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Interview : July 2, 2010 @ 20:25

グスタボ・サンタオラージャ インタビュー(後編)


映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』プロデューサー
グスタボ・サンタオラージャ インタビュー(後編)


『ブ ロークバック・マウンテン』や『バベル』、『モーターサイクル・ダイアリーズ』 、そして『21グラム』なども手掛けた世界的音楽家グスタボ・サンタオラージャが、今度は自身の母国であるアルゼンチンのタンゴについてのドキュメント映画『アル ゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』をプロデュース。


ひきつづきグスタボ・サンタオラージャさんに、映画『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』のお話を中心に、彼自身のコトなどについて、インタビューした。



 

─日本でもヒットした『モーターサイクル・ダイアリーズ』『バベル』『ブロークバック・マウン テン』などの映画音楽についてですが、どのようなことを考えて作品化させたのでしょうか?

映画の製作でよくあるのが、撮影して、編集して、そこに既存の曲をあて込んでから、作曲家が、 その雰囲気にちかい音楽をつくるという流れなんですけれど、私はこのような作業は好みません。

まずは脚本を読み、登場人物や物語などからインスパイアされて、音楽を録り始めるんです。私は音楽を勉強したことはないので、譜面を書いたり、読んだりはできませんから。自分自身でたくさんの楽器も演奏しますよ。本当なら脚本段階から、音楽作りを始めたいと思っていますし、私が仕事をした多くの映画では実際に撮影される前に音楽を作っています。唯一『アモーレス・ぺロス』は例外でしたが、ほとんどの場合は、使われている音楽の大部分は映画が撮影される前につくりました。そのもっとも顕著な例が『ブロークバック・マウンテン』です。

あの 映画は撮影前に音楽全部を作りあげていました。音楽を撮影前につくって、監督は役者にもその音楽を聞かせたりしながら、撮影中は音楽と共に過ごしまたしたね。そうして、その音楽が映画にとって不可欠なものになっていくのです。もちろん、それは私がアン・リー監督を信頼しているからこそ出来たことなんですけれどね。
事前に大量の音楽を監督に託して、監督自身が場面に合わせて決めていくのです。初めてラフカットを観たとき、音楽が映像にあまりにもうまくはまっていたので、 もう夢のようでしたよ。


─音楽界においては華々しいキャリアをもたれていますが、 映画音楽においてアカデミー賞の作曲賞を受賞したときの心境を教えてください。


それは、もうとても嬉しかったです。自分の作品が認められて、とても幸運だと思いました。

現在までにグラミーで15回、ゴールデングロ ーブでも1回受賞しましたが、オスカーはやはり格別ですね。まったく別の生き物のような感じです。

言葉で説明するのが難しいのですが。


─(アレハンドロ・ゴンサレス・)イニャリトゥ監督の新作は、日本でも待ち望んでいる人が たくさんいます。彼の新作の音楽について、簡単に教えていただけますか?


映画については、まだ話してはいけないんですよ。でも、コメディーでもなく、ミュージカルでもないことは確かですし、またしても素晴らしい映画に 仕上がっていると思います。

アレハンドロは、我々の時代の偉大な監督のひとりだと思います。非凡な才能の持ち主ですし、他に類をみない監督です。彼は非常にユニークで、活気とリアリズムに満ちていますよ。私は彼の映画が大好きです。


─映画音楽において、影響を受けた作曲家や作品はありますか。


様々なものに影響を受けていますよ。あらゆるアートと文化にとても興味があるんです。

だから、本から影響を受ける場合もありますし、 絵画や料理などから影響を受けることもありますね。そして、人間そのものからも影響を受けますよ。誰かの人生や、人生におけるある出来事など。あらゆる分野 のものから影響を受けるんです。

いまはちょうど上海から帰国したばかりなのですが、上海でも様々なインスピレーションが得られましたよ。建物から、小さな茶室に至るまで。たくさんのものから刺激 を受けて、それが自然と音楽に反映されていくのです。

好きな作曲家もたくさんいますね。ニーノ・ロータやヘンリー・マンシーニ、 バーナード・ハーマンなど。最近の作曲家だと、トーマス・ニューマンが好きですよ。


─好きな映画をいくつか挙げてください。


好きな映画を選ぶのは難しいですが、好きな監督でしたら挙げられます。
フェデリコ・フェリーニ、ヴィム・ヴェンダース、ヴェルナー・ヘルツォーク、 ジム・ジャームッシュとか。

南米の監督ももちろん好きですね。 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、アルフォンソ・キュアロン、ギジェルモ・デル・トロ とか。

また、アメリカ人監督では初期のコッポラが好きですし、他にもたくさん好きな監督はいます。 影響を受けた映画を一本挙げるとすると、ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』ですね。


─あなたの母国アルゼンチンは、日本からもっとも遠い国ですが、アルゼンチンという国の魅力は どんなところにありますか。


多様な景観を持つ、美しい国です。また、とても面白い人口構成を持つ国ですね。

多くの住民は、イタリアやスペインといったラテン系のバックグラウンドを持っているのですが、他にも様々な文化を持つ移民がたくさん住んでいるんです。

現在は、アジアからの移民もとても多いですし、大きな韓国のコミュニティーや中国のコミュニティーが存在します。

それに、非常に若い国でもあります。今年は独立200周年なのですが、私の母親が今年90歳になることを考えると、いかにまだ若い国かということに驚かされますよ。(国の年齢が)母親とさほど年齢が変わらないのですから。とても若い国なので、多くの若い国と同じような矛盾も抱えています。だから、時に人々は世界一の国だと思ったり、時に世界で最も最悪な国だと思ったりしますよ。

多くの人が幼い時から、必然的に政治に携わるこ とになるので、とても政治に敏感な国でもありますね。それに今でもまだ成長を続けている国だと思います。


─この映画を観る日本の観客にメッセージをお願いします。


日本には、すでにこの映画を楽しみにしてくれているお客さんが大勢いると思うんです。なぜなら、多くの日本人はタンゴへの愛があり、タンゴの音楽の素晴らしさを知っているからです。

タンゴというジャンルやタンゴの音楽家たちについて、とても詳しいお客さんもたくさんいる。それとは反対に、タンゴにあまりなじみがなく、タンゴについて知らない人にもぜひご覧いただきたいですよ。

あとは若い人たちにもぜひ観てもらいたいです。この映画にとって音楽はもちろん重要な要素ですが、世代の異なる人の表現が、いかに刺激的で、 今日においても現代的(モダン)かということを表現したかったからです。


(『グスタボ・サンタオラージャ インタビュー』おわり)

 




Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー中! 『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』





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