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Interview : August 13, 2012 @ 18:32

その日もトーキョーは雨だった──”堀野義仁×岡田安正”対談 後編



良質な”音”を発信しつづけることにこだわった、デジタル配信音楽レーベル『UNKNOWN season』とフリーペーパー『DESTINATION MAGAZINE』。


そんなふたつがタッグを組んで、レーベル初となるCDアルバム『DESTINATION MAGAZINE meets UNKNOWN season “A Day Of Rain – UNKNOWN perspective –”』をリリースした。


ひきつづき、『UNKNOWN season』レーベルオーナーの堀野義仁さんと、『DESTINATION MAGAZINE』編集長 岡田安正さんにCDアルバムのお話を中心に、さまざまなお話をお訊きしたインタビューの後編。






─今回のコンピレーションアルバム『A Day Of Rain』ですが、アーティストのセレクトはどのように行われたのですか?


岡田:これはボクの方で選曲しました。
いままでの『UNKNOWN season』の音源をすべて聴いて、その中から選ばせていただいたんです。
あと、それに加えて、今回は”9dw(ナインデイズワンダー)”の完全未発表の「Right On」を、”Ryoma Takemasa”さんにリミックスしていただいた音源を収録しています。”9dw”は、以前からボクのイベントに出ていただいたり、つながりがあって、堀野さんももちろん以前から知っていたし、ボクも好きなアーティストなんです。そんな感じで、今回はいいコラボレーションが出来ました。
あとは、”ワタナベヒロシ”さんが新録で参加してくださったり。。。


堀野:“9dw”の参加は、このアルバムの企画が進行する中で生まれて、収録に至ったという、この企画におけるすばらしいコラボレーションのひとつなんです。


─堀野さんは、”9dw”とは以前からのお付き合いがあったんですか?


堀野:サイトウ(ケンスケ)さんには、2年くらい前に知人に紹介されてお会いしていたのですが、そのあと再会するチャンスがなかなかなく。もちろん、音源は聴かせていただいておりました。
今回、岡田さんとCDリリースの企画を進めていくなかで、より魅力のあるものをイメージしたときに、レーベルの既存アーティストの作品と新しい風──いわゆる新たなサウンドとエネルギーが必要だと思ったんですね。それはレーベルとしての未来の音の振り幅であり、商品としての価値でもあり、新たな挑戦でもあるんです。
それに、ちょうどレーベルの過去の作品の中から”Ryoma Takemasa”の「Deepn’(The Backwoods & Gonno Remix)」を、8月末にアナログ12インチで音楽レーベルの『ene』からリリースする話があり、『ene』の千田くんにもいろいろと相談していたんですよ。その中で、自然と”9dw”の名前が、岡田さんとボク、そして千田くんの3人の会話に浮上していたんですね。「これはお願いするしかない!」と思って、サイトウさんにご連絡して、お会いする機会をいただいたんです。
岡田さん同様、今回の企画のコトをはじめ、いろいろなお話をこんどは3時間ほど(笑)、熱弁させていただきましてですね、そのなかでサイトウさんに「リミックスを収録させてください!」とお願いしたんですよ。
そんなオファーをされたこと自体がはじめてだったみたいで、最初はビックリされてましたけれど、笑顔でOKをいただききました。ありがたいですよ。


─ワタナベヒロシさんとは?


堀野:ワタナベさんとは、ボクが以前在籍していたレーベルや、フリーランスになってからもお仕事をさせていただいたり。現在もうちのレーベルの音源のフィードバックをいただいたりと、関係はつづいていたんです。
そのやり取りをつづけていたら、ワタナベさんの方から「『UNKNOWN season』からリリースをしたい」というお話をいただいて、、、とても興奮しましたね。それでこの新しい音源が生まれたんです。
ちなみに、ワタナベさんは今回のフィジカルリリースへの流れの一端を担っているんですよ。


─どのような一端ですか。


堀野:オファーの際に、フィジカルリリースのご提案をいただいたんです。それがあってこのアルバムの企画が具体的に動き始めたんですよ。それに、収録されたワタナベさんの曲のタイトルがアルバムタイトルにもなりましたしね。
だから、この企画のインスピレーションの源のひとつでもあるんです。


─アルバムタイトルの『A Day Of Rain』は、ワタナベさんの曲のタイトルからなんですね。


堀野:そうです。
岡田さんと一緒にタイトルを考えていたのですが、なかなかシックリくるものがでてこなくて。。。タイトルの決定だけで、約2週間くらいかかりましたよ。


─タイトルは、難しいですよね。
アルバム全体のイメージになってしまいますから。


堀野:そうなんです。
ワタナベさんから「A Day Of Rain」という曲がとどいたときに、レーベル名の『UNKNOWN season』にも季節を象徴するワードが入っていたし、コレはいいなと。
ここ最近、日本は梅雨以外でも雨が多いですよね。ゲリラ豪雨も季節かまわずあるし、一昔前の日本の気象とはちがうんですよ。「今日も雨降ったよね」という会話が日常になりつつあるという、普通じゃないことが普通になっていく様が何ともボクの中で感じるものがあってね(笑)。ただ、”Rain”というタイトルに悲観的なイメージはまったくなく、むしろ前向きなんです。


─それは、どのような意味から?


