に感じました。
アルバムのトータリティについては、最初から意識されていたのでしょうか?

山崎:そうですね。
コンセプトを考える時間が今作はいちばんながかったかもしれません。制作においては、いつもコンセプトありきです。

戸川:いつも、まずは山崎からの説明会みたいなのが、といっても居酒屋とかでですが、あるんですよね。
全員で方向性というか、意識をある程度ひとつにして。演奏はやろうとおもえば本当にどんな方向にでもいけるから、そうやってある程度方向性をきめることで、雰囲気をまとめていくのは結構大事なのかもしれないです。

窪田:今回はとくにコンセプトがとてもつよく、それにみちびかれた部分はおおいですね。そして最近にしてはめずらしく、デモをつくってすすめていったんです。
かかわる人数がおおかったので、メンバー以外にも意識を共有するように心がけました。みなさん、とても素晴らしい方々なので、その部分ではとくに苦労などしませんでした。
ありがたいですよ。

戸川:本当、演奏メンバーにはたすけられましたね。
サウンド面のトータリティをもたせるという”狙い”があってのライブ録音だったワケですが、もちろんライブでやるっていうコトは一回で演奏をきめなければいけないワケで。
実際は、当日会場でやったリハーサルのテイクをいかしている部分もありますが、基本的には本番のテイクをつかっていて、それが出来るメンバーだったというのも非常におおきかったです。





─アルバムの制作方法についてですが、まずはライブとパフォーマンスをおこない、そのときの音楽を録音したワケですよね。
なぜ、二度と再現できないようなコトをやろうとおもったのでしょう。

山崎:録音のやり方をかんがえるいいキッカケとなったのが、前作『春愁秋思』じゃないかな。

戸川:前作はデモをつくらず、リハーサルである程度まとめた上で、仕上げは本番のレコーディングで一発録りというやり方で、その方法もボクらにとってはかなり斬新な方法でした。今回は、そこをある意味推しすすめたといえるかもしれません。

山崎:わたしは、空気を録音したいとおもいました。

戸川:空気感は、いつもいうよね。ボクらは正直あまりいい音に興味が無いんですよ。
ライブで録音するってことは、かならず劣化するんですよね。ケーブルも長くなるし、ノイズは乗るし。
もちろん最終的にはきちんと聴ける物になってますけど、多少音がわるくてもライブ会場の演奏をスタジオ盤として仕上げるっていうのがすごく面白いとおもって。
その場の空気を一緒に閉じ込めるというか。。。

窪田:前作のリリース後、全部で20本弱のライブをおこなったんですね。しかも、ライブハウスだけではない、本当に日本全国のいろいろな環境で。
そこは音楽だけが存在する環境ではなくて、音楽以外の、たとえば電車とか、川だとか、人通りだとか、つよい風だとか、雨だとか、、、いろいろな要素がある環境で演奏したんです。そういうところでの演奏は、音だけではなく、その場所や時間までもふくめて”音”になるということにあらためて気づかされたんですね。
その経験を昇華していったら、こういう方法での録音になりました。

─完成図のイメージは、だいたいはみえていたのでしょうか?

山崎:ステージの完成は描けてはいなかったけど、アルバムとしては描けていたとおもいます。

戸川:ボクは予想できない偶然性みたいなモノが、逆によかったんじゃないかなとおもいます。
ステージ上で演奏者はただきちんと演奏する。録音だけに集中するっていう風にはならないワケで。やっぱりそこはライブだから。

窪田:今回、本当に経験豊かなスタッフにかかわってもらったのですが、パフォーマーがいて、新作だけを演奏して、それを録音して、というステージはダレもやったことがなかったワケですよ。
最初は、「大丈夫かな?」と不安になることもあったのですが、あるとき、”山口とも”さんと”奥田健介”君をまねいて、楽曲の打ち合わせをしたときに、9曲目に収録された「あなたはわたし」のデモを聴いた直後に、おふたりから「この曲、ぐしゃぐしゃになって混沌として終わったらカッコウいいよね」って。「絶対にナニかは録れるワケだから、ぐしゃぐしゃになってもいいよね」みたいな意見をもらったんですね。それがすごいヒントになったというか。
想定外のことがおきるかもしれないが、それがこの制作の魅力のひとつなんだ!って素直におもえたワケです。それからはあまり心配しなくなりましたね。

戸川:そういうコトもあったなー。
あとは、もちろんお客さんの存在やバストリオのパフォーマンスからもらったパワーもすごくて、それが演奏に反映されたとおもいます。

窪田:たしかにパワフルだったね。
バストリオがいるのといないのとでは、まったく音がちがっていたとおもう。
最初に想定していたよりもはるかにパワフルでした。

戸川:最初の合同リハのときに、演奏が完全に変わった感覚があって。。。
アレンジは一緒だから、本当に感覚的なものなのですが、「あ、これで行ける!」と思いましたね。逆にバストリオのパフォーマンスに感動しすぎて、演奏がおろそかにならないように気をつけなきゃいけないほどでしたよ。





─その録音ライブをもとに、盤をつくっていったワケですが、ミキシングではどのくらい音を変えたのでしょう?

