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Tokyo News : October 10, 2017 @ 20:09

名もなき”彼”が切りとった時代の瞬間──写真展『掬う 191本 22年』



あるひとりの撮影者による軌跡をたどった写真展『掬う 191本 22年』が、目黒の「金柑画廊」にて2017年10月29日まで開催中だ。


きっかけは、アーティスト”手塚敦嗣”が、五反田南部古書会館での古本即売会で手に入れたネガフィルムの詰まったハコ。

ソレは、”ある人”が戦後から昭和50年代くらいまで撮りためていた、191本ものネガフィルムだった。


本展は、著名な写真家であったわけでもないその”彼”が撮りためていたネガフィルムから、”手塚敦嗣”(アーティスト)と”名和真紀子”(フォトグラファー)、”太田京子”(金柑画廊)の3人のセレクターによって選出された写真を展示。

つまり、それぞれのセレクターが、それぞれの視点から”彼”に迫る、という、ちょっと不思議な写真展なのだ。


ちなみに、”彼”のネガケースには、撮影した場所や日時などが細かく記載されており、時代的には激動だったハズだが、なんでもない日常を写したかずかずのモノクロームの世界。


その時代の庶民の生活が、いかなるものだったかがリアルにつたわる作品になっている。

名もなき”彼”が切りとった瞬間を味わってみてほしい。






2017年10月7日-2017年10月29日
写真展『掬う 191本22年』





・セレクター
手塚敦嗣/名和真紀子/太田京子


・コメント
昨年の秋、五反田南部古書会館での古本即売会で、蜜柑箱大のダンボールひと箱いっぱいに詰まった写真のネガフィルムを見付けた。普段から古本以外の掛け軸やポスター、こけし、切手シートなどが適当に床置きされている壁際に、ポツンとその箱はありました。棚の古書の背を追う人々の視線にその場所はほとんど目に入らず、箱には古書店名と共に2000円と書き付けた紙切れがテープで素っ気なく貼られている。
色とりどりのネガケースの量と値段の安さに惹かれて箱の前にしゃがみ込むと、中でも古そうな6×6のネガケースを手に取り、ネガフィルムを抜き出して天井の蛍光灯に翳してみる。古い街並みが写っていて、家々や商店の看板、通りの車や、人々の衣装などから1950-1960年代の東京だと感じた。”なにか面白い写真が見付かるかもしれない”と思い、次々とネガケースから抜き出しては光りに翳して反転像に眼を凝らす。6×6、35mm、ハーフサイズの3種があり、農村や漁村、観光地や都市の風景、陶芸工房やメーデーと思しき労働運動など、ネガケースに丁寧に書き込まれた、場所や日付、内容に付いての記載と共に撮影者の興味の対象が次々と現れる。あるひとりの撮影者による20年間程の記憶を3分間程しゃがんで見ていたら足がしびれてきて最後にもうひとつだけと、70’sっぽいキリンの模様をあしらった35mmのネガケースからフィルムを抜き出す。ハーフサイズの小さなコマが並ぶが半分程がスヌケの状態で、最後は外れたなと思う。反転像の向こうでは、中年を過ぎた男達が古本の背を指先で舐めながら眼を凝らし静かに流れていく。みんなが自分に必要な何かをいつでも探している。(手塚敦嗣|アーティスト・TETOKA)


191本のネガフィルムのケースに細かく書かれたメモには、柿の皮をむく主婦、江差網元の家、桜子、見物料50円、白玉ねぎを植えている、荒廃した塩田、駅の近く銀行が出現中。違うネガフィルムが一つのケースに入っていたりする。戦争に行って帰って来て結婚して、娘が二人。生きていたらきっと90代。たぶん名前はクワハラさん。とっくにカラー写真があるはずの時代にモノクロのネガフィルムで撮っている。時々現像を失敗してるから、自分で現像していたのかもしれない。なんでこんなに全国のあちらこちらに行っているのか、何の仕事をしてるのか、どこに住んでたのか、それを撮ったクワハラさんのことを考えずにはいられない。インスタグラムやfacebookの写真が撮った人を表現している今に暮らす私は、このたくさんのネガフィルムからクワハラさんを知ろうとする。(名和真紀子|フォトグラファー)


