Interview : June 24, 2010 @ 20:14
グスタボ・サンタオラージャ インタビュー(前編)
映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』プロデューサー
グスタボ・サンタオラージャ インタビュー(前編)
『ブロークバック・マウンテン』や『バベル』では二度にわたるアカデミー賞作曲賞を受賞、さらに日本でもヒットした『モーターサイクル・ダイアリーズ』や『21グラム』なども手掛けた世界的音楽家グスタボ・サンタオラージャが、今度は自身の母国であるアルゼンチンのタンゴについてのドキュメント映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』をプロデュースした。
映画では、タンゴという音楽が、いかにアルゼンチンの国民的音楽であったかを、生ける伝説たちが話す彼らの人生とともに、刻々と伝えている。
今回は、映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』のお話を中心に、彼自身のコトなど、いろいろなコトについて、インタビューをしてみた。
─映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』を製作した過程で印象に残っているエピソードを教えてください。
とにかく、今まで経験したことのない、数々の素晴らしい瞬間に立ち会うことができましたね。現在は、クリックトラッカーを使用してレコーディングすることが当たり前になってしまっているのですが、タンゴの場合──特に伝統的なタンゴの場合は、テンポが上がったり、下がったり動くので、クリックトラッカーは使えないのです。
なかでもビルヒニア・ルーケさんが、「ブエノスアイレスの歌」の歌を収録したときのことはとても印象に残っていますね。まず、ガイド・ボーカルの収録を行ったのですが、じつはあの曲には、自由な間がいくつもあって、オーケストラがボーカルのタイミングに沿って演奏しなくてはならないのです。だから、オーケストラの入るタイミングや出るタイミングは、彼女がどれだけ休止をとるかによって変わってくるんですよ。
まず、ガイド・ボーカルを録って、そのボーカルに沿った形でオーケストラの演奏を収録しましたが、その時私は「彼女はどうやって歌を再度収録すればいいのだろうか?」と考えました。オーケストラが彼女に沿って演奏しているのに、その演奏に今度はボーカルを合わせるなんてことが果たして可能なのだろうかと。
翌日、スタジオにやってきた彼女に「とても難しいことに、昨日のあなたの歌に沿って演奏したオーケストラをバックにまた歌ってもらわないといけない」と言ったんです。すると彼女は、まるで怒ったように私をみて「私はワンテイクでやるつもりよ」と。まさしくそのテイクがアルバムに収録されているテイクです。彼女は宣言通り、ワンテイクで録ったんですよ。
なぜそんなことが出来たのか。私も、今までにこんな経験をしたことがありませんでした。彼女の歌と歌の間とオーケストラの演奏が不思議とぴったりとはまったんです。
それは、かつてないほどの経験でしたね。
─母国アルゼンチンでのこの映画の反応、または公開された他国での反響を教えてください。
アルゼンチンでは、タンゴドキュメンタリー映画としては史上最大のヒットとなりました。タンゴのドキュメンタリーは2週間ぐらいしか上映されないことが多いのですが、この映画は何ケ月も上映され続けましたね。だから、何万人もの観客に観てもらえて、大成功でした。
ブラジルやギリシャでも、大ヒットしたそうです。ベルリン国際映画祭でプレミア上映されたときは、15分以上もスタンディングオベーションが起こりましたよ。
─あなたよりはるかに年上のマエストロたちとのお仕事は、あなたにとってどのようなものでしたか。96歳のマエストロが奏でるバンドネオンの音色を聴く時などはどのような気持ちでしたか。
残念ながら、ガブリエル・クラウシさんは今年亡くなってしまいました。
彼は、昔ながらのバンドネオンの奏法を継承していた最後のバンドネオン奏者だったんです。映画に登場する他の奏者も含めて、今日のバンドネオン奏者は、後に発明された演奏のテクニックを使用しているんです。それは自らの体重を利用して楽器の音を出す方法なんですけれど、、必ず片足に楽器を乗せて体重を利用しながら演奏する方法なんですよ。
一方、クラウシさんの奏法は、小さいスツールに腰掛けて、両足は閉じたまま、楽器を両足にのせて弾くというもので、体重を利用せずに自身の力で楽器を開閉させて音を出すので、一般的なバンドネオンの音色とは異なり、ハルモニウムのような独特の音になるんです。
彼の死をもって、この奏法は失われてしまったわけですよ。ひとつの時代が終わったと言えるでしょう。ですから、私は彼の演奏シーンを最後に挿入することがとても重要だと思いましたね。
この映画でフィーチャーしたかったことは、素晴らしい才能とタンゴという音楽の多様性と、高齢者の尊さです。
我々の住む社会は、残念ながら高齢者は蔑まされていますよね。世界的な文化として、高齢者は社会の重要な役割を担ってきました。賢い存在として尊敬され、部族の人々などは高齢者に助言を求めたものです。しかし、我々の社会はそのことを忘れてしまいがちなような気がするんですよ。
だから、老齢の音楽家たちのバイタリティーやパワー、ほとばしるエネルギーといったものを伝えることが、この映画の重要な点になったんです。
もうひとつ重要なのは、この映画を観終わった人が、タンゴやタンゴの音楽家たちについてもっと興味を抱いてもらうことでした。歳を重ねることで、彼らアーティストにもたらしたものを観客に理解してもらえたら、この映画の任務が果たせたと言ってもいいでしょう。
─街で出会った人々が「マエストロ!」と親愛の表情で駈け寄るシーンが印象的でした。日本ではその道のマエストロはそんなに気安く声をかけられる存在ではありません。タンゴのマエストロたちはアルゼンチンではどのような存在なのでしょうか。
たしかに、マエストロたちはみんなとてもフレンドリーですね。
「マエストロ」とは、「マスター」という意味で、芸術や何かを極めた人という意味なんです。また、「先生」という意味もありますね。だから、とても気さくな先生たちですよ。
(『グスタボ・サンタオラージャ インタビュー(後編)』へつづく)
2010年6月26日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』

©2008 LITA STANTIC PRODUCCIONES S.A. / PARMIL S.A. / VIDEOFILMES PRODUCCIONES ARTISTICAS
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