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Interview : November 21, 2016 @ 12:03

映画『エヴォリューション』が公開!──”ルシール・アザリロヴィック”インタビュー



「カンヌ国際映画祭」をはじめとするかずかずの映画祭などで上映され、さまざまな賞を受賞している、”ルシール・アザリロヴィック”監督。


『アレックス』や『エンター・ザ・ボイド』、『LOVE 3D』など、さまざまな議論を生みだした問題作をつぎつぎと世へと贈りつづけている奇才”ギャスパー・ノエ”とも親好がふかく、彼女の作品もまた不思議な世界感を打ち出し、世界の映画界へと一石を投じている。


そんな彼女の最新作『エヴォリューション』は、うつくしい映像と、あるようでないようなストーリーを展開し、観ているワレワレをふしぎな世界へと引きずりこむような作品だ。


今回は、来日中の”ルシール・アザリロヴィック”監督に、今作『エヴォリューション』についてのお話しを中心に、彼女自身の生い立ちに関してなど、さまざまなお話しをうかがってみた。







─まずは、今作『エヴォリューション(Évolution)』というタイトルの由来を教えてください。


この”エボリューション”というタイトルには、ふたつの意味が込められています。

ひとつは、「ダーウィンの進化論」じゃないですけれど、生物学的な意味。
それは、この映画は”ハイブリッドな生物を生みだす”というのがテーマなんです。
海の生き物と人間の混成というか、、、そういったモノですね。
人間、、、人類は、海から陸に上がってほ乳類へと進化していった、
という生物的な”エボリューション”。

もうひとつは、少年のココロの成長という意味。
これからオトナになっていく、オトコの子として、人間として進化していく。

そのふたつの意味からですね。



─今作の構想自体は、前作『エコール』よりも前にあったそうですが、
作品にするまでに10年以上月日が経ってしまった理由はなんでしょう?


たしかに『エコール』の前からこの作品の構想はありました。
でも、そのときは病院のイメージ、
それとその病院にやってくるお腹がイタイ男の子のイメージがあったくらい。

それらのイメージをふくらませようとしたときに、
『エコール』の原作を友人におしえてもらって、
そちらの方に意識がいって、
そのまま『エコール』の撮影までしてしまったんです(笑)。

『エコール』の作業がすべて終わってから、
またこの作品の方に取りかかりました。

病院のイメージにくわえて、海のイメージとか、
イメージはふくらんでいったのですが、
その後のイメージづくりやストーリーづくりよりも
予算を得ることにとても時間がかかってしまった、
というのがいちばんの理由ですね。
とにかく、そこに時間がかかりました。



─このストーリーの設定を思いついた理由というか、
出来事みたいなコトはあったりするのでしょうか?
たとえば、そういう変わった風習のある土地に行ったことにインスパイアされたとか。


風習とか、そういうものは特にありません。

今作は自分の中で、現実に起きたことに対して感じたことを組み合わせて、
こういった物語になったんです。

そして、あえていろいろな設定を逆にしてみたんですよね。
たとえば、女性の方が男の子に危害をくわえたり、
男の子が絵を描いたり。。。

作品の中の男の子は空想の中で現実の絵を描いてますが、
ワタシの映画の中では、映画の現実のなかで空想の絵を描いています。
そういうアソビというか、いろいろな部分をたのしんでみた作品なんですよ。



─たとえば、日本だと、かなり山奥の村というか集落のお祭りとかで、
そういう不思議なお祭りがあったりします。
そういうモノを体感したということではないんですね?


それはオモシロそうですね!
そういうトコロにはぜひ行ってみたいです(笑)。
でも、残念ながら、今作に関してはそういうものではないのです。

私自身は、人類史を勉強しているなかで、
もちろんそういう社会というか、文化があることは知っていますが、
今作においては、そういう社会学的なものはないですね。

むしろ、少年の不安な気持ちというのがいちばん最初にあって、
それと、母親との関係を展開していっただけ。
とくに風習とか、そういう文化的な部分、要素はないです。



─撮影手法やロケ地でこだわった点、そして難しかった点などを教えてください。


ロケ地には本当に恵まれました。
ランサローテ島という島で撮ったのですが、
火山の島なので、黒いゴツゴツした岩、そして白い壁の村、
さらに海の中のシーンでもうつくしい自然がそこにあったり、
映像にワタシがイメージしていたとおりの映像になったロケ地に出会えました。

あの村は島の中でも、観光客があまり来ないような自然のおおい場所にあって、
孤立していて、昔のままなんです。

そのままいまの時代にきてしまったような、おとぎ話に出てくるみたいな、
そういった様相を呈していました。

もともと頭の中にあったイメージが、
“ナルシソ・イバニェス・セラドール”の映画『ザ・チャイルド』に出てくる村だったんです。
その村も南国の人里はなれた白い壁の村。
そのイメージが強くあったので、そこがリンクしてすぐに決めました。

撮影監督は、”マニュエル・ダコッセ”さんで、
彼がとても仕事が早く、しかもワタシが意図しているコトを的確に実現してくださったんです。

照明は自然光をつかい、カメラはフィックス(定置)で、アップにするところはアップに。
そういった感じでカメラワークについてはすごく話し合いました。

構図的には、60年代の日本映画を彼にも勉強してもらいつつ、
本能的に撮影していったという感じです。

今回は、デジタルでの撮影でしたが、テクスチャもすごくこだわって、
ぼんやりとした夢のような、そういった映像が出せるよう心がけました。






─作品中の病院に使用された建物は、そのにあったのですか?