堀野:”Rain(雨)”に関していうと、生き物が地球で生息するには、自然の天候の恵みは太陽の光や熱だけではなく、風や雨もなくてはならないですからね。
ボクらが日常的に音楽に触れていることにも、おなじような感覚があります。音楽を聴きはじめたときは、音楽に触れている時間が特別に感じられたけれど、慣れ親しむと自分の中で普通になっていく。
さらにいうと、日々の日常生活で見落としたモノやコトの中に、じつは”特別”がたくさん潜んでいて──というか、本当はすべてが”特別”なハズなんですよ。
そういう再発見と意識ほど心を豊かにするワケで、まさに「灯台下暗し」なのかなと。


─今回のCD企画を進める中で、そういった「灯台下暗し」的な再発見はありましたか?


堀野:もちろん、ありましたよ。
例えば、このアルバムのアートワークなんかは、進行ギリギリのスケジュールの中、デザインで悩んでいて、岡田さんからのちょっとした提案から急にさまざまなコトがリンクして、一気に進行したんです。それは、関わった人たちの高い意識がミックスされたときに、素晴らしいクオリティが生まれるということを再認識した出来事でした。”すべてはインスピレーションなんだ”と。
ホント、皆さんのプロ意識に助けてもらいましたね。日々、学ばせていただいてます。


─ジャケットのアートワークはどなたの作品なんですか?


岡田:これはボクの友人で、”松田康平”くんというフォトグラファーが撮った作品なんです。堀野さんからビジュアルイメージ的な部分でご相談を受けたときに、ボクの中でレーベルの音のイメージと、松田くんの作品のイメージがピッタリだったんですよ。それで、彼の作品を堀野さんに見せたら「いいね!」って。ロンドンを拠点に自らのレーベル”round in motion”を動かしていたり、DJとしても活躍されている”ケイ・スズキ”というアーティストがいて、ケイさんはボクとか『DESTINATION』クルーともつながりが深いのですが、松田くんは”ケイ・スズキ”さんから紹介されたんです。
松田くんも以前はロンドンを拠点として、ケイさんをはじめ、音楽シーンの現場を撮った素晴らしい作品をたくさん残していて、個人的にも彼の作品が大好きだったんです。ファッションの写真もやっている人なんですけれど、こういったラウンドスケープの写真もとても上手なんですよね。
しかも、今回は撮りおろしで、このために東京のラウンドスケープを撮っていただきました。ちなみに裏面の方の写真を撮った日も雨。
ここぞというタイミングで、やっぱり雨なんですよね(笑)。


─この写真はすべて東京のある場所なんですね。


岡田:そうです。
今作は、そういうフォトグラファーとのコラボレーション作品でもあるんです。


─しかし、CDが売れないと言われているこの時期に、フィジカルを出すのは大変なんじゃないですか?


堀野:アホでしょ(笑)!
語弊があるかもしれないけど、ボクはまわりを見てないんですよ。意識して見ないようにしているワケではなく、むしろ自分のなかで「やりたい!」と思うコトをカタチにしていこうという”気持ち”が根底にあるんです。
だから、「出したい!」という欲求というか心の声があって、、、ホントそれだけ。”売れないから出さない”という考えはなかったです。
ただ、出すからには自分がつねに消費者でいることを心掛けましたね。買いたくないものはつくりたくないですから。





─なるほど。
最近は”空気を読む”という言葉が流行ってますけど、それって自分自身をおさえる行動で、思ったコトを表現できなかったりと、じつは良くなかったりするんですよね。


堀野:みんなの考える空気感や時代感はわからないけど、ボク自身はやりたいコトを素直に表現できる”体感温度”的な感覚を大切にしています。
ボクの育った70~80年代は、経済的にもいまよりもゆとりがあって、少々無茶なことをやってもゆるされた時代なのかも知れません。
そんな時代だったから、奇想天外で突拍子もないアイデアを持ち、夢をイメージして、実際に創造/具現化してきたヒトをたくさん見てきましたしね。
だから、ボクにとってはそれが自然なコトなんですよ。


─無いから自分でつくる、そんなクリエイティヴな人たちが多かった時代ですよね。


堀野:そうです。
まわりの空気や環境に左右されず、自身のイメージを貫き通し、挑戦しつづけるヒトたちにとてもインスピレーションを受けましたね。
このCDに入っている作品を創造したアーティストたちも、そういったヒトたちとおなじ”体感温度”を持っているように感じるんです。


─今回のアルバムを買ってくれた人にどんな風に楽しんでほしいとか、そういった希望、もしくは提案はありますか?


堀野:楽しみ方のひとつを提案するなら、その曲のつくり手をイメージしていただけたら、いままでよりすこし音を通じて人とつながる楽しさを感じられるんじゃないかな。
とにかく、人生の貴重な1時間をこのCDに割いて、そして楽しんでもらえたら、とても嬉しいですよ。


─ちなみに、このCDの内容はダウンロードもできるんですか?


