Interview : January 7, 2011 @ 21:26
Kenmochi Hidefumi × 藤田二郎(FJD) “Shakespeare”な対談(最終回)
2年ぶりとなるアルバム『Shakespeare(シェイクスピア)』リリースしたトラックメイカー”Kenmochi Hidefumi”と、多岐にわたってアートディレクションをおこなうアートディレククターの”FJD”こと”藤田二郎”。
音の職人とビジュアルの職人。
ひきつづきジャケット デザインのお話を中心に、おふたりのクリエイターとしてのルーツや、制作環境などについて、レーベルオーナーの西原健一郎氏もほとんど?加わって、いろいろとお話いただいた対談の最終回。
写真=西原和恵
構成・文=カネコヒデシ
構成・文=カネコヒデシ
自分対音、自分対世間──
Kenmochi Hidefumi(以下 Kenmochi):藤田さんは、仕事中はどんな音楽を聴いているんですか?
藤田二郎(以下 藤田):その時の仕事の音楽をやたら聴くという感じです。
でも、一度に5本とか7本とかジャケットのデザインをやるときがあって、ココから違うヒトのジャケットをやるときに、前のヒトの音源の余韻で、次のヒトの音源は聴きづらいとか、、、そういうのはありますね。
Kenmochi:いろいろなヒトのデザインをやられていますもんね。
藤田さんとは、いままでお互いどんなヒトか分からずに、文面だけでやりとりしてきたので、今日はいろいろとお話できて、すごくうれしいです。
カネコヒデシ(以下 カネコ):いまはメールでデータのやり取りをしてって、顔をあわせずに仕事が出来る時代ですからね。
藤田:そういえば、昔、竹村延和がジャパンのジャンセン・バルビエリと、カセットテープでやり取りして曲を作っていましたよね。
カネコ:ありましたねー。
Kenmochi:ミュージシャン同士で、顔を一度も見ずに曲を作ったりもできますから。
西原健一郎(以下 西原):でも、これから藤田さんとKenmochiさんが仲良くなって、それでつくるものと、いままでのものがどのくらい違ってくるのかが気になりますね。
藤田:どっちに転ぶかわからないですね。いい面もあるし。
カネコ:もしかしたら、Kenmochiさんの方が藤田さんの絵に合わせるかもしれないし、逆に藤田さんが寄っていくのかもしれない。そういうのも考えられなくないですよね。
Kenmochi:ミュージシャン本人を知っていると、描く絵もすこし変わってくるかもしれないですよね。
藤田:それは分からないですね。
でも、コミュニケーションによって変わるとは思います。
西原さんはメールのやりとりで曲を作ったときは、出来上がってからはじめてその人と会うみたいな感じなんですか?
西原:海外のミュージシャンは、そうなりますよね。
ボクとしては共同作業というか、違うヒトの意見が入って良くなっていく、というやり方が自分に合っているというか、、、好きなんですよ。
そういう意味では、Kenmochiさんは基本的には自分の芯を曲げないので、スゴいですよね。ボクだったら、4ツ打ちのほうがイイって言われたら、すぐに4ツ打ちにしちゃいますから(笑)。
Kenmochi:ヒトがそう言ったら、むしろそうしたくないっていうのがあるんです。
西原:それだけ強い意志があるから、同じテンションでその作品に向き合えないですよ。
何十時間も掛けて作り上げてきたところに、簡単なヒトコトが入れられない。
アーティスト作品として、”100%自分の感覚で作り上げたもの”ですもんね。
藤田:それだけ個性が強いということですよね。
Kenmochi:ボクは商業的なことがまったくできないんです。もともと、何か意図したゴール地点があるわけではなく、なにもかもが自由というか。。。
そもそも自分でゴールを決めてやるというのが当たり前だったから、逆に変なこだわりができてしまったんじゃないですかね。
藤田:ボクは逆で、最終的に成立するものを作り上げるということから入るから、それはまた違った感覚ですね。
西原:ちなみに、Kenmochiさんの制作環境って、コンピューターがないんです。いま音楽を作る時って、ほぼ全員コンピューターでやっているんですよ。999.99%くらい。その0.001%のひとりがKenmochiさん。いわゆるDTMという、キーボード一台でつくっているんですよ。その辺から「普通じゃないぞ!」って感じますね。
普通はプロツールスとか、便利でクオリティも上がるから使うんですけれど。
Kenmochi:レコーダーもないです(笑)。
ギターの音はいわゆる1サンプルで、じつは1フレーズでひとつのサンプルという形で、それを並べ替えたり、逆再生させたりとかしていて、すべてが素材として音がならんでいる感じなんですよ。
藤田:その作り方は、自分のポリシーみたいな感じなんですか?
