Interview : June 26, 2017 @ 16:52
“こだわり”の対談(後編)──”イ・インチョル”監督×シューズデザイナー”横尾 直”
“イ・インチョル”監督による初公開作品『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』が大好評で公開中だ。
短編ながら、さまざまな憶測を生み、まさに想像力をかきたてられる作品となっている。
その物語の神髄とは。。。
ひきつづき、女性ながらメンズシューズのデザイナーをやられている”横尾 直”さんと”イ・インチョル”監督に、自身の仕事への”こだわり”についてお話しながら、今作の根幹である人間の”こだわり”という”欲望”について、いろいろと”こだわり”についてこだわってお話をしていただいた。
盛りあがりすぎて、ネタバレギリギリ寸前まで迫ってしまった、スン止め対談の後編である。
─横尾さんは、実際に靴のオーダーメイドをされていますが、つくられたものがお客さんに合わなかった時とかありますか?
横尾直(以下、直):
ありますねー(笑)。
そのときは、革を伸ばしたり、ナンとかします。
─そういう状況をなくすにはどんな解決法があるのでしょうか?
直:
フィッティングシューズというか、
試作をつくればそんなコトはほとんど起こりにくいのですが、
そうなると、ある程度、値段を高くしないと、、、なんですよねー。
だから、「ナンで合わないの?」と言われたら、
「それはそれだけの金額を出してくれないからでしょ!」って(笑)。
─かなりリアルなココロのコトバですねー(笑)。
直:
すごくリアルになってしまうんですよねー(笑)。
でも、そういうクレームって、
すごく自分が傷つきますよね。
だから、今作はその時の自分とかなり重なって観ていました。
「嗚呼、辛い!あったなーそういうこと!」って(笑)。

─やはり、そうでしたか。
監督は、今作の物語をつくる上で、どのような取材をされたのでしょうか?
イ・インチョル(以下、イ):
今回、靴職人の話に決まったあと、
彼女(横尾さん)も含めてですが、上野の工房だったり、
東京にあるいろいろな靴職人さんに、
具体的にお話を聞いてまわりました。
ボクが行った靴の工場って、
男女が完全に別れて作業をしているんですよね。
そして、男性は力を使うこともあり、けっこう暗い場所で作業をしていて、
女性の方はすごく明るくて、音楽だったりラジオが流れている部屋で作業しているんです。
その差がかなり面白かったですねー(笑)。
直:
女性は縫製をするので、部屋が明るいんですよ。
イ:
その分け方が面白かったので、
じつは物語にも反映させています。
─おふたりに、ナニかをつづけていくという点で、「ココはゆずれない!」という部分はありますか?
直:
私は最初、「デザインだけして生産をメーカーに頼めば?」と、
いろいろなヒトにアドバイスされたんです。
もともとデザイナーなので。
でも、それで自分のおもい通りの靴が、
ひとつも出来てきたコトがなかったんですよね。
それでいまのスタイルになったというのがあります。
ホントは職人になりたかったワケではなかった。
よく「靴をつくるのが好きなんですね!」とか言われるのですが、
実際は全然好きではなかったりします。
靴をつくるってかなりハードなコトで、
途中、すごく苦しいですし、
出来上がったときにしか喜びがない。
でも、そういう”ゆずれない部分”があった故に、
ココまで来てしまったという感じですかね。
恐らく、異常なこだわり屋なんだとおもいます(笑)。
イ:
でも、それってナニかをつくる上では、みんな似ているとおもいます!
