Interview : February 19, 2014 @ 16:21
“中島ノブユキ”に訊く、『clair-obscur』(その1)
“ジェーン・バーキン”のワールドツアーののバンマス、ピアニストをはじめ、さまざまなアーティストの編曲などもおこなっている、音楽家の”中島ノブユキ”が、満を持して2ndピアノソロ アルバム『clair-obscur(クレール・オブスキュア)』をリリース。
繊細ながら、ナニか底知れぬパワー、いや自然の底力的なモノを感じる、、、そんな内容となった今作。
今回は、”中島ノブユキ”さんに、本アルバムの制作に関してのお話を中心にうかがいつつ、中島さんのヒトとナリについてせまってみた。
カネコヒデシ(以下、カネコ):
まずは、アルバムタイトルの『clair-obscur(クレール・オブスキュア)』ですけれど、、、
これまた非常に、、、、読みづらいタイトルですね(笑)。
中島ノブユキ(以下、中島):ですよねー(笑)。
カネコ:今回は、どういう由来で、このタイトルをつけられたのですか?
中島:収録曲のなかに「clair」と「obscur」という曲がありまして。。。
もともと二楽章の曲なんですよ。
コレが約20年前に、、、自分がまだ20代だったころにつくった曲なんですけれど、
レコーディングをさかのぼる2ヶ月くらい前に、
譜面を整理しているときに発見したんです。
なんとなくその曲が気になって、、、
それで今回、タイトルにつかったんですね。
カネコ:今作は、先にナニかイメージがあったのでしょうか?
それとも、イメージはなく、なんとなく出来たものをよせあつめたモノなのでしょうか。
中島:いままでのソロアルバムでも、
先にイメージをつくって、
それにむけて音楽を考えたコトはあまりないんですよ。
なので、今回も漠然とピアノソロという編成だけが決まっていたという感じです。
カネコ:では、中島さんが作曲する上で、大事な要素はなんでしょう。
中島:それは”偶然が重なる”ってコトです。
昔の作品もふくめて、いろいろな偶然が重なって、作品が生まれているんですね。
ヒトとの出会いもそうですし、今回のようにたまたま発見された楽曲との出会いとか。。。
そういう偶然が、作品に結実していく感じです。
それと、今回に関してはもうひとつ、ピアノとの出会いですね。
このふたつが大きくこの作品に影響しているとおもいます。
カネコ:今回、使用されたのは「グロリアン-シュタインヴェク」というピアノですが、
コチラはどういう流れで使用するコトになったのですか?
中島:いつも調律をお願いしている”狩野 真”さんが所有しているピアノなんです。
最初にピアノソロで作品をつくろうとなったとき、
もちろんどんなピアノで弾くかというのは重要になってくるワケで、
ホールであればホール所有のピアノ、
スタジオで録音するのであればスタジオにあるピアノ、
当たり前なんですけれどね。
ただ、今回の作品のイメージにむすびつくピアノがなかったんですよ。
カネコ:イメージがあったんですね(笑)。
中島:そう、、、ピアノの音色的な部分ではありましたね(笑)。
カネコ:音色的には、どのようなイメージだったのですか?
中島:とにかく、”空気をたくさんふくんだ音”を録りたかったんですよ。
だから、スタジオで録るのは今回はナシかなと。
例えば、廃墟で録るとか、閉鎖しているトンネルで録るとか、
いろいろなコトをかんがえたのですが、それもなかなかね~。
小さな音を録音しようとすると、まわりの環境音があまりにも大きすぎて、
いかにも「その環境の中で録りました!」的な、、、
そういう部分を主張する作品になってしまう気がしたんです。
カネコ:なるほど。
たしかに、ドコドコで録りました!的なそういう作品に見えてしまいガチですよね。
中島:そうなんです。
もっと一曲一曲を、つまり楽曲をきちんと伝える作品として録りたかったから、
けっきょく音楽ホールで、、、
秩父にある”ミューズパーク”にある音楽ホールで録ることになったんです。
カネコ:ソコは、何回か演奏をしたコトのあるホールなんですか?
中島:いや、ボクははじめてでした。
でも、ソコは今回のレコーディングを担当してくださった、
エンジニアの奥田(泰次)さんも知っていたし、
狩野さんも知っていましたね。
だから、ボクの知らないところで、
ふたりで盛り上がっていたみたいですので(笑)。
カネコ:本人が知らぬまま、モノゴトがすすんでいた感じですね(笑)。
中島:そうそう。
それでいいんです(笑)。
カネコ:中島さん、そういうニュートラルな部分がけっこうありますよね(笑)。
中島:そうなのよね(笑)。
カネコ:ピアノに関してですが、狩野さんから、
「このピアノ使ってみませんか?」という話がきたのでしょうか?
それとも中島さんの方から?
中島:ずいぶん前に、狩野さんには今作で弾いたピアノのお話を聞いていたのですが、
ある打ち合わせをしたときに、
今回のピアノをどうしようかという話になりまして。。。
そのときに狩野さんが「あの時話していたピアノ、使ってみない?」と。
ボクも、それはオモシロいなとおもったんですよね。
それに、たまたまレコーディングに先だってそのピアノに触れる機会もあったので。
カネコ:その機会というのは?
