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Interview : December 24, 2010 @ 18:37

Kenmochi Hidefumi × 藤田二郎(FJD) “Shakespeare”な対談(その1)



2年ぶり待望の2ndフルアルバム『Shakespeare(シェイクスピア)』リリースした”Kenmochi Hidefumi”。

そして、数々の音楽アーティストのジャケットデザインやロゴ、アパレルとのコラボ商品、さらには映像制作と、多岐にわたってアートディレクションをおこなう、アートディレククターの”FJD”こと”藤田二郎”。


ふたりの接点は、故nujabesのレーベル”Hydeout Productions”からリリースしたKenmochi Hidefumiの1stアルバム『Falliccia』で、藤田氏がジャケットのデザインを手掛けたことだ。

ひきつづき今回の2ndアルバムのジャケットデザインも手掛けた藤田氏。
しかし、意外にも実際に会うのは、まだ2回目だという。


今回は2ndアルバムのジャケット デザインのお話を中心に、おふたりが一緒に仕事をすることになったキッカケ、クリエイターとしての考え方、共通点などについて、レーベルオーナーの西原健一郎氏もたまに?加わり、いろいろとお話していただいた。



写真=西原和恵
構成・文=カネコヒデシ





クリエイティブの共通点──



カネコヒデシ(以下 カネコ):おふたりの出会いはいつなんですか?

Kenmochi Hidefumi(以下 Kenmochi):
じつは、、、(nujabes追悼)イベントのときなんです。

藤田二郎(以下 藤田):その前までは会えてなかったんですよ。

Kenmochi:最初に藤田さんのことを知ったのは、Calmのアルバム『Moonage Electric Ensemble』です。
Calm自体、日本人だとも思わなかったけれど。

カネコ:
たしかに日本人の出す音ではなかったですもんね。

Kenmochi:
音楽とジャケットの世界観がスゴいと思って、、、そこから藤田さんのファンですよ。
で、ボクがセバ(nujabes)さんの音楽レーベルの”Hydeout Productions”から1stアルバム『Falliccia』を出すときに、セバさんが「ジャケットのデザインをお願いしたいヒトがいたら、声を掛けるよ!」と言ってくれたので、「ぜひとも藤田さんに!」という感じでお願いしたのですが、そこから2年くらいお会いできていなくて。。。

カネコ:“Hydeout”時代は、まったく会わなかったんですね?

藤田:
そうなんです。
それで、セバさんの追悼イベントのときに──。

カネコ:
その時にはじめて?

藤田:
そうです。

Kenmochi:だから、お会いしてからはそれほど時間が経っていないんです。

西原健一郎(以下 西原):
じつはウチのレーベルからリリースが決まって、
最初のKenmochiさんとの打ち合わせのときに「ジャケットは絶対藤田さんで!」というお話だったんですよ。

藤田:マジですか!?それはうれしいです!






カネコ:
今回のジャケットのデザインは、このために描かれたものなんですか?

藤田:
そうです。
この元の絵の大きさ、じつは幅が1m20cmくらいあるんですよ。

カネコ:
ええ!

Kenmochi:
『Falliccia』のときも、それくらいあったんですか?

藤田:
そうです。

Kenmochi:
今回はとくにオーダーをせずに、タイトルが「シェイクスピア」だとだけお伝えしたんですけれど。。。
この絵の取っ掛かりはドコだったんですか?

藤田:
じつは、西原さんが最初に「宇宙を感じるけれど、いかにもスペーシーという感じでもない」というヒントをくださって。。。

西原:
そうですねー、ってボクが話していいのかな(笑)。
前作ではわりと抑えぎみのシンセサイザーの音が、今回は前面に出て来る部分があって、、、
スペーシーなジャケにしてしまうと、ホントに宇宙感が出てしまうと思ったから、
もっとオーガニックで、前作からつながるイメージでというお話をしました。

藤田:
前作は、ジャケットの中心に惑星があるデザインだったので、
今回はその惑星とほぼ同じ大きさくらいの空間を空けたかったんです。
なので、端の方から描きはじめましたね。

カネコ:
それは、音を聴いてから中心を空けた方がいいと思ったんですか?

藤田:
いえ、ジャケを並べたときのバランス的なところです。
あとは、西原さんがお話した間接的な宇宙感。
一曲目を聴いたときに、このイメージが浮かびましたよ。

カネコ:
そうなんですか!?
インスピレーションというのは、ドコから来るか分からないですよね。

藤田:
絵を描くときは、デザインする音源を何度もループさせて聴くんですけれど、今回のは2周目くらいかな。。。

カネコ:
Kenmochiさんは、そういうお話を聞いてどう思われます?

Kenmochi:
昔からファンだったので、興奮してます。
絵の質感から「藤田です!(低い声で)」みたいな感じのイメージでした(笑)。

カネコ:
巨匠的な感じですね(笑)。

Kenmochi:
甚平とか着て、山で薪とか切って暮らしていそうな、、、すごい仙人みたいなイメージがあったんです(笑)。

カネコ:
たしかに、絵はかなりオーガニック感がありますからね(笑)。

藤田:
でも、ボクは自然のなかにはモロにはいないくて、ひとつフィルターを通して自然を見ているタイプなんですよ。

カネコ:
Kenmochiさんは、曲をつくるときのインスピレーションは、どういう感じできたりするんですか?