そのこだわりがあるから自分自身でつくるんじゃないですかね。
直:
その通りだとおもいます。
イ:
ボクも横尾さんに似ていて、
セリフとか、物語における具体的な部分を、
他人に変えられるのが好きではないんです。
役者さんにも必ず「そのままでお願いします!」って。
間違った部分は一緒に直してもいいんですけれど、
それ以外はあまり認めないです。
直:
あー、、似てますね(笑)。
イ:
そうなんです(笑)。
そういう意味では、ジャンルに関係なくナニかをつくる人って、
こだわりのポイントは自分の意図を守ろうとする部分なのかなとおもいますね。
直:
私も人の意見には惑わされないんですよ(笑)。
イ:
もちろん、良い意見だったら聞くかもですが。
たとえば、他の人がボクの希望する完璧なモノを持ってきたら、
それはうれしいかもしれないです。
でも、そんなのは見たコトないですけれどね(笑)。
─まさに、生産を工場に任せたときに完璧がなものが出来て来ないから自分でやってしまうという、、、横尾さんと一緒ですよね(笑)。
イ:
そうです(笑)!
ボクの好み的に完璧な映画がつくれる監督が10人いたら、
自分で映画を撮らなくてもいいとおもっています。
もともと映画監督になろうとおもったキッカケは、
ボクは本が好きなのですが、
とある本が映画化された作品を観た時に面白くなかったんですよ。
それで、自分ならもっと映画を面白く撮れるかなとおもって、
自分自身でやってみようと。
もちろん面白い映画もありましたが、
それが100%好みでもなかったし、
好みの映画だとしても時代が違っていたので。
ナイからとか、
他人が出来ないから自分でやるというのは大きいですね。
直:
たしかに私もソレです。
イ:
ゆずれないって自分が好きなモノですからね。
だから、他に自分と趣味趣向がピッタリ合うヒトがいたら、
おなじコトはしないとおもいます。
直:
オーダーメイドの仕事でおもったコトがあって、
みなさん、”オーダーメイドはこういうもの”という考えがあって、
なんとなくおなじような靴をオーダーするんです。
私は他とは違うモノをつくろうとするのですが、
だいたい「こんなの売れないよ!」ってなっちゃう。
でも、そういうものがないとみんながおなじものを履くって、
つまらないコトだとおもうんですよね。
確かに商売になるかはわからないですが、
そういうものをつくって切り開いていかないとと考えます。
─切り開いていくというのは難しいコトだとおもいます。
でも、やっていかないと、多様性は生まれない。
直:
日本のファッションもそうなのですが、
もともと昔は既製品なんてものはなく、
すべてオーダーでつくっていたワケですよ。
それが時代が進んで、ファッション感覚も開けてきて、いまがある。
だから、突破口として、ダレかがやらないといけないと考えてます。

─監督は、どのような本が好きなんですか?
イ:
むかしは小説が好きでしたが、
最近は、ドイツの文学者”ゲーテ”が”色”について書いた『色彩論』にはまってます。
色による気持ち的な変化とか、科学的な変化とか、
そういうコトを研究して書かれたモノなのですが、
映画も照明の色とか、モノの色とかがありますし、
どうせならそれを効果的にやりたいともおもっているので。
でも、その本って、けっこう昔に買ったものなんです。
たぶん10年くらい前かな。
それをいま読むようになって。。。
直:
それは今作には反映しているんですか?
イ:
いえ、今作に関しては、そのときの気持ちで決めました。
ゲーテの『色彩論』には、
色における具体的な性格とかについても書いていたりしているのですが、
色は国やカルチャーによって意味が変わる場合もあるので、
今回は明確なルールとか、
具体的なものよりも自分が感じた部分を取り入れたという感じです。
欲望の三色も自分が決めた色なんですよ。
─なるほど。
イ:
そんな感じで、
色については興味があるので引きつづき読みつつ、
宮本武蔵の『五輪書』や、他の本も読んでいます。
本を読む時って、10冊くらいを回しながら読むんですよ。
─ソレは、かなり珍しいタイプの読み方?ですね!
直:
つまり、読み途中のものがあったりするってコトですか?
イ:
そうです。
その日に持って出たい本、事務所に置きたい本、
事務所に来たらそれを読むし、電車ではコレ!という感じで、
それらの本をすこしずつ読んでいます。
だから、3年掛けて読んだ本もありますよ。
直:
ええ!そんなに!?
