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Interview : January 29, 2015 @ 16:02

「中国社会のいま」──”ロウ・イエ”監督に訊く



映画『二重生活』で、中国国内では5年ぶりにメガホンをとった、”ロウ・イエ”監督。


『天安門、恋人たち』や『スプリング・フィーバー』など社会派な作品のおおい監督だが、今作『二重生活』もまた、現状の中国社会の見えない問題に挑んだ作品となっている。


今回は、来日中の”ロウ・イエ”監督に『二重生活』のお話を中心に、「中国社会のいま」について訊いてみた。





─まずは今作、いわゆる男女のちょっと歪んだ愛のカタチというか、
このようなテーマを選んだ理由を教えてください。


“ロウ・イエ”監督(以下、ロ):
この物語は、作品の紹介文などにも紹介されていますが、
原型になった物語はインターネットのブログなんです。
そこから話を膨らませて、このようなストーリーにしました。


─英語原題では「Mystery(ミステリー)」となっており、
ジャンル的にも”ミステリー”的な物語に区別されていますが、
現代中国を描くのに、なぜ”ミステリー”がふさわしいと思ったのでしょうか?


ロ:
この話はブログ作者の実体験からできてはいますが、
撮影をすすめていくなかで、ミステリータッチにした方が作風にあうとおもったからです。

ただ、私個人の意見としては、
いわゆる”ミステリー”というアメリカ的なジャンルの分け方には、
あまり賛同できないんですよ。

そのジャンルでもって、現代の中国社会を描くコトは不可能だからです。

アメリカでつくられた”ミステリー”というジャンル、
あるいは「フィルム ノワール」的なジャンルにはおさまりきれない。

制作の過程で、現実の生活をリアルに描くことを優先するか、
あるいは「ミステリー」というジャンルの描き方を優先するか、
二者択一に迫られたとき、かならず現実生活をリアル描きだす方向をとりました。

そのようにしてこの『二重生活』が出来たんです。
だから、出来上がったモノは、”ミステリー”というジャンルと、
まったくそうではない部分が混在していますよね。

たとえば、ラストにおいては、
いわゆる”ミステリー”的なストーリーからは外れた描き方になっています。
ダレも加害者でないと言えるし、みんなが加害者であると言える。
加害者がはっきりとは分からない状態。
そして、ダレも処罰を受けない。

このような状況は、じつに現代中国の社会を反映しているのです。


──主人公3人のココロの有り様、
人間のエゴとか、矛盾した部分をいい悪いなく描いていますが、
そのようなカタチで描くことで、その部分を肯定しているということでしょうか?


ロ:
それは監督が白黒をつけてはいけない部分だとおもうんです。
それを判断するのは、観客のひとりひとりですから。

監督は沈黙をまもる立場ですが、
私の考えはこの映画を観ていただければわかるとおもいます。

先のジャンルについての質問に対してもおなじですが、
私の姿勢は「非アンチ ジャンル」だというコトですね。

ラストについても、悲観的ではあるけれど、
しかし、その悲劇を記憶することで、
人間らしさをたもっているというワケです。


─現状の中国社会の恋愛事情において、
例えば、この物語のような状況が頻繁におこっているのでしょうか?
中国の恋愛カルチャーには、あまりそういうイメージがなかったのですが、
わりと自由恋愛な社会になっているのか。
現状を教えていただけますか。


ロ:
たぶん、ご存知のその中国の状況というのは20年くらい前の話かなと(笑)。

たしかに、男女の恋愛については、
非常に不自由な時期がしばらく存在していました。
愛人とかもいないし、自分の恋愛をおおっぴらにしないような社会。
しかしその後、一挙に自由で解放的な状況がでてきたワケです。

もちろん政府の方では、ポルノとか、そういった風俗的な類いは禁止している状況です。
しかし、ピンクサロンのようなものも存在しますし、
ヒトビトはわりと自由にインターネットでさまざまな情報を得ていますよ。
恋愛も、あまりつつみ隠さず、な状態になっていますね。
愛の、恋愛の事情もさまざま。
だから、いまはとても解放されていると言えます。
おそらく、他の国とあまり変わりはないかも。

登場人物の男、ヨンチャオはお金持ちのミドル階級という感じですが、
本妻がいるのに愛人宅もある。
そして、その他に他の女の子と浮気もしている。
彼は恋愛を自由に行っているワケです。

ただ、自分の好きなようにやっていても、それに充足感を感じず、たのしくない。
お金の自由は、すなわち本当のしあわせを得られるのか?というと、けっしてそうではない。
そこに大きな問題が潜んでいると考えているワケです。


─監督の作品では、つねに性と政治と経済が、相似的なものとして撮られていますよね。


ロ:
だいたいそんな感じです(笑)。
しかし、いま言われたものは、我々の普段の生活のなかでかならず影響のあるものですよね。
さまざまな問題、さまざまな事件は、それら3つの要素のどれかに強く関わっているワケですから。


─愛とは”困惑”、そういう現状を今作で描きたかったのでしょうか?