堀野:いくつかの曲は既発なのでオンラインでも購入できますが、”Hiroshi Watanabe”の「A Day Of Rain」と、”9dw”「Right On(Takemacycle Sloppy Drums Dub)」の2曲に関しては、残念ながらオンライン販売はまだ未定です。
今回はCD購入者特典で、PCを使って帯の裏面にあるパスコードでサイトにアクセスすると、”Kenichiro Nishihara”による、この暑い夏の夜に最高にマッチするスペシャルリミックスがダウンロードが出来るんです。この特典のためにつくっていただいたのですが、素晴らしい仕上がりに、ボクはとても興奮していますよ。
ぜひ、それも聴いていただきたいですね。


─『DESTINATION MAGAZINE』では、今後はどんな展開を考えているんですか?


岡田:もちろん、イベントはmoduleでつづけていくのですが、The Roomでもこれまでつづけていたバースタイルのイベントに加え、ライブにフォーカスした『DESTINATION: LIVE』というイベントを9月から2~3ヶ月に一度のペースでやっていく予定です。
また、イベント、フリーペーパー、さらにはウェブサイトもふくめて、さまざまなフォーマットをつかって、より現場に根づいた情報、そしてクオリティの高い音楽を発信していけるような体制をキチンと確立したいですね。


─『UNKNOWN season』は、どうでしょう?


堀野:音源を購入すると分かるのですが、ウチはアーティスト、エンジニア、製造もすべて100%国産なんですよ。そのスタイルはこれからもつづけていきます。そして、毎月のデジタルリリースのほかに、CD、そしてアナログレコードもふくめ、フィジカルリリースも不定期ながらもっと積極的に行っていきたいですね。
ちなみに、さきほども話題にでましたが、8月末に”Ryoma Takemasa”「Deepn’(The Backwoods & Gonno Remix)」のアナログ12インチをリリースするのですが、コレは1年前の音源にも関わらず、いまだ”ローラン・ガルニエ”や”ジェームス・ホルデン”など、世界中のDJやおおくのラジオにサポートいただいていて、うちのレーベルでもトップセラーのカタログなんです。そして、10月にはおなじく”Ryoma Takemasa”が、待望のファーストアルバムを『UNKNOWN season』からリリース予定で、そのリード曲「Catalyst」はデモ段階ですでに”セオ・パリッシュ”のお墨付きなんですよ。
それと、毎月第4土曜日に”Ryoma Takemasa”と『The Saturday』というDJパーティーを、恵比寿の”頭バー”で開催していて、こちらはお客さんとのコミュニケーションをコンセプトにしているパーティなんです。音響もいいので、ぜひ一度足を運んで欲しいですね。
その他だと、ギリシャの「ウェストラジオ」で『UNKNOWN season Radio Show』というラジオ番組を、ヨーロッパ時間の毎月最終金曜日夜にO.A中です。


─今後もいろいろとたのしそうですね。本日は、ありがとうございました。


岡田:ありがとうございました。


堀野:どうもありがとうございました。



(おわり)






V.A
『DESTINATION MAGAZINE meets UNKNOWN season “A Day Of Rain – UNKNOWN perspective-”』






価格:¥2,100(税込)
レーベル:UNKNOWN season(USCD-1001)
発売中!


>>>レビューはコチラ





□プロフィール

・Yoshi Horino





91年よりDJをスタート。
90年代初頭の”NY Kiss FM”のラジオ番組『Tony Hu mphries Master Mix Show』に影響を受け、ダンスミュージックにのめり込む。同時に音楽とDJ、ラジオ、クラブ、販売店など関係に興味を持ち、94年より約4年間 『Dance Music Record』にて、House担当バイヤーとセーラーを務め、97年より約8年間『Flower Records』にて制作、宣伝、営業など幅広く務める。同時期にDJ CosmoのリコメンドでDavid Mancuso主宰『The Loft』のウェブサイト内「ear candy」にて数年間に渡りリコメンドディスクを紹介していた。
2003年11月よりフリーランスで国内外のダンスミュージックを中心に宣伝や音源のライセンスコーディネーション、興行などを行い、2010年よりレーベルUNKNOWN seasonをスタートし現在に至る。
毎月第4土曜日に”The Saturday” at 頭バー(http://www.zubar.jp)を”Ryoma Takemasa”と共に開催。





http://www.unknown-season.com/
http://www.facebook.com/yoshi.horino/
http://www.facebook.com/unknownseason/

※『UNKNOWN season』では随時作品を募集中。『UNKNOWN season』のサイト、もしくはメール”info@unknown-season.com”までお問い合わせください。



・DESTINATION MAGAZINE





中目黒から全世界へ向けて発信されるフリーペーパー/バイリンガル・マガジン。2009年7月創刊。
これまでに数えて13号を発行し、 Gilles Peterson、Dego、Squarepusher、Mark de Clive-Lowe、Ben Watt、Jimpster、Karizma、Floating Pointsなど、世界が注目するトップアーティストへのロングインタビューを中心とした誌面作りを続ける。

http://www.facebook.com/destination.magazine


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