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Interview : March 6, 2014 @ 15:53

“中島ノブユキ”に訊く、『clair-obscur』(その3)



“ジェーン・バーキン”のワールドツアーののバンマス、ピアニストをはじめ、映画やドラマのサントラの作曲、そしてさまざまなアーティストの編曲などもおこなう、音楽家の”中島ノブユキ”。


先日リリースされたピアノソロ アルバム『clair-obscur(クレール・オブスキュア)』は、季節を感じ、自然の力を感じる、そんな作品となっている。


今回は、”中島ノブユキ”さんに本アルバムのお話を中心に、いろいろとうかがったインタビューシリーズ3部作の最終章。

とくとご覧あれ。






カネコヒデシ(以下、カネコ):
「楽器の属性に縛られない楽曲」とは、いったいどういう意味なんでしょう。


中島ノブユキ(以下、中島):
つまり、いままではピアノの曲を書くといったらピアニスティックな曲で、
アンサンブルでやるとしたら、
バンドネオンであればバンドネオンらしくとか、弦は弦らしくって、
楽器の特性というか、属性にむかう音楽を作っていたのですが、
もちろん、それはアンサンブルを構築したり、編曲したりするときには、
当然重要なものなんです。


カネコ:ええ。


中島:でも、今回、ピアノソロという、ある種、濃淡の音楽をつくろうとしたときに、
その属性をはなれてみたんですね。
つまり、コレはたまたまピアノソロで録音したけれども、
おなじ楽曲が別の編成で演奏されてもその曲が成立する。
そういうものに自分の興味といいましょうか方向性が向かっていて、
じつはそれが「プレリュードとフーガ」を書いていることの興味の一つでもあるんですよ。


カネコ:なるほど。


中島:バッハが、最晩年に書いていた「フーガの技法」という楽曲群は、
楽器が指定されていない。
チェンバロで弾こうが、弦楽四重奏に編曲しようが、オルガンで弾こうが、
とにかく楽器に縛られていないんです。
楽曲そのものの力というか、、、
最終的にバッハは、そこにいこうとしたんだとおもうんですよね。
ボクは、そこに感銘を受けたんです。
だから、興味というか、方向性が、
そういった方向にシフトしているのかなとアルバム制作中に気づきましたね。


カネコ:ということは、このアルバムはおなじ曲をちがう編成だったり、
ちがう楽器でも演奏ができてしまうというコトですか?


中島:そういうことも可能ですね。





カネコ:つまり、もう次のアルバムの構想ができちゃっているワケですね、
ロックバージョンとか(笑)。


中島:ま、それはないですけど(笑)。
そして、それってファーストアルバムの『エテパルマ』をつくったときも、
既におなじ発想があったのかもしれないと気づいたんですよ。
古今東西のいろんなピアニスト、
たとえば”セロニアス・モンク”が書いたピアノ曲を、
アンサンブルにして聴いてもらいたいとか。
あるいは”デューク・エリントン”の曲を、
バンドネオンとギターが入ってやったとか。
そういったもともとあるアレンジ、もともとの楽曲を、
さまざまなアレンジを施すことで逆照射的に楽曲を解体してしまう、
そして結果的に楽曲そのものに光を当てるというか、そこに注目したいという。。。
その発想は、ずっと変わっていなかったというコトなんですよね。


カネコ:今後は、もっとそういう方向にシフトしていく感じなんでしょうかね。


中島:発想は、すべて一緒なのかもしれないです。
アンサンブル バージョンは華やかで、
ピアノソロは地味という印象をもたれてしまうかもしれませんが、
自分がもとめている音の本質はどちらもおなじで、「曲そのもの」なんですよ。
だから、ピアノソロをつくったからといって、
アンサンブルへの編曲の興味がうしなわれたワケではないんです。
方向はおなじですから。


カネコ:なるほど。
今回のジャケットのデザインは、どのようにすすめられたのですか?


中島:デザインは関与してないの。
「いいねー!」とか、そういうコトなら言ったけれどね(笑)。


カネコ:ということは、
「いーじゃん、いーじゃん!」でススんでいったのがコレだったんですか(笑)?


中島:そうそう(笑)。
デザインチームは、『メランコリア』のときと一緒なんです。
とりあえず、アルバム全体のイメージはつたえて、あとは「乳白色で!」って。
途中経過では、いろいろな案も見せていただいたんですけれど、
最後は究極の抽象にむかったのでよかったと思っています。


カネコ:名前の表記が帯の下なんですね。


中島:あ、気づいてもらえました(笑)?





カネコ:最近は、なかなかこういうデザインはしないなーと(笑)。


中島:ソコは、なにも考えなかったですけれど(笑)。
そうだ!いま話をしていて、むかし観た、とある絵画を思い出した。
とおくを見わたすような、あわい光の濃淡で、
色も微妙にグラデーションがかかっている風景画なんです。すごく素敵なんですよ。
ただ、下のところに大きくクッキリと作家の名前が書かれていたワケですよ。
そこで、ゲンナリしちゃって(笑)。
名前がなくてもよかったのになーと。


カネコ:その作家の方に自分主張があったのかもですね。


中島:ただ、今回、このパッケージもふくめて、
作品に参加しているヒト全員がよろこべる作品になったコトは、
すごくしあわせだったと思いますね。
音の部分でいうと、曲づくりと録音は、もちろんちがう話なのですが、
曲を書いていく過程で、こういう音にしたい、こういう録音ができたらいいな、
というイメージを共有しながらできたと思っています。
それはもちろん、ここ数年来の共同作業をしてきた、
レコーディング エンジニアの奥田(泰次)さんとの信頼関係もありますけれどね。


カネコ:そういえば、作曲作業をやられているあいだの、
いわゆるリラックスタイムはナニをやられているんですか?