そうです。
あの建物自体は、実際に島にある建物で、じつは建設中のホテルなんです。
崖の上にあって、孤立した場所にあったので、テクスチャ的にはとてもよかったのですが、
まだ建設中なので窓も扉もなく。。。

ただ病院に入っていくシーンは、作品の中ではとても重要なシーンだったので、
加工して扉をつくりました。

外観は島にあったその建物を使用して、
内部はバルセロナの郊外にある、
つかわれなくなった病院で撮影したんです。



─たしかに、古い日本映画っぽい雰囲気は感じました。
あまり音楽がつかわれていないというか、
使用されていたとしてもあまり主張を感じない部分など。
60年代の日本映画というのは、具体的にどのあたりの日本映画でしょうか?


劇中の音楽に関しては、”勅使河原宏”監督の『砂の女』の音の使い方に影響をうけたかもしれないです。
ワタシたち西洋人にとって、日本映画の音の部分は、とても奇妙に聞こえたりするんですよね。
その影響はかなりうけているかもしれないです。

この作品では、オンド・マルトノという楽器の音楽を使用しているのですが、
とてもメランコリックではありますが、非常に不思議な印象をうける音をあえてつかってます。

そういえば、”新藤兼人”監督の『裸の島』という映画では、
おなじメロディが繰り返しながれるシーンがあるんです。
いま、ふと、その影響もあるのかなーとも考えました。



─病院内で、入院している少年たちが全員、”白いブリーフ”を履いていたのがとても印象的でした。
“少年イコール白いブリーフ”みたいな、そういうイメージがあったからなのでしょうか(笑)?


むかし風というか、時代を超越した感じを出したかったので、
あまり現代的なパンツを履かせたくなかった、というのと、
水着が赤だったので赤いパンツを履かせるワケにもいかず(笑)、
全員一緒で、とくに時代を感じさせないという点で、白に統一しました。

ああいう世界感だったので、軍隊的に画一性をもたせたかったというのもあります。
おなじパジャマで、おなじパンツ。

そいういう感じからですね。



─前作同様、今作でも子どもに焦点が当たっている作品ですが、
ナニかご自身の体験的なものがあったりするのでしょうか?


ワタシ自身が、その年齢だったときにいろいろなものを感じた時期でしたし、
その頃の自分がいまも強くのこっているというのがあります。
この映画を撮ることで、一種のカタルシスを得ようとしている、、のかもしれないですね。

『エコール』だけでなく、その前に撮った『ミミ』という作品も子どもが主人公です。
9歳から11歳くらいの子どもって、とても感受性がつよくて、
オトナの世界にはいるにあたって、いろんなものを体験していくワケですが、
そういうのってすごくオモシロいとおもうんですよね。

だから、子どもを主人公にするのが好きなんです。



─いちばん最後のシーンの意味について、バレない程度でかまいませんので(笑)、おしえてください!


現実に引きもどされるという形にはしたくなく、
ハッピーエンドにもしたくなかったんです。

あくまでも”あたらしい段階にうつった”というだけで、
結果としては、そこには不安がある。

安心できる、、という、終わり方ではないんですよ。


─”あたらしい段階にうつった”という意味で、
やはり”エボリューション”ということなんでしょうか?


そうです(笑)!


─ありがとうございます(笑)!






2016年11月26日より、渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国順次公開!

『エヴォリューション』





脚本&監督:ルシール・アザリロヴィック

出演:マックス・ブラバン/ロクサーヌ・デュラン/ジュリー=マリー・パルマンティエ/ほか


プロデューサー:シルヴィー・ピアラ、ブノア・カノン
撮影監督:マニュエル・ダコッセ
美術監督:ライア・コレット

配給・宣伝:アップリンク


オフィシャルサイト:http://www.uplink.co.jp/evolution/


□ストーリー

とある島、少年だけに施される奇妙な医療行為。

その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となっている。

異変に気づきはじめたニコラは、夜半に出かける母親の後をつける。

そこで母親がほかの女性たちと海辺でする「ある行為」を目撃し、
秘密を探ろうとしたのが悪夢のはじまりだった──。




© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015


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