Interview : December 31, 2010 @ 19:42
Kenmochi Hidefumi × 藤田二郎(FJD) “Shakespeare”な対談(その2)
2年ぶりとなる2ndアルバム『Shakespeare(シェイクスピア)』リリースしたトラックメイカー”Kenmochi Hidefumi”と、数々の音楽アーティストのジャケットデザインやロゴなど、多岐にわたってアートディレクションをおこなうアートディレククターの”FJD”こと”藤田二郎”。
ふたりは、故nujabesのレーベル”Hydeout Productions”からリリースしたKenmochi Hidefumiの1stアルバム『Falliccia』で、藤田氏がジャケットのデザインを手掛けたことにはじまり、今作でもアートディレクションを藤田氏がおこなった。
音の職人とビジュアルの職人。
ふたりの職人によるコラボレーションが、壮大な世界を繰り広げた2ndアルバム。
ひきつづきジャケット デザインのお話を中心に、おふたりのクリエイターとしての考え方、影響をうけた音楽など、レーベルオーナーの西原健一郎氏もけっこう?加わり、いろいろとお話いただいた対談の2回目。
写真=西原和恵
構成・文=カネコヒデシ
構成・文=カネコヒデシ
インスピレーションと気持ちの切り替え──
カネコヒデシ(以下 カネコ):アルバムをつくるときに、最初に何を考えますか?
たとえば、曲数なのか、それとも何も考えずに何曲か作って、その後にアルバムのコンセプトを考えるとか。
もしくは、作りおきしてある曲を、コンセプトを決めて、それに合うものをチョイスしていくのか。。。
Kenmochi Hidefumi(以下 Kenmochi):まずは5曲くらい作ってから、コンセプトを考えます。その後に、アルバムの出す時期ですかね。
コンセプトが決まったら、いまある5曲に足りないものを考えるんです、、、いわゆるお弁当箱なんですよ。味の濃いものをつくり過ぎたら、うすい味のものを作る。最後は、お新香!みたいな感じです(笑)。
藤田二郎(以下 藤田):面白い考え方ですね。
カネコ:そういうアルバムの作り方をしているヒトは、いままではいなかったなー。
ちなみにジムは泳ぐとかじゃなくて、走るだけなんですか?
Kenmochi:走るのが好きなんです。
最初は音楽を聞きながら、、、ストレス解消みたいな部分があったんです。
西原健一郎(以下 西原):いま思ったことがありまして。。。
みなさん、意識されているのか分からないですけれど、思いっきりポップなことをやっていなくても、、、例えば、藤田さんのジャケットだったり、Kenmochiさんの音だったり、カネコさんの文章にもポップさを感じるんですよね。
狙っていないのにポップになっているのは、どこに秘密があるのかなー?って。
Kenmochi:ボクは、結構狙っていますよ!
ココまでやったら人には伝わらないだろうというラインを、一応決めています。自分がやりたいものと、ポップス具合とのせめぎ合いですよね。そのライン決めが一番楽しいですよ。
藤田:どこで止めるかもふくめて、そこがKenmochiさんなんでしょうね。
西原:藤田さんは”こだわり”というか、そういう部分はありますか?
藤田:そうですね、、、大きい絵を何時間もかかって仕上げたとしても、
そういう部分をあまり見せないようするとかですかね。
カネコ:それは、見せ方のこだわりですね。
Kenmochi:藤田さんの絵って、自然とか、アース的で、色もキレイだし、癒しのイメージが強そうですけれど、ボクには逆の荒々しさを感じるんですよね。やさしい自然というよりは、嵐とか、地震とか、自然への畏怖みたいな部分。ヤバい自然を感じるんです。
西原:たしかに!
鳥の絵もカワイイというよりは、もっとパワフルな、、、大自然の野性というか。
カネコ:ちなみに、今作のジャケットのフラミンゴはどこからインスピレーションが生まれたのですか?
藤田:それも一曲目を聞いたときなんですよね。
意外だったでしょ?
Kenmochi:意外でした。
一曲目の「agharta」というタイトル、じつは謎の地底都市の名前なんです。
藤田:地底都市!?
実際にそういう風に呼ばれているところがあるんですか?