ロ:
そのとおりです。
困惑のなか、ダレもが満たされない、ココロの不安定な状況。
それは中国社会では普遍的なものなんです。
満たされないから、あたらしい刺激をどんどん求める。
ただ、そういう”困惑”自体が愛のひとつの形だともおもいます。

愛というのは、いろいろなトコロに瞬間の愛が生まれるし、
本来、愛が生まれるべきところに生まれないかもしれない。
いろいろな可能性があるのです。

全部がそうとは言えませんが、
“困惑”こそ愛のひとつのカタチなのではないでしょうか。


──現在の中国情勢で、先日、香港で学生デモがあったりとか、
そういう状況になっていますが、
今回の香港以外、たとえば上海とか北京などの大都市などでも、
若い人たちの自由社会への”憧れ”みたいなものはあるのでしょうか?
監督の目から見ていかがでしょう。


ロ:
そうですね。
“自由”への憧れは、ほぼおなじだとおもいます。
香港の学生デモもそうですが、
89年に起きた大きな抗議デモ、
いわゆる「天安門事件」も学生運動からはじまったのでおなじです。
若い人は、自由に対して声をあげる権利はありますよね。

自由とか平等とか民主とか、けっして西洋文明がもたらしたものではなく、
それは人間が身体で感じる”感覚”なんだとおもいます。
その感覚を受けつけられないとき、そこに怒りが生まれて爆発する、
そういうコトなのではないでしょうか。


─今作の脚本について、”メイ・フォン”さんとはどのようなやり取りがありましたか?


ロ:
具体的な部分について話をすすめていきました。
例えば、ヨンチャオがルー・ジエに対して、その段階でどういう気持ちでいるのかというコト。
愛していないのか、それでも愛があるのか。
そんな風に具体的にひとつずつすすめていきました。


─ルー・ジエとサン・チー。
ふたりの女性は求めていた愛がかなり異なっているように見えましたが、
いかがでしょうか?


ロ:
ふたりは、愛に対する考え方、理解の仕方、まったく異なっています。
もちろん、みんな、ひとりひとり愛に対する考え方はちがいますよね。
見え方にもよりますがヒトによっては、
ルー・ジエは未来のサン・チーであって、
サン・チーは過去のルー・ジエであると理解しているヒトもいます。


─ブログ作者の実体験が元という話でしたが、
中国国内でそういうブログを書かれているヒトは結構おおいのでしょうか?


ロ:
じつは、かなりおおいのです。
私たちは、そのなかからアクセス数のいちばん多いものをいくつかえらびました。

なかには、まったく根も歯もないウソ八百な話もあるワケですよ。
女の子を装ってオトコが書いていたという例もありましたしね。
まあ、インターネットってそいうものです。
顔も見えないですから。

脚本をつくるときのいちばん最初の仕事は、
作者が本当にその人なのかというコトを、会ってたしかめるコトでした。


─作者の方に実際に会われたのですか?


ロ:
ええ。
作者は女性で、スタッフが会ったのです。

最初は、彼女にとってその事件は解決していて、
すでにあたらしい生活をされていたので、
そこにはタッチされたくないという感じでした。

ただ、それまで私の映画を観たコトがなかったらしく、
観てくれた後にこの物語の使用を同意してくれたのです。
たぶん、彼女にとって自分の好みの作品じゃなかったら、
「イヤだ!」と言われたかもですね(笑)。


─監督の映画の主人公はだいたい苦悩しているように見えますが、
日本では短絡的、楽観的であるコトが幸せへの近道みたいな風潮があります。
そういった風潮についてはどう思いますか?


ロ:
楽観的な態度が幸福を得る、と私も考えています。
でも、人間はずっと楽観的にいることはムリですよね。
あるときは楽観、あるときは悲観、その瞬間瞬間の変化じゃないでしょうか。
自分が悲観状態にあるときは、時間が解決してくれると考えるようにしていますね。


─監督自身は、明るい方ですよね?


ロ:
それは、、、
自分の悲観的な部分をすべて自分の作品に入れこんでしまっているからですよ。
スミマセンね(笑)。


─いえいえ(笑)
ありがとうございました。







2015年1月24日より、新宿K’s  cinema、渋谷アップリンクほか全国順次公開!

『二重生活』






監督:ロウ・イエ

出演:ハオ・レイ/チン・ハオ/チー・シー/ズー・フォン/ジョウ・イエワン

脚本:ロウ・イエ/メイ・フォン/ユ・ファン

配給:アップリンク


オフィシャルサイト:http://www.uplink.co.jp/nijyuu/


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