中島:こまめにぼーっとしてますよ(笑)。
でも、どんなにしずかな曲を書いていたり、音数のすくない曲を書いていても、
頭はけっこうカッカしているものなんです。
だから、リラックスする時間は必要だったりもしますよね。
逆に、リラックスしないで、ノっている状態で、勢いで書くコトもあります。
あとは、映画観たり。


カネコ:お、映画ですか。
最近だとどういう映画を観られたんですか?


中島:『アルゴ』は、オモシロかったですよ。


カネコ:“ベン・アフレック”のですね。
意外とそういうのが好きなんですか。


中島:そうそう(笑)!
最近、戦争映画やサスペンス映画を見なおしていて、
もともとそういうのが好きなんですよ。


カネコ:なるほど。


中島:あとは、気分転換に料理したり。


カネコ:そういったリラックスタイムの要素もいろいろとあわさって、
この気持ちよさが表現されたのかもですね。
次の予定だったり、構想はあるんですか?


中島:ナーンもないです(笑)。


カネコ:ボヤっとしちゃうワケですね(笑)。


中島:そうなんですよ。
いいんです。





カネコ:コンサートは?


中島:じつは、けっこうピアノの多重録音でつくった曲もおおいから、
できる曲とできない曲があるんですよね。


カネコ:レコーディングには、どのくらいの時間がかかったんですか?


中島:だいたい、昼間の1時くらいからはじまって、夜7時くらいには終わるから、
正味6時間くらいを2日間でした。
もちろん準備には、かなり時間がかかっていますけれど。


カネコ:
それだけ手間隙かかっているワケですから、売れたらいいですよね(笑)。


中島:そうですよ(笑)!


カネコ:では、あとは中島さんがボンヤリとしているウチに、
コレが勝手に売れていくという構図ですね。


中島:そうそう(笑)!
そして、レーベルさんがよろこぶってね。
それがナニよりですよ(笑)。


カネコ:たしかにそうですね(笑)。
今日は、ありがとうございました。


中島:ありがとうございました。






(おわり)
Photo by Masatoshi Yamashiro






□アルバム情報

『clair-obscur』






価格:¥ 3,000(税込)
レーベル:SPIRAL RECORDS(XQAW-1106)

>>>レビューはコチラ




□プロフィール

中島ノブユキ





作曲家 / ピアニスト
東京とパリで作曲を学ぶ。作曲家 / ピアニストとして 映画音楽~JAZZ~POPS~広告音楽~クラシック 等様々なフィールドで活動。2005年頃より主に菊地成孔 ペペ・トルメント・アスカラール、持田香織、畠山美由紀、ゴンチチらの作品に編曲家として参加。菊地成孔作品には作曲家としても楽曲提供した。またタップ ダンサー熊谷和徳と東京フィルハーモニー交響楽団が共演する「REVOLUCION」(2010年)では音楽監修/作曲、オーケストレーションを担当し た。
映画音楽として太宰治原作「人間失格」(荒戸源次郎 監督作品)を、またアニメーション「たまゆら」(佐藤順一 監督作品)の音楽を担当。2011年よりNHK-BSプレミアムで放送の番組「旅のチカラ」のテーマ音楽(『その一歩を踏み出す』)を担当。
近年は女優であり歌手でもあるジェーン・バーキンのワールドツアー「Jane Birkin sings Serge Gainsbourg」に音楽監督/ピアニストとして参加、世界27ヶ国を回った(約80公演)。東京とパリとを行き来しながら制作されたJane Birkin + Nobuyuki Nakajima 名義の作品「une petite fille(少女)」を kizunaworld org.より2012年8月発表。またリミックスワークとしては中島自身のリミックスによる「Thinking of you (NN’s Dreamy Mix)」が世界的DJ、ホセ・パディーヤのコンピレーション「Ibiza Sundowner Presented By José Padilla」に収録された。
ソロアルバムとして『エテパルマ』(2006年発表。バンドネオン、ギター、弦楽三重奏、ピアノ等の編成により自身のオリジナル楽曲の他、F・モンポウ、 V・モライス、D・エリントン等の作品を新たに響かせた作品)、『パッサカイユ』(2007年発表。前作の編成を踏襲しつつ、ラフマニノフ、ホレス・シル バー、トニーニョ・オルタ等の作品を編曲。自身の楽曲でも新たな地平を開く。)、『メランコリア』(2010年発表。より内省的に響きに装いが変化。自身 の楽曲の比重が高まる。)『カンチェラーレ』(2012年発表。C・ダレッシオ、A・ジョビン、J・S・バッハの楽曲から かしぶち哲郎の楽曲、そして自身の書き下ろし楽曲を含む自身初のピアノソロアルバム。ジャケットは鴨居玲の絵画。)がある。
2013年にはNHK大河ドラマ「八重の桜」の音楽を担当した。2014年2月にスパイラルレコーズよりピアノソロアルバム『clair-obscur』(クレール・オブスキュア)を発表。
ライフワーク「24のプレリュードとフーガ」の全曲完成に向け作曲中である。
http://www.nobuyukinakajima.com/
Photo by Kenichi Aono


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