そば屋でいうと、そば職人の水の配分がどうとか、そんな感じの──。
Kenmochi:そこまでは考えてはいなく、最初に買った機材でつくっているだけです。
西原:“竹村延和”とか、”サイレントポエッツ”とか、90年代の音楽って、生で録ったものをシーケンスでサンプルする作り方をしていて、たぶんそれと同じなんですよ。
そのころの音楽って、ディテールはいまよりもこだわっていて、音の質感が作り込まれていたり、、、最小単位で作るからこそ出来るプロダクションなんです。
プロツールスで波形を描いたりするよりはずっとシンプルなやり方で、しかもひとつのサンプルに対して”魂”が入っているんですよね。
Kenmochi:ボクの音楽は、8小節なりはキッチリ作って、それをどう展開させていくかで、こだわれるところがソコしかないから、そこにフォーカスが当たるんですよね。プロツールスとかPCのソフトだと簡単に直せるし、無限に手があって、それでボクの音楽がよくなるかは分からない。
だから、いまある機材のなかだけでやって、もっとこだわるところを見るという感じです。
カネコ:わざと選択肢を狭めているんですね。
そっちの方が逆に──。
藤田:インスピレーションが湧く!
カネコ:そうです!
たくさんあると、逆にあり過ぎて選べないというやつですね。
西原:ボクは、いっぱいある中から選びたいタイプなんですが、Kenmochiさんはストイックなんですよ。
だから、逆にその部分に憧れて、マネしようかと思っているんですけれど(笑)。
カネコ:中華料理店で円卓にいっぱい並べるタイプですね。ぐるぐる回しちゃう感じ(笑)。
藤田:食う食わないは別にね(笑)。
Kenmochi:でも、同じサンプラーでも録った音が違うとか、シンセもこの音がいい!みたいなのが、西原さんにはあって、ボクにはないんです。ノイズが乗っていても、ぜんぜん気にならないというか。。。
西原:憧れるなー、そういうの。
Kenmochi:とりあえず、学生のときに買ったガットギターと安いマイクで、もう10年くらいやっているんです。
西原:その辺りにヒップホップ的な感じがします。
“ピートロック”が「SP-1200」をずっと使いつづけている、それだけ!みたいな感じ。
Kenmochi:それが馴染み過ぎちゃったんですね。
藤田さんは、絵を描きはじめたのは、何がキッカケだったんですか?
藤田:父親が絵描きだったんです。
で、気がつけば絵の具が家にあったり、画集が家にあったり。小さいころから絵ばかり見ていましたね。
Kenmochi:お父さんはお仕事で絵を描かれていたのですか?
藤田:そうです。
ウチの親父は変わっていて、、、南の島で原住民と生活して、絵を描いて、帰ってくるみたいな。
西原:スゴい!ゴーギャン的。
藤田:半分世捨て人っぽい、寅さんみたいな感じです。
でも、だからなのか、ボクは”色”に関しては絶対的な自信があるんですよ。
カネコ:今回のジャケットもそうですが、日本人は普通には使わない色ですよね。
藤田:絵のデッサン力は、ぜんぜんダメなんですけれどね。
色だけは自信があって、3歳くらいから好きな色が変わっていないんです。
カネコ:お父さんもこういった色を使っていたんですか?
藤田:近いです。
中間色が基本で、原色の赤、青、黄みたいな色ではないんです。
Kenmochi:ご兄弟はいらっしゃるんですか?
藤田:兄がいますよ。次男だから二郎(笑)。
西原:Kenmochiさんは兄弟は?
Kenmochi:ボクは、ひとりっ子です。
西原:家族で音楽をやっているひとは?
Kenmochi:音楽の”お”の字もないです。
藤田:そうなんですか!?
Kenmochi:最近まで、ボクのやっている音楽を聞いたこともなかったですよ。でも、最近、少しづつボクの音楽を聞くようになってくれて、、、「いいんじゃないの!」って言ってくれたときは、うれしかったですね。
曲作づくり的には、音楽に興味のないうちの両親が聞いても成立するような音楽にしたいと思っていて、クラブミュージックってどうしても玄人好みというか、、、分かるヒトにだけ分かるものがカッコいいという感じなんですけれど、そこにプラスで普段まったく音楽を気かないヒトが聞いても、心に引っかかるようなものにしたいとは思っていますね。
それが、最終的にポップにつながると思っていて、いまも残っているクラブミュージックって、やはりメロディはシッカリありますから。いいと思える音楽って、コードのループが気持ちよかったり、、、根本的なポップさがあるんです。
藤田さんが、最終的に目指すところってありますか?
藤田:60歳まで現役でやれたら、世の中に恩返しをしたいですね。
社会貢献でもなんでもよくて、絵という形でもなくて、何か恩返しできればいいんですよ。
でも、夢という夢はとくには持っていないです。
Kenmochi:ぼくは、死ぬまで音楽はやっていたいと思いますね。
ココまでとかは決めずに、それを日々の日記というか、少しづつ自分の足跡を残して、最終的に「これだけのモノを残した!」と思えたらいいです。
藤田:ボクは、ジャケットのデザインをいままでに200枚くらいやっているんですけれど、年に1回ほど、いままでやったジャケットのすべてを床に並べて眺めるんです。
で、これからも誰かとコミュニケーションをとることで、さらに新しいモノができていくんだろうな、と、それらを見ながら思ったりしていますね。
Kenmochi:やっているときって、振り返らないですからね。
1年くらい経ってから、自分の作品を聴くと、意外といいことをやっているなって、そこで初めて客観的に見えたり、聴こえたりするんです。
そういうのを自分アーカイヴとして、最後に残せたらうれしいですね。
藤田:自分の音楽をいろいろなヒトに聞いてもらいたいという願望はありますか?