Kenmochi:
ボクはジムに通っているんですけれど、そこで走っているときですかね。

カネコ:
走っているときって、無心ではないですけれど。。。

Kenmochi:
限りなく無心に近い状態ですが、走りはじめて20分くらいのときは「苦しい」とか、「今日は辞めよう」とか。。。

カネコ:
だいたいネガティブ要素ですよね(笑)。

Kenmochi:
そうです(笑)。
いつも1時間走っているんですけれど、最後の15分くらいに「もう、なんでもいいや!」みたいになって、そのときに浮かぶんです。だいたいはヒトの曲を聴きながら走るんですけれど、そこで初めて聴いていた音楽が頭の中に入ってくるんですよね。

藤田:
音楽って、別のことをしている時の方が頭に入ってきますよね。
インスピレーションの話でいうと、ボクの場合は散歩をしているときに、花壇というか、植え込みの草、、、都会なのに小さな自然の部分、その”しげみ”というか、”クラヤミ”がこんなだったら面白い、というのが”ふと”浮かぶんです。
日常のことなんですけれど、頭のなかで視点を変えるだけでそういう世界に行ける、空想旅行みたいな感じ。
それが面白いんですよね。

西原:
その部分はKenmochiさんのスタイルと共通する部分はありそうですね。

Kenmochi:
“インナートリップ”ですよね。
ボクは旅行には全然行かないんですが、家の中にいつつ、想像力でこうだったら面白いのに、という部分から音作りがはじまるんです。
外に出て、友達と旅行とかしていたら、それだけで満足してしまうと思いますね(笑)。





藤田:
Kenmochiさんはクリエイティブを0からスタートする、いわゆるアーティストですよね。
ボクは、音源や人の意見をいただいて、いわゆる商業という枠組みの中でモノつくりあげていくタイプなので、その辺でインスピレーションの取り方が違うのかもしれないです。

カネコ:
藤田さんは、普段から何かを描きつづけているみたいなことはないんですか?

藤田:
ライフワークみたいなものは、ないですね。
けっこう仕事でいっぱいいっぱいなので(笑)。

カネコ:
どんな感じで仕事をやられているんですか?

藤田:
仕事の絵を描くのは、だいたい夜中ですね。音楽をループして描きつづけて、気がついたら夜の8時から朝の7時くらいまでとかもあります。でも、やりつづけると、なぜか最悪なものになっていくんですよねー。
だから、出来るだけ早くいい感じにしたいタイプなんです。

カネコ:
自分の想像に近づける部分までは急いでやって、後から手を加えていくタイプなんですね。ボクも一緒です!
文章を書くときに、最初にばーっと書いてから少しおいて、ココはいらないってなる。

藤田:
“夜のラブレター”みたいな感じですね(笑)。

カネコ:
そうです(笑)!
でも、インタビュー原稿に関しては、ヒトが話したコトバを文字にして、そこから編集をするので、0から生むものではないですよね。

藤田:
そういう意味では、カネコさんとボクは近いです。0から生み出すというのは、本当にスゴいと思いますよ。

Kenmochi:
藤田さんは、もともと土着的な絵が好きで、ライフワーク的に描かれていて、それでジャケットのデザインに移行されたのかなと思ったんですけれど。。。そうではなく、音ありきデザインだったんですね。

藤田:
出来る出来ない、好きや嫌いの世界観は当然ありますけれど、基本的に音ありきです。売るモノに付加価値をつけることがボクらデザイナーの役目だとすれば、そこにエゴはないですね。

カネコ:
エゴはないけれど、エゴをうまく出すというところですかね?

藤田:
最初のインスピレーションとしては、アーティストのように0からですけれど、そこからの道のりはかなり商業的です。完成形に向けてのヒトとのやり取り──コミュニケーションが好きなんですよ。だから、アーティストではないと思っています。

西原:
そういえば、Kenmochiさんって「できました!」という時点までは、絶対に途中で聞かせてくれないですよね(笑)。

Kenmochi:
1割、2割くらいのときってすごく不安で、「コレは形になるのか?」くらいの状態では、恥ずかしくて。。。
でも、音源ができたときには、アドバイスを煽るクセに、煽ったわりには直さないタイプですよ(笑)。

西原:そう!意外とヒトの意見は聞かない(笑)。

Kenmochi:
直せない段階まで作ってから聞かせますからね。
セバさんのときも、作ったあとで聴かせて、イエスかノーしかない状況でしたね。「1曲くらいボーカル入りをつくるのは、どう?」って言われたんですけれど、コトバを濁しつつ断りました(笑)。

カネコ:ボーカルは入れたくないんですか?