中島:自分のアーティスト写真を撮りに、
狩野さんの工房のちかくにいったのですが、
そのときに工房におジャマさせていただいたんです。
そこにそのピアノがあって、ポロポロっと触ったんですけれど、
それがいままで聴いたことがないような音が鳴ったんですよ。
いわゆる、スタジオとか、ホール常設のピアノとは、まったく違う種類の音です。
で、弾いたときに電撃的に。。。
カネコ:コレ、いいかもって?
中島:そう!
カネコ:ピアノの音のちがいというのは、どんなちがいなのでしょうか。
中島:まったくもってちがうんですよ。
たとえば、ホールとか、スタジオの常設ピアノって、
いわゆる音が全方向的なんです。
あらゆる種類の音楽に対応できるようなピアノの音色。
でも、このピアノは、不思議なデコボコ感というか、、、
完全に全方向的ではない、いってみればスゴくパーソナルな音色だったんです。
もともとは、”アルド・チッコリーニ”さんというイタリアのピアニスト、
もう本当に巨匠なんですけど、その人が所有していて、
それを狩野さんがゆずりうけたというピアノなんですけれどね。
圴一性をよしとしない、つまり不均一なものをよしとするパーソナル性がある、というか。
例えば、倍音が普通以上に出ているというか、音色にコクがありすぎるというか、
すごく個性的だったんですよ。
ピアノのタッチもふくめて、
ホールとかスタジオではなかなか出くわさないタイプのピアノでしたね。
カネコ:音的にあわないってコト?
中島:あわないとおもいます。
もちろん、ながくその場所に置かれるコトによって、
場所とピアノがいい具合に”何か”を共有しあったり、
共鳴しあったりして、独特の音になっていくんでしょうけれどね。
このピアノが急にあのホールに置かれたワケですが、
やはり違和感があって、その違和感がよかったし、オモシロかったんですよ。
カネコ:意外性があったというコトですかね。
中島:そうだとおもいます。
その辺は、狩野さんの独特の判断というか、
このピアノをこのホールに置いたら、
こういういい結果を生むという判断というのがつよいとおもいます。
だから、ボクの方はすごく安心していられたというワケなのです。
カネコ:そのホールに置いてからの調律の調整もよかったんでしょうね。
中島:もちろん!
(その2へつづく)
Photo by Masatoshi Yamashiro
Photo by Masatoshi Yamashiro
□アルバム情報
『clair-obscur』
価格:¥ 3,000(税込)
レーベル:SPIRAL RECORDS(XQAW-1106)
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□プロフィール
中島ノブユキ
作曲家 / ピアニスト
東京とパリで作曲を学ぶ。作曲家 / ピアニストとして 映画音楽~JAZZ~POPS~広告音楽~クラシック 等様々なフィールドで活動。2005年頃より主に菊地成孔 ペペ・トルメント・アスカラール、持田香織、畠山美由紀、ゴンチチらの作品に編曲家として参加。菊地成孔作品には作曲家としても楽曲提供した。またタップ ダンサー熊谷和徳と東京フィルハーモニー交響楽団が共演する「REVOLUCION」(2010年)では音楽監修/作曲、オーケストレーションを担当し た。
映画音楽として太宰治原作「人間失格」(荒戸源次郎 監督作品)を、またアニメーション「たまゆら」(佐藤順一 監督作品)の音楽を担当。2011年よりNHK-BSプレミアムで放送の番組「旅のチカラ」のテーマ音楽(『その一歩を踏み出す』)を担当。
近年は女優であり歌手でもあるジェーン・バーキンのワールドツアー「Jane Birkin sings Serge Gainsbourg」に音楽監督/ピアニストとして参加、世界27ヶ国を回った(約80公演)。東京とパリとを行き来しながら制作されたJane Birkin + Nobuyuki Nakajima 名義の作品「une petite fille(少女)」を kizunaworld org.より2012年8月発表。またリミックスワークとしては中島自身のリミックスによる「Thinking of you (NN’s Dreamy Mix)」が世界的DJ、ホセ・パディーヤのコンピレーション「Ibiza Sundowner Presented By José Padilla」に収録された。
ソロアルバムとして『エテパルマ』(2006年発表。バンドネオン、ギター、弦楽三重奏、ピアノ等の編成により自身のオリジナル楽曲の他、F・モンポウ、 V・モライス、D・エリントン等の作品を新たに響かせた作品)、『パッサカイユ』(2007年発表。前作の編成を踏襲しつつ、ラフマニノフ、ホレス・シル バー、トニーニョ・オルタ等の作品を編曲。自身の楽曲でも新たな地平を開く。)、『メランコリア』(2010年発表。より内省的に響きに装いが変化。自身 の楽曲の比重が高まる。)『カンチェラーレ』(2012年発表。C・ダレッシオ、A・ジョビン、J・S・バッハの楽曲から かしぶち哲郎の楽曲、そして自身の書き下ろし楽曲を含む自身初のピアノソロアルバム。ジャケットは鴨居玲の絵画。)がある。
2013年にはNHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽を担当した。2014年2月にスパイラルレコーズよりピアノソロアルバム『clair-obscur』(クレール・オブスキュア)を発表。
ライフワーク「24のプレリュードとフーガ」の全曲完成に向け作曲中である。
http://www.nobuyukinakajima.com/
Photo by Kenichi Aono
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