Kenmochi:そうですね。
でも、ボクの場合は、最終的にライブをやって盛り上がろうとか、そういうビジョンがないんです。
音源をつくって、自分の家のスピーカーで鳴った音が完成。つねに”自分 対 音”なんですよね。
これをライブとか、武道館で満員の観衆の前でやりたいとか、、、そういう形では音楽を作っていないから、ちょっと特殊かもしれないです。
藤田:ボクは、逆で”自分 対 世間”なんですよね。
「コレを買ってみよう!」という入り口をどう作るか?なんですよ。
カネコ:アルバム一枚を作るにしても、音源を作るヒト、ビジュアルで表現するヒト、レーベルとして動かすヒト、、、いろいろなヒトの関わりがあって、やっとこういう形のモノができあがりますからね。
藤田:世間の想像以上にいろいろなヒトが関わっていますもんね。でも、だから面白いんですよね。
カネコさんも、ヒトが好きだからメディアをやっているところもあるでしょ?
カネコ:そうですね。
基本的にボクのWEBマガジンの中心は”ヒト”なんです。
モノじゃなくて、それに関わったヒトなんですよ!
Kenmochi:ヒトとヒトをつなぐ支点みたいな役割ですよね。
藤田:そうそう!
そういった意味で最後に言いたいのは、こういう”つながり”を持たせてくれたセバさんには、すごく感謝しているというコトですね。
セバさんとの出会いから、ココに至るワケですから。
Kenmochi:つないでくれましたからね、いろいろと。
ボクは、ミニアルバムを2枚と、ファーストアルバムを、”Hydeout Productions”というだけで聴いてくれたヒトもいたし、、、やっぱりスゴいですよ。
藤田:これから先も、こういうつながりから始まっていくような、そういう生き方をしていきたいですよね。
例えば、この記事を北海道のダレかが見るだけでひとつつながるし、鹿児島のダレダレがCDを聴いてくれることでまたつながる、、、最高ですよ!
それが世に出すってことなんですよね。
カネコ:そうだと思います。
そうやってつながって行くのがいいですよね。
藤田:だから、死ぬまでやるでしょ?
Kenmochi:宿命ですね。
やらなかったら死にます。
カネコ:という感じで、本日はありがとうございました。
Kenmochi:ありがとうございます。
藤田:ありがとうございました。
西原:ありがとうございました。
(”Shakespeare”な対談 おわり)
>>> “Shakespeare”な対談(その1)はコチラ
>>> “Shakespeare”な対談(その2)はコチラ
Kenmochi Hidefumi
『Shakespeare』
レーベル:UNPRIVATE ACOUSTICS(UPRC-003)
価格:¥2,500(税込)
>>>レビューはコチラ
□プロフィール
・Kenmochi Hidefumi(釼持英郁)(写真 右)
1981年生まれ。
ガットギター・ピアノ・パーカッション等のアコースティック楽器を主体とした音楽に、荒削りで力強いビートを掛け合わせた独自のinstrumentalを制作するクリエイター。美しいメロディとスピード感溢れるプログラミングが螺旋状に溶け合うサウンドスケープは唯一無二な魅力を放つ。作曲・編曲・演奏・録音まで全て一人で担当し、2008年にHydeout Productionsより1stフルアルバム「Falliccia」をリリース。
2010年には、西原健一郎の音楽レーベル”UNPRIVATE ACOUSTICS”より、待望の2ndフルアルバム『Shakespeare』をリリース。
バンドマンでもDJでもない視点から、ポストロック・ポストクラブミュージックとなるものを模索中。
http://www.h-kenmochi.com/
http://twitter.com/h_kenmochi
・藤田二郎(jiro fujita/FJD)(写真 左)
1971年大阪生まれ。
大阪府立高専機械工学科卒業。幼少時代から画家であり、冒険家である父の影響で絵を描きはじめる。
デザイン事務所(インテリア、グラフィック)等でキャリアを積み、1998年よりフリーランス。
2000年よりFJDとして活動開始。
http://www.fjd.jp/
・西原健一郎(Kenichiro Nishihara)
1996年よりファッションショーの選曲を始め、ワールドワイドで多岐にわたるショーやイベントで音楽ディレクションを担当する。現在までwebやCMなど幅広い分野の音楽で作曲・プロデュースなどを手がけ、2007年にはアンプライベート株式会社を設立した。
音楽レーベルUNPRIVATE ACOUSTICSを主宰し、2008年7inchアナログシングル「Neblosa」に続き、1stアルバム「Humming Jazz」をリリース。2010年2ndアルバム「LIFE」を発表した。
http://www.myspace.com/kenichironishihara
http://www.waxpoetics.jp/blogs/nishihara/
http://twitter.com/N_UNPRIVATE
撮影協力:NIGHTFLY(@渋谷)
http://www10.ocn.ne.jp/~barcyde/nightfly-concept.html
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