手塚敦嗣が古書市で手に入れたネガフィルムの詰まった箱がきっかけでこの企画がスタートしました。「ある人」の撮りためた戦後から昭和50年代くらいまでの191本ものネガフィルムには、「彼」が撮影してきた場所や日時などが細かく記載されていました。几帳面な方だったのでしょう。著名な写真家であったわけでもない「彼」の写真は市井の私たちの写真とも言えます。記録として、楽しみとして、思い出として撮影された発表の目的を持たないであろう写真の数々。そこに残された風景や人々に感じるノスタルジーもあるのかもしれませんが、その写真が見せてくれるものは、今の私たちの暮らしを写しているように思えてきます。もしかしたら人が生きている間に行う行為そのものに共感を覚えるのかもしれません。「掬う|191本22年」では、三人のセレクターが「彼」の撮影したネガフィルムからそれぞれの選んだ写真を展示致します。撮影者のフィルターを通してそれぞれが選んだ光景は、セレクターと「彼」とのある種のコミュニケーションなのだと思います。(太田京子|金柑画廊)



開催曜日:木・金・土・日・祝
時間:12:00-19:00
※定休日は、月から水(祝祭日は開廊)


金柑画廊
東京都目黒区目黒4-26-7
TEL. 03-5722-9061
http://www.kinkangallery.com/

※会期中のイベントに関しましては、随時HP・FBなどで更新いたします。
クロージングトークイベント / ゲスト:マジック・コバヤシ



□名和写真館
開催日:2017年10月28日
開場/開始:19:00/19:30
入場料:1,000円(ワンドリンク付)

展示会場にて”名和真紀子”がポートレートはもちろん、家族や友人、ペットとの写真などを撮影し、”納得の一枚”を丁寧に相談しながら仕上げていきます。
クワハラさんの22年分のネガフィルムの中に何度も登場する人たち、多分クワハラさん本人、奥さん、娘たち、犬、時々来る親戚の写真は、違う時代にいる私たちをも楽しませてくれます。
いま撮る写真は10年、20年先の未来にきっともっと価値あるものになると思います。

・6000円(税込) 1組1カット
プリント2L(127×178mm)1枚 データ一点アップロード付き
※追加1カット(2Lプリントとデータ)1000円

予約制
・10月16日、21日、22日 
・10時または10時50分のどちらかを選んでください。

※木曜日、金曜日も可能です。下記メールアドレスまたはお電話でお問い合わせください。

10月8日 10:00
10月9日 10:00
10月21日 10:00/10:50
10月22日 10:00


問い合わせ:金柑画廊 太田まで kinkangallery@gmail.com TEL. 03-5722-9061

ご予約の際は、件名「名和写真館予約」、お名前、ご連絡先(メールアドレス・お電話番号)、ご希望の撮影日・お時間、撮影される人数(大人 ⚪︎名、お子さ ま(⚪︎才)⚪︎名、ペットの参加数(種類)をご記入ください。お電話でも受け付けております。ご質問のみのお問い合わせも受け付けておりますので、お気 軽におたずねください。みなさまのご予約をお待ちしております。






□プロフィール
・手塚敦嗣(Atsushi TEZUKA)
アーティスト

1969年生まれ。デザイン、映像製作を生業とする傍ら、古本、古道具などの都市工芸を収集する。近年は、FRP樹脂製彫刻の製作と、神田TETOKAの運営に携わる。
http://tetoka.jp


・太田京子
金柑画廊

大阪生まれ。目黒にあるスペース、金柑画廊とリトルプレスのキンカンパブリッシングを運営。趣味の絵葉書や観光物のパンフレット等のコレクションから派生した「paper tour」のメンバーとしてもスローペースに活動中。
http://www.kinkangallery.com/
Instagram:PAPER_TOUR_JOURNAL


・名和真紀子
フォトグラファー

岡山県岡山市に生まれる。大阪府立大学卒業。スタジオ勤務、アシスタントを経て、2003年以降、フリーランスとして活動。ポートレート、風景、料理、建物、ジャンルを問わず撮影する。雑誌や書籍、CDジャケット、広告などで撮影。
http://nawaphoto.com


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