Kenmochi:
ファーストアルバムだったので、その時はすべてひとりでやりたかったんです。まあ、セカンドもその流れできちゃいましたけれど。
だから、次は他のミュージシャンにお願いして、ボーカル入りを考えています。
ファーストを出したあとは、ヤリきっちゃった感があって。。。「もう、しばらくいいや!」みたいになってしまったんですけれど、今回はすぐにでもいきたい感じなんですよ。
今回のコンセプトは、いままでにやれることはだいたいやった感じだったので、自分らしさを根底に残しつつもいままでやったコトがない音とかビート、自分の中でナシだった部分にチャレンジしてみました。

藤田:
スゴくクリエイティブですね!

カネコ:
つねに違うことをやる心意気はスゴいです。

Kenmochi:
インストの音楽って、1から10まで自分の得意な部分とか、セオリーなことをやってしまうと、単なるBGMになってしまうんです。
だから、半分くらいはわざと”トゲ”の部分を作って、ヒトが「アレ?」って、一瞬スピーカーの方に振り向く音を作ってみたんです。

藤田:ちょっとした違和感を出すんですね。
ボク的にそういう曲がありましたね、、、「Ring / Spiral」だったかな。
ある部分にすごく違和感のある音が入って、気になったんですよね。

Kenmochi:
「Ring / Spiral」は、映画で『リング』と『らせん』というのがあったんですけれど、アメリカ版のタイトルが『Ring / Spiral』なんです。で、音的にクルクル、螺旋階段をクルクルまわりながら登っていく感覚を、らせん階段、、、スパイラル、、、リング、、そんな映画があったなと(笑)。
コトバ的に面白いからそれにしました。

カネコ:
ボクはいちばん最後の曲が好きでしたね。

Kenmochi:
アレは、最後の曲だから、逆に引っかからないように作ったんですけれどね(笑)。
あと「ストナーサンシャイン」というタイトルの曲があるんですけれど、じつはコレ、『ゲッターロボ』の。。。

藤田&カネコ:
ゲッターロボ!?

Kenmochi:
“必殺ワザ”の名前なんですよ。

藤田:でも、リアルタイムではないんでしょ?

Kenmochi:
ええ。

藤田:いつもタイトルを考えてから、曲を作られているんですか?

Kenmochi:
そうではないです。
曲を作ったあとに、強そうだから「ストナーサンシャイン」とか、宇宙っぽいから「sputnik」とか。。。
けっこうどうでもいいところから名前を取っていますよ(笑)。





藤田:ははは(笑)。
ちなみに、一曲目の「agharta」はジャケットの感じしませんか?

西原:
たしかにしますね。

Kenmochi:
この軽快さは『Falliccia』のときは、ボクの中でNGラインだったんですよ。
ファーストは、”深い”ものでいきたい気持ちがあって、セカンドを作るときにも同じ感じを出そうとしたら、難しい方向にいきそうだったので、それとは違う感じのものをやってみたんです。
一曲目って、そのアルバムのカラーになりますからね。




(”Shakespeare”な対談(その2)へつづく)






Kenmochi Hidefumi
『Shakespeare』



レーベル:UNPRIVATE ACOUSTICS(UPRC-003)
価格:¥2,500(税込)

>>>レビューはコチラ



□プロフィール
・Kenmochi Hidefumi(釼持英郁)



1981年生まれ。
ガットギター・ピアノ・パーカッション等のアコースティック楽器を主体とした音楽に、荒削りで力強いビートを掛け合わせた独自のinstrumentalを制作するクリエイター。美しいメロディとスピード感溢れるプログラミングが螺旋状に溶け合うサウンドスケープは唯一無二な魅力を放つ。作曲・編曲・演奏・録音まで全て一人で担当し、2008年にHydeout Productionsより1stフルアルバム「Falliccia」をリリース。
2010年には、西原健一郎の音楽レーベル”UNPRIVATE ACOUSTICS”より、待望の2ndフルアルバム『Shakespeare』をリリース。
バンドマンでもDJでもない視点から、ポストロック・ポストクラブミュージックとなるものを模索中。
http://www.h-kenmochi.com/
http://twitter.com/h_kenmochi


・藤田二郎(jiro fujita/FJD)



1971年大阪生まれ。
大阪府立高専機械工学科卒業。幼少時代から画家であり、冒険家である父の影響で絵を描きはじめる。
デザイン事務所(インテリア、グラフィック)等でキャリアを積み、1998年よりフリーランス。
2000年よりFJDとして活動開始。
http://www.fjd.jp/


・西原健一郎(Kenichiro Nishihara)

1996年よりファッションショーの選曲を始め、ワールドワイドで多岐にわたるショーやイベントで音楽ディレクションを担当する。現在までwebやCMなど幅広い分野の音楽で作曲・プロデュースなどを手がけ、2007年にはアンプライベート株式会社を設立した。
音楽レーベルUNPRIVATE ACOUSTICSを主宰し、2008年7inchアナログシングル「Neblosa」に続き、1stアルバム「Humming Jazz」をリリース。2010年2ndアルバム「LIFE」を発表した。
http://www.myspace.com/kenichironishihara
http://www.waxpoetics.jp/blogs/nishihara/
http://twitter.com/N_UNPRIVATE



撮影協力:NIGHTFLY(@渋谷)



http://www10.ocn.ne.jp/~barcyde/nightfly-concept.html



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