それは物語の本でも一緒なんですか?
イ:
そうですね。
ちなみに物語を書くときも、順番的に一気に書くのではなく、
部分、部分を書いていって、あとで混ぜる感じです。
─では、物語は書こうという感じで書くのではなく、つねに何かしら書かれている感じなのですか?
イ:
ええ。
だから、浮かんだアイディアだったり、
考えだったりをつねにメモをするようにしています。
そうじゃないと、飛んで行ってしまうんですよね。
ただ最近、ノートをカッコイイものにしようと、
革のカバーのものに変えたのですが、
それが逆にあまり使わなくなってしまったんです。
以前は、いわゆる普通のダサいノートを使っていて、
すごくいっぱい書いていたのですが、
ちょっとしっかりしたものにしたら、
「気持ちがしっかりするときだけ書こう!」みたいな感じになってしまい。。。
だから、いまはつねにノートを出してメモをしようと頑張っています(笑)。
─それでいまもノートを出されているんですね。
イ:
はい。
ミスったのは、ボクはモノを買うと、1〜2年、寝かせるコトがおおいんですよ。
服や靴を買っても1年くらい寝かしておいたり。
このノートに関しては、ずっとカバンに入れっぱなしにしてしまうんですよねー。
だから、なるべく出そうと頑張っているところです(笑)。
─横尾さんもアイディアはノートに書く方ですか?
直:
はい。
私は、最初からけっこういい感じのノートを選んでしまいますけれど、
寝かさないですね(笑)。
イ:
ボクは、とにかく出さないとやらなくなるし、
一日ずっとカバンの中に入れっぱなしになってしまうから、
アピールしているんです(笑)。
─自分に対してのアピールですね(笑)。
イ:
あと、日にちは書くようにしています。
書いたら、ナニかを書かないとダメだという気持ちになって、
責任感が出るんですよね。
直:
今日はもうナニか書かれたのでしょうか?
イ:
今日はまだ開いてないんですけれど(笑)。。。
直:
ははは(笑)。
そういえば、物語のロケ地についてですが、あそこは日本なんですか?
イ:
逆に日本に見えないですかね?
直:
ちょっとわからなかったです。
イ:
じつは日本です。
今回の撮影はすべて一ヶ所でおこないました。
茨城の方にあるのですが。。。
直:
ステキな家だなとおもいました。
イ:
アンティークなものをたくさん所有している元レストランの一軒家なんです。
直:
一軒家なんですねー。
イ:
18世紀のレースとか、シャツとかドレスとか。
そういうモノをこだわって集めている方の家でした。
フランス人のダンナさんと、日本人の女性の24歳違いの夫婦がやられていて、、、
ちなみにダンナさんの方が年下!
直:
えー!
あの庭もおなじスタジオなんですか?
イ:
そうです。
奥さんが植物を育てるのが趣味らしく。

─しかし、良い場所を見つけましたね。
ロケ地的なものはつねに探している?
イ:
映画でロケ地を探せなかったら、スタジオで一からつくるしかないんですよ。
そう考えると、大手と一緒にやらなかったら、なかなか難しい。
だから、探すしかないんですね。
今回は、もし見つけられなかった場合のコトも考えて、
いろいろなパターンは考えていましたけれど、
たまたまいい場所と出会たので、
もともとのアイディアをうまく表現できたました。
─ある意味、奇跡という感じなんですね。
イ:
そうですね。
よく言われるのが、映画は計算通りにはいかないモノだから、
しっかり準備をしておかないと運もない、と。
つまり、運とか、奇跡とかって、自分たちがつくるもので、
そのための準備をしておかないと、
そういうコトも起きないとおもっています。
直:
“運”を引寄せるってことですよね。
イ:
そうです。
つねにキッカケはつくっておかないと、ナニも起こらないですから。
だからこそ、アイディアを貯めておく。
急に「アイディアを出してくれ!」ってなっても、ムリですからね。
だから、そのときにあるものを整理するだけにしないと、
時間がないんですよ。
─横尾さんは、それこそロケ地との出会い的な感じで、革との出会いみたいなのは、つねに探しているのでしょうか?