Kenmochi:伝説の町の名前です。
それともうひとつ理由があって、マイルス・デイビスの激ファンクな2枚組のライブ アルバムがあって、お昼の部でやったのが『AGHARTA』、夜の部でやったライブが『PANGAEA』というタイトルで、「AGHARTA」はボク流のファンクだったので、その名前にしたというのもあります。
ボクの中では全体的にモノクロのイメージだったので、デザインがカラフルできて、すごく意外でしたね。
カネコ:個人的には、Kenmochiさんはジャズヒップホップというか、ダンスミュージックのイメージがスゴく強かったんですけれど、今回に関しては、ダンスというよりはサントラの感じを受けました。ビジュアルと一緒に入ってくる音みたいな。。。本人的にはどんな感じをイメージして作られたのですか?
Kenmochi:もともとダンスミュージックにしようとは思っていませんでした。
カネコ:Kenmochiさん的には、今作のオシ曲は?
Kenmochi:やはり「agharta」が”自分らしくなくて”いいなと。
「Kenmochiさんらしいですね!」と言われる曲って、本人としてはいつも通りの曲の感じだったりするんですよ。「本当に自分でつくったのか?」という感じなのが、「agharta」なんです。
カネコ:なるほど、アーティストですね〜。
Kenmochi:そういえば、藤田さんのHP、よく出来ているなと思いました。
ご自身でデザインされたものをただ並べるだけじゃなくって、自然の中にポンと、、、ああいう風にジャケットが置いてあると、また違ったように見えていいですね。
藤田:音源がコピーされたり、配信に変わったりが当たり前になってきた中で、自分的にはCDのジャケットを飾ってもらうというのはいちばんうれしいことなんですよね。
結局のところ、アートディレクションって、購買意欲を注ぐものでないといけないと思っていて、だから、、、部屋に飾ってもらうモノを目指したいですね。
カネコ:作品ですもんね。
藤田:いま音楽が、、、CDが売れないとか、そういう中で音楽に携わるってすばらしいですよ。時代がダメだから、ダメじゃなくて、マトモにやっていたら必ず突破口はあると思います。
Kenmochi:ボク的には、同業者が少なくなった”いま”がチャンスです、勝手にオンリーワンになれるワケだから。結局、ボクは才能があって音楽をやっていたワケではなく、他のヒトたちがやめていったのに、あきらめが悪くてつづけていただけなんですよ(笑)。
なんとなくつづけていた独りよがりなインストが、いまのスタイルになったという感じです。
カネコ:つづけていればチャンスがあるという感じですね。
藤田:ボクの好きな音楽のイメージって、汗をかくよりも、クールな感じで、アルバムも努力して出したというよりは、ポンと出たという感じがいいんですよね。西原さんとKenmochiさんのおふたりからは、すごくソレを感じるんです。
西原:Kenmochiさんの曲は、サラっとしている感じで、すごくスマートに見えるんですけれど、じつはかなり魂が入っているんです。
藤田さんの絵からも感じるんですけれど、それってすごく大切なコトだと思いますね。
Kenmochi:インストだから雰囲気モノにはしたくないのと、同じジャンルのヒトたちからは、なるべく離れたいと思っているんです。
歌詞を書かないから、表現する部分がすごく限られる、、、だから、同じ位置では作家性がなくなってしまうんですよ。
藤田:音楽シーン全体の話でいうと、90年代前半から中盤にかけて、たとえば竹村延和、サイレントポエッツなどというひとつの大きな波のようなものがあったと思いますが、そのジャンルの音楽シーンを盛り上げていくことに関しては、おふたりはどのように考えていますか?
西原:Kenmochiさんの音楽からは、すごく”日本の音”を感じるんです。竹村さんもそうですけれど、日本人にしかつくれない音なんですよね。だから、それを東京だけで共有するんじゃなくて、アジアやヨーロッパに広げていくことで、またひとつのブームというか、流れができればいいなと思います。
Kenmochi:最初はやはり、海外のアーティストがカッコいいイメージがあって。。。4Heroとか、JAZZANOVAとかよく聴いていて、何度やっても向こうのブルース・フィーリングというか、、、そういうクールな”音”にどうしてもならないんです。
たぶん、演歌とかポップスとかの”J-pop”?が、自分に染み付いたそのメロディ感が抜けないんですよね。ある時期からは、むしろそれが個性だと理解して、変える必要がないと開き直りましたけれど。。。
カネコ:いわゆる”ワビ”とか”サビ”とかですね。
Kenmochi:そこが日本人っぽいというか。。。どうしてもメロディを出し切ってしまう、、、そういう音楽が人間的に刷り込まれてしまっているんですね。
カネコ:音楽的には、どういうところに影響を受けましたか?
