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Interview : December 18, 2013 @ 15:33

『キューティー&ボクサー』 を知る──「キューティとボクサー、そして監督と」(前)



現代アーティスト”篠原有司男(a.k.a ギュウチャン)”と、ペインターアーティストでその妻、篠原乃り子。


ニューヨークを拠点に、40年以上にわたって、活動してきたふたりを描いたドキュメント『キューティー&ボクサー』は、スーパーがつくほどリアルな彼らの生活を、おしみなく披露している。


ニューヨークでアーティスト活動をつづけるというのは、どういうことなのか?

また、海外への移住生活の現実とは??


今回は、そんな”ギュウチャン”と”乃り子”さん、そして、この映画の監督”ザッカリー・ハインザーリング”氏に、いろいろとお話をうかがって、映画『キューティー&ボクサー』の世界を、さらにフカボリしてみた。





カネコヒデシ(以下、カネコ):ザッカリー監督、
まずは篠原夫妻との関係はどこからはじまったのでしょうか?

ザッカリー監督(以下、ザック):今作のプロデューサーで名前が入っている
“パトリック・バーンズ”と古い友人で、
2007年に彼が当時ジャーナリストをやっていたときに、おふたりにお会いしていたんです。
その後、2008年に彼と篠原夫妻のアトリエに伺って、そのときにはじめてお会いしました。
ボクはカメラをもっていて、その場を撮って、それをベースに短編をつくったんです。
それを1年後におふたりに見せたら、彼らは企画を気にいってくれて、
そこから撮りためていった感じなんです。

カネコ:そういえば、おふたりの会話は、映画のなかの会話、そのままですね(笑)。
まったくもってつくってない、ホントのドキュメントだなと感じました。

篠原有司男(以下、ギュウチャン):うん、そうだね。

カネコ:あの作品は、監督がずっとついて回っていたんですか?

篠原乃り子(以下、乃り子):そうじゃないんですよ。
彼は普段は働いていたからね。
だから、1週間に1回くらいのわりあいで来て、真夜中すぎまでいる。
というのを、毎週毎週やっていたの。
たまに週に2回というときもあったけれど。
それがずいぶん長期にわたっていたから、フィルムだったら莫大な量ですよ。

カネコ:どのくらいのなかから、編集されたんですか?

ザック:約300時間くらいの記録がありました。
そこから選んで、編集していく作業で、
編集の期間もカブって5年くらいでしたよ。

乃り子:当時は、永遠にただただ撮影をつづけるとおもっていたのよ。
10年か20年か(笑)。
ちょうど、2年前に、出来上がったサンプルのトレーラーが賞をもらったの。
その時になって「ああ、ちゃんと編集してたんだ!」って、
ちゃんとつくろうとしてたんだってはじめてわかったのね(笑)。
すばらしい賞をもらったから、急に彼(ギュウチャン)の映画ではなく、
わたしたちみんなの映画になっちゃったワケよ。

カネコ:なるほど。
それは意外だったワケですね。
出来た作品をおふたりでご覧になったときは、どうおもいましたか?

乃り子:私はトレーラー(予告)を観ていたので、
“キューティ”が中心で、わたしとギュウチャンが半々くらいってコトが分かっていて、
そのときのコンセプトがそのまま生きてたから、
本編もおなじバランスでおもった通りの出来だったの。
ところが、彼は。。。。

ギュウチャン:そうだね!
映画の前半がボクが主役で、そのままいくんだろうとおもっていたら、
最後に主役を乃り子に奪われて、しかも殴られてって感じになってね。
そういう点ではちょっと不満なんだよ。
でも、試写会をあちこちでやっているときに評判がすばらしくいいのでね、
「映画というのはこういうものなんだ!」というのを、すごく教えられたような気がするね。
だけど、ボクの頭のなかのコンセプトは、コレじゃないなという気がしているよ。

カネコ:ちなみに、有司男さんのなかでは不満だったワケですね。

ギュウチャン:でもね、この映画自体はすばらしいとおもうよ。
観客の反応がスゴかったからね。
たとえば、ミズーリ映画祭のときなんかは、
1500人もの観客がスタンディングオベーションだったんだ。
ヤンキーススタジアムで松井がホームランを打ったときの感じでね。
あれは生まれてはじめての体験だったよ。
こんなに観客が素直な反応をしたのははじめて。
美術館とか、個展やなんかではないからね。
だから、すばらしいとおもうよ。

カネコ:最初のコンセプトとちがったというのは、最初はどんなコンセプトだったんですか?

ギュウチャン:最初は、ボクのボクシングペインティングでスタートしたでしょ。
ボクの、、、

カネコ:おひとりだけって感じだとおもった?

