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Interview : July 27, 2011 @ 03:52

『しぶや 花魁』1周年記念──ヴィーナス・カワムラユキ インタビュー(前編)



『しぶや 花魁』が、2011年6月で開店1周年をむかえた。


道玄坂に位置する『しぶや 花魁』は、1階は立ち飲みスペース、2階はテーブル席と、一見フツーの居酒屋のようだが、たまーにあんな人やこんな人がシークレットでDJやライブをおこなっていたりする、、、じつはいまもっともホットなカルチャー発信基地なのだ。


とはいえ、お酒や料理、おつまみ、そしてサウンドシステムにはかなりこだわっており、思わず時間を忘れて長居をしてしまうほど居心地のよい空間となっている。

なんだか”家”みたいな居酒屋──、まさに渋谷の”ホッと”スポット。


今回は、『しぶや 花魁』のプロデューサーをつとめる、作詞家で作家、そしてDJとしてもお馴染みの”ヴィーナス・カワムラユキ”さんに、『しぶや 花魁』についてのお話を中心に、いろいろと伺ってみた。





☆:2010年6月のオープンから1年が経ちましたが、着実に広まってきていますよね、『しぶや 花魁』。


いまのところ、口コミで広がっているんですよ。
やはり、それが昭和スタイルだと。
知り合いだったり、知り合いのつながりだったりで広がっていく。
まあ、最初は入りづらいとか、敷居が高そうとか言われたりもしましたが──、私は逆によかったと思いました。


☆:ちなみにこういうお店にしようと思ったキッカケは何ですか?


私が最初にこの場所をみたときに思い描いたのが、イビザ島のタウンにある「Pacha(パチャ)」とか、「Amnesia(アムネシア)」などのクラブへ行く前に、色々なパーティピープルが集まって、ちょっと飲みながら情報交換をするような、いわゆる”ワームアップ バー”なんです。
私がよく通っていたのは「DOME(ドーム)」というお店なのですが、もともと「Pacha」という80年代からあるクラブで、イビザのカルチャースポット的なところで、そこの創世記からいたダンサーの女性が立ち上げた場所なんですよ。
そこには「Pacha」のPRチームだったり、ダンサーが衣装のまま遊びに来たり、ゴルチェとか、ロジャー・サンチェス、マドンナもフラッと一杯飲みに来たり、ほかのクラブのイベントオーガナイザーが営業に来たりと、そういうスポット。
道玄坂にも、ライブハウスやクラブがたくさんあるし、だからこの地域に必要なものは「ワームアップバーじゃない」って。


☆:なるほど。


でも、そこはイタリア人の余裕のある方がつくったお遊びスポットだったから──、むしろ”THE 日本”なことをイメージした方がいいかなと。。。
そう考えたときにニューヨークのマンハッタンにある「ザ マリタイム ホテル」の『matsuri』という、ケイト・モスやパフ・ダディが御用達のジャパニーズレストランを思い出したんです。いわゆる『キルビル』の世界。そこにはハリボテみたいな日本のインテリアがいっぱい飾られていて、、、面白かったんですよ。





☆:それがこの『花魁』の元ネタというか、案だったんですね。


それと、2005年にイビザへ訪れたときに、イタリアの”メイド・イン・イタリー”というオーガナイズチームが主催していたパーティのテーマが「JAPAN」で、、、それがホントにゴチャゴチャの日本(笑)。派手で独特だけど、ビューティフルな景色があって、、、私のなかで「コレだ!」ってインスピレーションを抱いたのね。ただ、決して忠実に再現するのではなく、アップデートは必須だったという感じですけれど。
それに、道玄坂には『天井桟敷』があったし。
ラブホテル街の印象を口にする方が多いけれど、むしろステキな愛にあふれた街だと思うんです。
発想の転換というか、”聖なる転換”が必要だなと、このころは特に感じていて──(笑)。


☆:雰囲気的には、いわゆる外国人からみた日本というのは、すごく感じました。
日本人が観た日本ではないですよね。


それが道玄坂 to アジアというか、ワールド イコール アジアなのかな。HPのアドレスも”.jp”じゃなく、”.asia”にしたんです。
個人的にユーミンの「水の中のASIAへ」というアルバムがすごくお気に入りで良く聴いていたというのもあったりして。。。


☆:ユーミン アンド 正隆さんですよね。
あれはジャケットも素晴らしかった。


そうですよ!
渡辺サブロオさんがヘアメイクなんですけれど、、、サブさまがね(笑)。
「スラバヤ通りの妹へ」とか、「HONG KONG NIGHT SIGHT」、「大連慕情」など全曲いいですよね。このアルバムが好きだったこともあって、”.asia”にしました。


☆:ちなみにお店を増やすとか、そういう方向は考えていないんですか?


とにかく、私は自然なことしかできないし、このお店はすべて自然なつながりと縁でできているんですよ。なので、、、いわゆるマーケティングでは完成しない。本来なら、マーケティングをしてないのはおかしいんでしょうけれど(笑)。
それよりも、”粋”を極めたいというか。。。普通の飲食業だったら、2店舗、3店舗って拡張を目指すと思うんですけれど、でも、増やしたところで、いまの『花魁』と同じスタンスでは再現できない、、、なので難しいのですよ。複製は難しいですね。


☆:その考えはないということですか?