Kenmochi:高校生のころはビジュアル系ロックを聞いていたので、そこら辺ですかね。
藤田:例えば、、、”BUCK-TICK”とか?
Kenmochi:スゴく好きでしたね!
いろいろな音楽を2、3周くらい聴いてみて、いまは日本語の歌詞がいちばん体に入ってくるんですよね。
カネコ:ちなみに、藤田さんはどういう音楽が好きなんですか?
藤田:高校生のときは、佐野元春とかです。
クラブミュージックだと、、、アシッドジャズ。
竹村延和とか、サイレントポエッツとか。。。
カネコ:U.F.Oとか?
藤田:その時代からですかね。
当時、音楽にすごく詳しい友人がいて、レコードを聞かせてもらったときに、「スゴい!」って思いましたよ、「こういう世界があるんだ!」って。
Kenmochi:ボクが”nujabes”とか、”calm”とか、、、クラブミュージックを聴いていた当時、いったいどんなヒトが作っているんだろう?って、興味深々でしたね。天の上のヒトが作っているんだろうって(笑)。
カネコ:そうか!あまり顔を出さなかったから。
西原:セバさんは、イメージがぜんぜん違いますからね。
Kenmochi:藤田さんもポルシェで現れると思っていましたもん(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
藤田:チャリですよ(笑)!
Kenmochi:チャリできたんですか(笑)!?
でも、クラブミュージックをやっているヒトは分からないですよね。
西原:セバさんがKenmochiさんの音源を初めて聴いたときの話なんですけれど、机の上に置いてあった何も書いていない白盤のCD-Rを聴いて「ダレの音源!?」ってなったらしいんですよ。スタッフがセバさんの性格を知っていて、わざと机の上にポンと置いたそうで、「コレを聴いてください!」というと、絶対聴かないヒトだったみたいです。それが、セバさんとKenmochiさんの出会いで。。。
Kenmochi:「気になって眠れないんだけれど!」ってなったみたいですね(笑)。
藤田:ちょうどボクの誕生日にセバさんからKenmochiさんのジャケット制作依頼のメールが来て、「最高の誕生日プレゼントだ!」って思いました。
西原:ちなみに、今回のジャケットの原画ってあるんですか?
藤田:ありますよ!
でも、他のは全部の作品を置いていくと、保管が大変なので、終わったものはその上から塗って新しいものを作ったりしています。
Kenmochi:ええ!もったいない!!
西原:この期に保管して、ぜひ展覧会をやりましょうよ。
Kenmochi:いやいや。
それは『FJD美術館』を箱根に造るのがいいと思います(笑)。
カネコ:箱根だよね、やっぱり(笑)。
藤田:手法としては、キャンバスで7割ほど仕上げて、あとはPCで3割仕上げていて、最終的にデータが完成形なので、撮影した段階で素材のひとつなんです。
豆粒に絵を書くヒトっていますけれど、ボクにとってアレは難しくて、大きければ大きいほど描きやすい。で、大きい絵を小さいサイズにするのが好きなんです。
子どものころ、カラーコピー機で雑誌の表紙を縮小コピーしたんですけれど、それにキュンときたんですよ。
密度がつまるので、いろいろな色が入ってギュッとなる、あの質感がいいんですよね。
Kenmochi:CDのジャケットって、気持ちのいい大きさですよね。これ以上大きくても、これ以上小さくてもダメって感じです。
藤田さんの行き詰まったときのストレス解消法はなんですか?
藤田:基本的には散歩とか、ジムですかね。
Kenmochiさんは、何かありますか?
Kenmochi:ジムと、あとは仕事が全部終わって、夜に缶チューハイを飲みながら。。。
藤田:やっぱり酒ですか?