直:
つねに探してますねー。
日本にはあまり変わった色の革がないんです。
とくにメンズ。
売れるものしか売らない文化ですからね。
イタリアとかならキレイな色はそろっていますが。
だから、姫路に行ったりしてあたらしい革の開発をやったり、
レザーフェアみたいなのに行ったり、
けっこう「コレ!」という革を見つけるのが大変なんです。
─ちなみに靴をつくる上で、インスピレーションを与えてくれるものはナンですか?
たとえば、ヒトの靴を見るとか?
直:
それはないです。
イ:
その質問は気になりますね!
─では、まったく違うものからインスピレーションを得る?
直:
ひとつは、もともと建築を勉強していたので、建築物です。
建築って3Dで、しかもすべてイメージして建てたものですからね。
あとは、絵を描くことも好きだったので、
時間があれば絵を観に行きます。
そこで絵を見て、色だったり、ラインだったり、
そういうものからインスピレーションを得ていますね。
それと革。
良い革が見つかった時に「コレからナニをつくろうか!」という感じで、
革からインスピレーションを得るコトもあります。
イ:
その感覚はじつは今作の物語の中にもあって、
「その色の革を見つけた!」というところから、
あの色のハイヒールをつくったんです。
だから、デザインだけではなく、
革との出会いがなくては出来ない。
いいモノと出会わないとってコトですよね。
直:
まさにそうです!

イ:
そういえば、最近知ったのですが、
ボク、足のサイズが左右で1cmくらい違っていたんですよ(笑)。
─それはけっこう違いますねー。
直:
左右の足の大きさの差って、だいたい5mmくらいみたいなのですが、
1cmだとかなりですね。
イ:
そうなんです。
だから、物語が自然にそうなったのかなと。
意識してはいなかったんですけれどね。
─完全に深層心理的なものですね(笑)。
イ:
そんな感じで作品には、
自分の話が入っている気がするんですよね。
自分ネタが(笑)。
─これ以上は、まちがいなくネタバレになってしまいそうですので、ひとまず今回の対談はコレで終了というコトで(笑)!
ありがとうございました!!
イ:
たしかにそうですね(笑)!
ありがとうございました!!
直:
たのしかったです。
ありがとうございます!
(おわり)
>>>“こだわり”の対談(前編)はコチラ
□プロフィール
・イ・インチョル(李寅哲)
1988年韓国生まれ。
中学校卒業後、すぐに大学受験資格を取得するが、進学せずに韓国で映画製作に携わる。
演出部として日韓合作の映画などに関わった後、19歳から活動の拠点を日本にうつす。
スタンリー・キューブリック氏の映画製作 に対する姿勢には、とくに共感を持っている。
・横尾 直
文化学院建築学科卒業後、渡英。
コードウェイナーズカレッジにて靴制作、デザインの基礎を学び、帰国後(株)アイコニックシステムジャルフィック入社。
退職後、工房を構え、ギルドフットウェアカレッジにて手製靴を学ぶ。
ギルド・オブ・クラフツにてアシスタントをつとめた後、独立。
http://naoyokoo.com/
□作品情報
2017年6月24日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー中!
『ハイヒール〜こだわりが生んだおとぎ話』

監督・脚本:イ・インチョル
出演:菊地凛子/小島藤子/玄理/谷口蘭
製作:Mutsumi Lee
オフィシャルサイト:http://highheels.lander.jp
>>>レビューはコチラ
©Lander Inc.
This entry was posted on Monday, June 26th, 2017 at 16:52 and is filed under Interview. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. Responses are currently closed, but you can trackback from your own site.