んー、日本国内ではなく、アジア進出はありかなとは思っているんですけれどね。
もしくは内容を変えて、アメリカ、ヨーロッパでは、とてもやりたいです。
でも、基本はアジアなのかな。





☆:この建物──物件はどうやって見つけたんですか?


『DGZP LLC』という合資会社を始めることになり、これは「道玄坂プロジェクト」の略なんですけれど、その「道玄坂プロジェクト」のメンバーに”密林不動産”(http://mitsurin.jp/)という不動産プロジェクトをやっている昔からの仲間がおりまして、『花魁』のスペースデザイナーとも一緒に組んで仕事をしている友達で、彼がこの物件とのご縁があり、それで私に話が来たという流れです。


☆:「もともとは何があったっけ?」っていつも思うんですけれど。。。


最初は”占いの館”で、その後は一瞬居酒屋だったのかな。。。


☆:何度もここの前を通っているのに、あまり記憶にない建物だったんですよね。


まずは、工事の前にお祓いをしないといけないと思って、陰陽師の方に結界を張っていただきました。やっぱりそういうの大事ですね。
お店をはじめて、私たちが気をつけないといけないのは来てくれたお客様には、クリーンな状態で帰っていただくようにつとめること。街自体が繁華街ですし、とりあえずは気の流れを良くするように頑張っています。
まず、いちばんはピュアにやりつづけることだと思うんですよ。
たとえば、音楽が好きということもそうですけれどね。
料理長もテクノ好きで自分で音を作ったりしているし、料理も音楽も”作る”のは一緒。


☆:どちらもクリエイティブですからね。


美味しいものを食べていたら、いい音楽が作れると思うし、逆もしかり。だから、嘘がないし、無理がひとつもないんですよ。
想像できないこととか、背伸びしないとできないことは、取得しない限りやらないというスタンスを持っているので、あくまでも自分のスタイルと流儀、お店のスタイル、それら与えられた素材を練るという感じです。
それに私が得意ではない部分は、他のスタッフが得意かもしれないから、信じて任せるといった感じですね。そういう自由度がいいんじゃないかな。
お店ってバンドだと思っているんです。だから、バンドの”手癖”というか、そういう部分は”味”になると思うから。


☆:ある程度のりしろ部分はないと難しいですよね。


スタッフたちもギッチギチに型にはめられたままだと、いいものなんて生まれない。


☆:なるほど。
オープンしてちょうど1年ですが、1年目の目標とかってあったんですか?


まずは”いいグルーヴ”を出せるようにと心がけていましたね。1年経って、よりスピーディ、かつ立体的になったと思います、、、やはり人ありきですよ。とりあえずは、無我夢中でした。
2年目はより太くしていきたいかな。まあ、、、野心はないですね(笑)。
個人的に野心って時代と帳尻が合わない気がするし、なによりも野心まみれのお店には行きたくないもん、私。


☆:ギラギラした感じのお店ということですか(笑)?


そう!自分が苦手だから、そうはできないだけなんですけれど。無理せず、人間だからバイオリズムあるし。
計画とか野心というのは、時代も変わるし、変わっていくものだからこそいまはなかったんだと思います。


☆:なるほど。


そんなことより、お客様感謝祭として「流しそうめんの会」をやっていた方がステキですしね。そういう面白い催しは増やしていきたいです。
あとは、『晩酌』という文化をもう一度再確認したいな。とくに日曜日は、大切な人と過ごしてほしいというか、、、我々の世代のスタイルで晩酌をするというのはステキだと思うんですよ。DJがかける音楽を聴きながら、若いカップルや、夫婦とかが、子どもも連れて、季節の料理で晩酌するって、古いことを新しく独自の解釈で継承している気がするんです。メンチカツ、ハムカツ、ナポリタンとか、、、昔なつかしい感じ。
ちなみにナポリタンは、ウチの父親のレシピなんです。すこしケチャップを焦がす所がコツらしい。


☆:焦げた部分がおいしいですからね(笑)。


良いモノを努力して、頑張って出していけば結果的に広がっていく。
口コミってそういうことじゃないのかなと思います。


☆:まさにその通りですよ!




(中編につづく)






『しぶや 花魁』
オフィシャルHP:http://oiran.asia/

1周年企画イベントなどの詳細はコチラ
http://oiran.asia/cluboiran/

『しぶや 花魁』twitter
http://twitter.com/oiran_shibuya/




ヴィーナス・カワムラユキ



DJ&プロデューサー、Sony Music Publishingの専属契約作詞家。
2001年「灼熱」でCDデビュー後、バレアリック・スタイルのDJとして世界各国でプレイ。ドレス・キャンプ、ルイ・ヴィトン、マドンナ+スティーヴン・クライン、ヴィダル・サスーンなどのショー音楽演出やパーティにて活躍。
2007年「アスファルトの帰り道」(ソニー・マガジンズ)の発売を機に、作家活動を本格的にスタート。
J-POPに限らず韓流から華流アーティストの日本語詞、アーティストの感性を引きだし共に詞を制作するリリック・ディレクターとして多くの作品に関わっている。
現在、近代日本的飲食音空館「しぶや花魁」を運営中。

公式サイト:http://vky.jp/
twitter:http://twitter.com/venuskawamura/


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