Kenmochi:酒を飲みながら、アニメを観たり。
カネコ:酒を飲みながらアニメを観るんですか!?
なんだか、すごいオトナな感じですね(笑)。
Kenmochi:そうなんです。
酒を飲みながら、煮干しを食べて、アニメをみているときは、ああもう今日自分はよくやったなって(笑)。
藤田:でも、そこから音楽への結びつきはありそうですね。
Kenmochi:いえ、そのときは完全に考えていないです。
カネコ:切り替えがキチンとできているんでしょうね。
ボクはダメです。
藤田:おなじです(笑)!
Kenmochi:ボクは、いかに一度すべて忘れて、違う角度から何度も観れるかという部分が重要だと思っていて、その日にやっていた作業を全部忘れるんです、、、リセットする。で、次の日に修正して、また次の日という感じです。
西原:煮詰まったときって、悔しくて、よくなるまでやろうとしませんか?
カネコ:します(笑)!
でも、ぜんぜんよくならない。
Kenmochi:ボクもむかしはそういう感じでした。
例えば、ずっと風景の絵を描いていて、山の色が違う!とかって何度も描いていて、翌朝時間をおいて観てみたら、そもそも描いていたものが山じゃないみたいな感じ。だから、つねにモノごとを俯瞰的に見ていますね。
西原:なんだか、、、一番オトナな意見じゃないですか(笑)。
藤田&カネコ:そうですね(笑)。
藤田:でも、中途半端な状態だと、家に帰ったときに、すべてがイヤになることってないですか?
だから、ある程度、気持ちにゆとりを持たせたいんですよ。
(”Shakespeare”な対談(その3)へつづく)
>>> “Shakespeare”な対談(その1)はコチラ
Kenmochi Hidefumi
『Shakespeare』
レーベル:UNPRIVATE ACOUSTICS(UPRC-003)
価格:¥2,500(税込)
>>>レビューはコチラ
□プロフィール
・Kenmochi Hidefumi(釼持英郁)
1981年生まれ。
ガットギター・ピアノ・パーカッション等のアコースティック楽器を主体とした音楽に、荒削りで力強いビートを掛け合わせた独自のinstrumentalを制作するクリエイター。美しいメロディとスピード感溢れるプログラミングが螺旋状に溶け合うサウンドスケープは唯一無二な魅力を放つ。作曲・編曲・演奏・録音まで全て一人で担当し、2008年にHydeout Productionsより1stフルアルバム「Falliccia」をリリース。
2010年には、西原健一郎の音楽レーベル”UNPRIVATE ACOUSTICS”より、待望の2ndフルアルバム『Shakespeare』をリリース。
バンドマンでもDJでもない視点から、ポストロック・ポストクラブミュージックとなるものを模索中。
http://www.h-kenmochi.com/
http://twitter.com/h_kenmochi
・藤田二郎(jiro fujita/FJD)
1971年大阪生まれ。
大阪府立高専機械工学科卒業。幼少時代から画家であり、冒険家である父の影響で絵を描きはじめる。
デザイン事務所(インテリア、グラフィック)等でキャリアを積み、1998年よりフリーランス。
2000年よりFJDとして活動開始。
http://www.fjd.jp/
・西原健一郎(Kenichiro Nishihara)
1996年よりファッションショーの選曲を始め、ワールドワイドで多岐にわたるショーやイベントで音楽ディレクションを担当する。現在までwebやCMなど幅広い分野の音楽で作曲・プロデュースなどを手がけ、2007年にはアンプライベート株式会社を設立した。
音楽レーベルUNPRIVATE ACOUSTICSを主宰し、2008年7inchアナログシングル「Neblosa」に続き、1stアルバム「Humming Jazz」をリリース。2010年2ndアルバム「LIFE」を発表した。
http://www.myspace.com/kenichironishihara
http://www.waxpoetics.jp/blogs/nishihara/
http://twitter.com/N_UNPRIVATE
撮影協力:NIGHTFLY(@渋谷)
http://www10.ocn.ne.jp/~barcyde/nightfly-concept.html
This entry was posted on Friday, December 31st, 2010 at 19:42 and is filed under Interview. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed. Responses are currently closed, but you can trackback from your own site.