戸川:ミキシングに関しては、長年の付きあいであるエンジニアの”中村文俊”さんの力がおおきいです。
ボクらは「スタジオ盤として作りたい」というコトと、ある程度のイメージしかつたえなかったので。だから、そのなかで中村さんが出してきたミックスにボクらが反応して、徐々にねりあげていったというやりとりでしたね。

窪田:通常の録音の場合、曲によって楽器を変えたりするだけでなく、マイクも変えれば、録る部屋も変えたりするんです。
だけど、今回はひとつのステージで、基本的にひとつの楽器で録ったので、いわゆるアルバムの録音としては特殊な状況だったんですね。「統一感のある音」という雰囲気になれば、それはいいのだけれども、ただ一方で、どの曲も音の雰囲気がおなじで、変わりばえしないという印象をあたえてしまう危険はありましたね。
中村さんは「ミックスは、まずそこを意識した」とおっしゃっていました。当然彼はやみくもに音を変えたりはせず、すべて曲に合わせて音をつくっていくんです。最終的には、作品としてバラエティに富んだ音をたのしめるようになっているんですが、不思議なことに、どの音もたしかにあの日に演奏した音なんですよね。

─ゲストミュージシャンとして、山本精一さんと、tico moonさんが参加されていますが、どんなやり取りをしてプレイされているのでしょう?

山崎:基本は手紙です。ここはダレの気持ちをいっているとか歌詞の意味を書いたものです。ほぼそれだけ。
おふたりとも、空気を感じておもうままにしてもらったようにおもってます。

戸川:空気を感じてもらえる方々であったというコトがおおきいですね。
ライブの演奏にかさなっていてもまったく違和感ないし、それでいてあたらしい風をいれてもらえました。

窪田:そうだね。
おふたりともそうなんですが、曲のなかで登場すると、風景が変わるんですよね。そこが本当にステキで、聴いていて、いつも感激します。

─「空気公団」が描く音の風景は、いったいどんな風景を想い描いて音をつくっているのでしょうか?

山崎:どんなでしょう?

戸川:むずかしいですね。
たとえば、それを「街」と表現してみたりすることもありますが、ボクらはなんらかの風景やイメージ、メッセージなどを表現したいというよりも、聴く人それぞれがその人なりの風景を感じとれるように音楽をつくりたいと思っているところがあるんです。

窪田:空気公団を聴くことで風景が思いうかんでくれるのなら、それは本当にうれしい話ですよ。というのも、演奏していてもうかぶ風景があって、その感覚がよくわかるから。
本当にいろいろな風景なんですけれど、演奏をしていて、うかんでいる風景をなぞっていくということもやってたりします。

─「空気公団」はイイ曲がとてもおおいと思っているのですが、それぞれの曲に対して、ひらめきやインスピレーションが浮かんでくる秘訣があればおしえてください。

山崎:ありがとうございます。ひらめきという言葉いいですね。ひらめいたことあるのかな。。。

戸川:ボクも不思議ですね。
普段の山崎からは想像つかない言葉が歌詞に出てくるので、このヒトは奥がふかいなとおもいます。

窪田:たしかに山崎は多作家ですね。
しかも、たくさんの詞と曲をはやくつくるんです。モノごとに対しての切り口がするどく、そして独特なので、日常的な出来事からでもおおきなインスピレーションを得られるのではないかともおもっています、、、って、僕がこたえてどうするんだ(笑)。
でも、かんがえてみると、山崎はとかくエキセントリックな発言をするとおもわれがちなんですけれど、会話の内容はたいていの場合、きちんと筋道だっていてあまりブレがないんですね。だから、つくる曲もインスピレーションでつくっている部分と筋道立ててつくっている部分と、バランスが取れているんじゃないかな。
聴かせてもらうときはピアノと歌だけという状態なのですが、ほとんど、その時点で完成形がキチンとみえるんですよ。
少々ふるい話ですが、2005年の「あざやか」のとき、自分はアレンジャーとして「空気公団」にかかわっていて、そんな具合のデモをつぎからつぎへとわたされるから、心のなかで「なにもやることがないな~」と思っていましたよ。

─詩を書きはじめたのは、いつくらいの頃からですか?それはどんなキッカケだったのでしょう?