ギュウチャン:そうじゃなくて、
もちろん「金魚のフン」みたいにくっついてきてもいいんだけれどさ(笑)。
ダイナミックな篠原有司男のアートの表現だとおもっていたワケよ。

カネコ:映画のなかでも「金魚のフン」という表現がでてきましたね(笑)。

乃り子:「並の人間は天才に尽くさないといけない」とかいっているよね(笑)。

ギュウチャン:そんなコトは言ってないよ!

乃り子:言ってる、言ってる(笑)!

カネコ:どうしても笑っちゃうんですよね、おふたりの会話(笑)。

乃り子:だから、彼はまだ過去の幻影を追っかけているワケですよ。

カネコ:有司男さん、とても不満な顔をされていますけれど(笑)。

乃り子:若いときは、私はもちろん彼のフォロワだったワケですよ。
だけど、それが永遠につづくとおもっているのが間違いで、それに気がついていないワケ。
ウェイトが変わってきているってことにね。
それに、最初はフォロワだったと彼は錯覚しているけれど、
のように見えたんだけれど、そうじゃなかったのよ、最初から。
私は最初から絵を描いていたんだけれど、
彼のスタジオで絵をかきはじめたときは、
彼は絵の具をもってなかったから、絵をかけていないワケなのよね。
彼は、私の絵の具だけじゃなくって、私のアイディアもかっさらったワケ。
あと、銀行口座もね(笑)。

カネコ:わははは(笑)。

ギュウチャン:もうー、開いた口がふさがらないよ(笑)。

カネコ:どこまで記事にしていいのか、わからなくって来ましたけれど(笑)。
ザック監督、撮影中もこんな感じの会話だったんですか?

ザック:そうです。このまんまでした(笑)。

カネコ:ちょっと言い過ぎじゃないの?とか、ふたりの間にはいったことはないのですか。

ザック:それはなかったですね。
この映画でやろうとしていたのは、
彼らふたりのやりとり以上の、
そこで生まれるユーモア以上の、
その下にあるナニかを解きあかす目的もあったんです。

乃り子:それに5年かかったワケよね。

ザック:はい(笑)。

カネコ:ボクは日本に住んでいるワケですけれど、
ニューヨークで活動されているアーティストの方々のリアルな一面を、
この映画で見れたような気がします。
もちろん、日本のアーティストもおなじ状況なんでしょうけれどね。
でも、どうしてもアーティストという、
いわゆる「幻影」みたいなものをみんなが持っいるとおもうんですよ。
この映画を拝見したときに、
「生きているんだ!」というコトが、とても伝わってきました。
若いヒトたちにも、この映画を観てもらえるといいのかなとおもいましたが、いかがでしょうか。

乃り子:「幻影」というのは、みんなが持つモノで、
たとえば、ハリウッドスターに対しても「幻影」をもっているワケじゃない?
この映画で見せたのは、その裏だったワケよね。
いままでのそういったアーティストのドキュメンタリーだと、
その「幻影」のまま追いつづけているものがおおかったとおもうの。
だから、この作品はあたらしいドキュメンタリーだとおもうし。
コレはさ、人間が生きているかぎりにおいては、かならずおきる問題でしょ。
ソコをあつっているから、みんなのココロにうったえたんだとおもうの。
でも、コノ作品を「若い人に観せてどうなるか?」というのは、ワタシは責任を持てないのね。
というのは、友人で新婚のある若い青年が、奥さんと一緒に観たんだけれど、
奥さんが泣き出したっていうのよ。
「結婚生活って、こんなに辛いものなの?」って。
だから、『新婚さんお断り!』ってキャッチを書いていた方がいいとおもう(笑)。

カネコ:ははは(笑)。
たしかに見る人にもよるんでしょうね。
でも、ボクはもっといろんなヒトにみてほしいなとおもいました。
もちろん、おふたりの活動なんかも知ってもらいたいし。

ギュウチャン:ロスの映画評論家たちに、
「これを美術学校の新入生に見せろ。そしたら学校の新入生の半分は辞めるぞ!」って言ったよ(笑)。

乃り子:若い人みんな、会計士の方が成功するってね(笑)。

カネコ:アートではなく?

乃り子:そう。

カネコ:それはなんとなく夢がないし、残念な気がしますね。




(後編へつづく)







2013年12月21日 シネマライズほか全国ロードショー!

『キューティー&ボクサー』





監督:ザッカリー・ハインザーリング

出演:篠原有司男/篠原乃り子


配給:ザジフィルムズ、パルコ
提供:キングレコード、パルコ


オフィシャルサイト:http://www.cutieandboxer.com/

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