山崎:詩は中学生くらいからです。
いま、見返せばどうでもいいこと書いているんでしょうけれど、そのときは「これだよ」くらいおもってたかな。手書きで書いて、パソコンで書いた文字に感動してましたね。
小学生のときに書いた「同じだ。」という作文と、「弟はどこへいった」だったかな?それはいまでももってます。

─詩と曲では、どちらをさきにつくるのでしょうか?

山崎:なるべく同時にしてます。
メロディだけできてしまうと「あーあ」って心のなかでおもってしまう。言葉がしっかりのっかってるメロディーが重要なんです。

─結成されてから15年になりますが、あらためて音楽活動をつづけていく上で大切なものとは?

山崎:どんなことなんでしょうか。わたしも知りたいです(笑)。

戸川:うーん、、、なんでしょうね。

窪田:では、代表して。っていいのかな(笑)。
音楽活動をつづける上で、大切なのはナニよりもリスナーのみなさんですよ。こればっかりはもう、本当にいつも感謝しています。ありがとうございます。
そして、制作という面でいうと、いまは自分たちでレーベルを運営していて、自分たちの責任で、そしていろいろな方法で作品をリスナーにとどけていますけれど、それはこわくなるくらいに自由なんですよね。そんな環境だからこそ、いつも、やりたいと思ったことをやる、と思っています。むかしからそう思っていたのですが、いまはさらにつよくおもっていますね。つづけていく上で、大切にしている部分といえば、結局はそこなのではないでしょうか。
あとはナニよりも協力してもらえるスタッフ。コレなくしては「空気公団」はありえないとおもいます。





─韓国や台湾などの海外でもアルバムがリリースされていますが、日本のリスナーとはちがう反応を感じたことはありますか?

山崎:とくにおもいませんが、わたしは感動してます。高校生のころ、中国語をならっていたので。
だから、もっとしっかりやっとけばよかったです。

戸川:言葉がわからなくても感じとってもらえるものがあるなら、すごくうれしいですけどね。
いつか海外でもライブやってみたいです。

窪田:じつは、以前「メロディ」という作品を台湾で発売したとき、現地の音楽関係のホームページにBBSみたいなのがあって、作品の感想が書きこめるようになっていたんですね。
そこで「メロディ」に関する書きこみがあって、興味があったので翻訳してみたのですが、そうしたら「癒される」とか「心地よい」といった単語がたくさんでてくるんです。「日本とおなじことが書かれているんだな」と思いましたよ。
言葉が通じないだけに、サウンド面が印象にのこるから、そういった書きこみになったのかもしれませんが、それはそれでとてもうれしかったです。
だから、いろいろな国でライブをやってお客さんの反応をみたいですね。おどってくれたりしないかな。。。

─今後のライブ活動について、どんなスタンスで、どんなアプローチを考えていますか?

山崎:日ごろ「空気公団」を聴いてくれているみなさんのなかで、すくすくそだっている様子をみにいくような、そだててくれている方に会いにいく感じがしてますね。

戸川:ライブでは、いろいろな編成でやっているので、それがたのしいですよね。もちろん3人だけっていうのもどんどんやっていきたいし。
“編成が変わる=そのたびにあたらしいアレンジが生まれる”ってことなので、お客さんにもそういう部分をたのしんでもらいたいです。

窪田:この間、長野県の廃線となった電車の駅でプロモーションビデオを撮影したんですね。野外での撮影で、駅のホームに楽器をならべたり、ベンチにすわって演奏したりといった感じで。
そこは本当に平和な日常風景がひろがっていて、朝はやくの撮影だったので、中学生が自転車で部活に出かけているような光景がひろがっている。そこで新作の曲を演奏したら、あらたな一面が見えたんです。
光景と音がまじってあたらしいモノができた。だから、いろいろな場所で、とくに人が普通に生活している場所で、生演奏をしたい、という気持ちがあります。
そういった場所での演奏をお客さんにみてもらって、みんなでたのしめてもらえたら、本当に素晴らしいでしょうね。


─ありがとうございました。



(おわり)







空気公団
「夜はそのまなざしの先に流れる」





発売日:2012年11月21日

価格:3,000円(税込)



□ライブ情報
2012年11月21日
『11・21空気公団ニューアルバム発売日記念LIVE』
@西麻布「新世界」

演奏:空気公団
ゲスト:tico moon、山口とも

放送時間:21:00-22:00(Ustream生放送)
空気公団チャンネル:http://www.ustream.tv/channel/kukikodan


□空気公団プロフィール
1997年結成。
現在は山崎、戸川、窪田の3人で活動中。ささやかな日常語、アレンジを細やかにおりこんだ演奏、 それらを重ねあわせた音源製作を中心に据えながらも、映像を大胆に取り入れたライヴや、様々な芸術家とのコラボレーションを軸にした展覧会等、枠にとらわ れない活動を独自の方法論で続けている。
http://www.kukikodan.com/


PHOTO:TAKAMURADAISUKE


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